第3話 エリスの実家

 サラはエリスに連れられて、エリスの実家に来ていた。


「手下に調べさせたが、確かにお前の言うように西の丘にヤマトの軍勢がおった。殆ど死んでおったがな。」


「ほとんど……」


「3人が意識不明の状態だが、お前はなぜそれを知っていた。」


「何故かは分からない。今のボクは目が見えないけど、心の目で回りが視られるんだ。」


「ボクだと?」


「ボクの身体は女だけど、心は男なんだ。だからボクだよ。」


「……よく分からないが、男として扱えば良いのだな?」


「そういう事でお願いします。」


「お、お父様、サラはまだ1才の幼子。言葉の意味もよく分かっていないんだと思います。」


「いや、おそらく教えてもいない言葉を話しているのだろう。エリスよ偏見を捨て一人の大人としてサラを見た方が良いぞ。それで、視えるというのはどういう感じで見えるのだね?」


「目で見るのとは違って、上から見た感じかな。だから、横にいるエリス姉さんが足を崩しているのも視えるし、廊下の左奥に2人待機しているのも分かるんだよね。」


「お前の家から敵兵のいた丘まで1里は離れていたと思うのだが、そんなに離れていても視えるものなのか?」


「それ位なら大丈夫みたいだね。」


 1里というのは、江戸時代に使われていた距離で、4km弱……つまり1時間に歩ける距離になる。

 仮にここが江戸時代の日本だとすれば、もっと鉄器が行き渡っていてもよさそうなものだが、サラの家には土器が生活の中心として使われていた。

 包丁についても、磨製石器と黒曜石が使われている。

 包丁が使われるようになったのは奈良時代からで、一般に広まるのは江戸時代に入ってからになる。

 もし、ここが古代日本であるならば、江戸時代以前という事になるハズだ。


 包丁が普及した背景にあるのは、徳川によって世の中が安定したからで、刀の需要が減った事で刀工が日用品である包丁を作り出したからだと言われている。

 つまり、刀が普及していて包丁が普及していないという事は、江戸時代以前であり、衣服や土器の状態をみれば飛鳥時代以降と考えられる。

 そして、部族長である曾祖父の持つ刀は、片刃で柄まで一体化した鉄製であり蕨手刀(わらびてとう)と考えられる。

 蕨手刀を使っていたのは奈良時代の蝦夷(えみし)である事から、ここは関東か東北の町という事になり、それは部族長の言葉に出た敵兵はヤマトという言葉を裏付ける事になる。


 ただ、そうなるとサラの知識にあるのは矛盾が生じる。

 サラは過去の人間に生まれ変わった事になってしまうからだ。

 まあ、それを確かめる方法はないとサラは思っている。



「お父様!ヤマトへの報復はなさらないのですか!」

 

「むう……」 


「お姉さまや、これだけ多くの犠牲者を出しているのですよ。ためらうことなどありません!」


「今は、町の復興が優先となる。多くの家を焼かれ、多くの民を失った。片付けの後に、家を立て直し体制を整えねばならぬ。お前にも分かっているであろう。」


「それが、アマテラス様を始めとした多くの神を祀るヒタカミ一族の部族長の言葉とは……」


「黙れ!我らの進む道を示されるのは陽巫女様ただおひとり。俺は、このカズサを束ねるだけの長だ。」


「そんな事を言っても、陽巫女様は一昨年お隠れになり、後継は決まっていないではありませんか!」


「後継はトヨ殿で決まっている。首領を継いでいないのは、未だ神託が降りていないだけのこと。」


「では、お父様は実の娘を殺されながら、何もなさらないのですか!」


「そうは言っておらん。まずは町を立て直すのが先だと言っておる。」


 この会話は、サラにとって興味深いものであった。

 ヒタカミ、アマテラス、ヒミコ、カズサこれらの単語はサラの知識にもある。

 だが、それらは大和朝廷が編纂した日本書紀等によるもので、それらも各地に伝わる口伝を書き記したものにすぎない。

 つまり、日高見に伝わる国生みがそこに記された可能性は大きい。

 ましてや卑弥呼・邪馬台国という名称に至っては、中国の歴史書に登場するだけのもので、どこからもたらされた情報なのか疑わしいことこの上もない。

 そして、カズサというからには、ここは太平洋側という事になる。つまり関東だ。


「お爺様、このヒタカミよりも北に、国はありますか?」


「おお、サラは賢いな。確かに北には古くから栄えるワコクが存在するぞ。その先は海の向こうにあるエゾじゃな。」


「もしや、ワコクの長はアテルイ殿ではありませんか?」


「ほう、サラはアテルイを知っておるのか。ワコクの首領は大墓公(たものきみ)と言ってな、アテルイはその息子となるハズだ。まだ10才にも満たないハズだが、弓の名手として名高いと聞いておる。」


「サラ、そのアテルイがどうしたの?」


「何でもない。聞いたことがあったなぁって……」


 アテルイは800年ころの蝦夷の首領だったとサラの知識は告げている。

 だから、ここは810年頃の千葉県付近と考えられる。

 

 やっと全体像が視えてきた。

 とはいえ、肉親に対する感情の薄いサラには、母親のかたき討ちとかは考えていない。

 肉体と魔力を鍛え、同時に知識を増やす事に専念していく。


 サラは額から頭頂にかけて酷い火傷を負っていたらしい。

 そのため、エリスに頼んで髪を剃ってもらった。

 目は開いているらしいが、そこからの情報は脳に届いていない。

 視神経を損傷したと考えていいだろう。


 頭の表皮の細胞を拡大して損傷を確認し、損傷した細胞を一つずつ除去して新しい細胞を増殖させていく。

 気の遠くなる作業だが、サラは2年かけてそれをやりきった。

 次は視神経だ。

 眼球の奥から繋がる神経を辿っていくと、見事に切れている部分があった。

 その両端を魔力で結び、細胞を活性化させて少しずつ伸ばしていく。

 これにも半年の時間を必要とした。

 

 それからのサラは、分子の特定に力を入れていく。

 祖父の刀から鉄を特定し、タマゴの殻からカルシウムを特定する。

 炭素や窒素は特定できているので、土の中の一番多い分子をケイ素と特定して、次に多い分子を抽出してアルミニウムを作り出す。


「な、何よこれは!」


「鉄よりも軽い金属で作った鍋だよ。」


「こ、こんなものを作るくらいなら、武器にした方が役に立つでしょ。」


「鉄よりも柔らかいから武器には向かないんだよね。でも、軽いからこういう生活用品としては重宝する素材なんだよ。」


「ついでに、鉄でお釜も作っておいた。これなら、交易所で色々と交換できるんじゃないかな。あっ、あと縫い針と糸通し皮むきも作ってみた。」


 日本で貨幣が本格的に作られるのは、ちょうどこの頃の大和朝廷で作られた和同開珎となる。

 銅で作られた和同開珎も一部で使われていたが、主流となっているのは塩やコメと布になる。

 一応は、族長の屋敷で使ってもらい、族長の許可が降りれば交易所へ持ち込む了解は得ている。

 その手配はエリスに任せて、サラは分子の特定に取り組んでいった。


 塩から塩素とナトリウムを特定し、土からカリウムやマグネシウムを抽出する。

 サラは地中の探査範囲を広げ、微量のチタンやニッケル・クロム・スズ・鉛等を特定していった。


 これらの金属を合成して、サラはステンレスを作り出し、人間大の人形にしていく。

 関節部分には炭素繊維を使って動くようにしたり、部位によっては球体を嵌め込んだりして仕上げていく。

 左手に盾を持ち、右手に剣を持たせたそれは……イメージはフルアーマーだった。

 そう、どこぞの錬金術師の弟の魂を定着させたとかいう、アレだ。



【あとがき】

 魔人像ってところですかね。

 さあ、どうなるのか……


 

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