第5話 カムロとの再会
「よく分からんが……、それならば息をとめて!」
いきなり坂上太郎丸が抜刀し、魔人イッチに斬りかかった。
筋肉の動きから行動を予測していたサラはそれを難なく左手の盾で受け流す。
「なにぃ!」
体制の崩れた太郎丸の胴体に、イッチの強力な蹴りが入って太郎丸は吹き飛ばされた。
「人間の身体というのは、必ず予備動作を必要とする。左足のふくらはぎと右手の前腕に力が入れば行動が簡単に予測できてしまう。」
「ぐふっ、やれ!殺して構わん!」
「仕掛けてきたのはそちら、手加減はしない。」
長槍を構えて突進してくる兵士の穂先を払い、イッチは敵を切り伏せていく。
ステンレス製両刃の長剣は、押し寄せる兵士の首や腕を薙ぎ払っていく。
サラにとってはゲーム感覚なのだ。
良心の呵責などない。
槍が身体を掠めても全く動じず、淡々と作業を繰り返していく。
敵兵は、恐れも見せず息切れすらしないこの相手に対し、次第に恐怖を感じていく。
やがて、一人の兵士が背を向けて敗走を始めると、全員が槍を投げ捨てて敗走を始めてしまう。
集団心理というヤツだ。
そして、敵の本陣ともいうべき集団をさらけ出してしまった。
赤い甲冑に身を包んだ30人程の集団と、それに守られた牛車と馬の引く荷車だ。
その牛車のすだれがあがって、場違いな男が姿を現わす。
袖の長い羽織を纏い、顔を白く塗った男であった。
「よい。我が始末してくれよう。」
男はそういって袂から紙を取り出した。
人型に切られたその紙には、何やら文字が書かれている。
「ほう、形代か。さしずめ、陰陽師といったところか。」
「形代や陰陽師を知っているとはな。まあいい、行け!」
陰陽師の手から放たれた形代は空中で鬼の姿に代わり、イッチの前に立ちふさがった。
身の丈2m50cmといったところだろうか。
青灰色をして、額に1本の角を生やしている。
だが、魔力で視ているサラには、色彩は見えない。
「趣味悪いんじゃね?どう考えても、悪党側の怪物だぜ。」
「ぬかせ。やれ!」
鬼の一匹が腕を振って殴りかかってくる。
もう一匹はタイミングを遅らせて動き出す。
一瞬悩んだ末、イッチはそれを受けてみた。
剣を地面に突き刺し、両手で拳を受ける……が、予想に反して拳は軽かった。
二匹目の拳は、片手で受け止められる程度だ。
「常人の3倍ってところか、ガッカリだよ。」
「なにぃ!」
イッチは剣を取り、鬼の背後に回って形代を切り裂く。
魔力で視ているサラには、形代など簡単に感知できる。
形代を切られた瞬間に鬼の姿は掻き消えていく。
「ぐわっ!……まさか、形代を切るとは……、貴様、何者だ!」
「カズサのイッチ。魔術師……いや、魔力師ってところかな。」
「お、おのれ……これをくらえ!」
陰陽師は再び袂から紙を取り出し、息を吹きかけて宙に放った。
3枚の形代は姿を変えることなくイッチを取り囲んで火炎を吐いた。
これは風の刃で切り裂いて無力化する。
切った形代を拾って、胸の物入れにしまっておく。
鬼に変化した形代も同じように回収した。
イッチは陰陽師との差を一気に詰め、首を刎ねた。
「うわわっ!バケモノだ!」
逃げ惑う兵士たちの回りから酸素を奪って昏倒させると、イッチは陰陽師の袂を探って30枚ほどの形代を手に入れた。
あんな鬼の軍勢を操れたら便利だろうなという思い付きだった。
サラは族長に報告して、丘の上の荷物を回収してもらった。
一番高価そうな牛車だけは、イッチに持ち帰らせる。
「なあ、その鉄の人形は本当に魔力ってヤツで動いてるのか?」
「そうだよ。実際に戦闘させてみたけど、殆ど傷もついていないし、戦力にできそうだね。」
「3000人を相手に無傷で制圧しちまうとは……」
「それよりも、他の町は大丈夫なの?」
「今、使いを走らせている。特に、首都ムサシの安否が気になるからな。」
ヒタカミの国は、首都をムサシに置いて、サガミ・カジマ・カズサ・シモフサの4県で構成された国だ。
ムサシまでは200キロ程の距離があり、片道10日はかかってしまう。
往復だと20日となり、何かあってから動いたのでは手遅れになってしまう。
サラの父親であるカムロも、ムサシの守護隊として赴任しているのだ。
「お爺様、ボクもムサシに行ってみるよ。」
「……どうやって行くつもりだ?」
「魔人に牛車を引かせようかと思ったんだけど。それだと時間がかかるから海にしようかと思っているんだ。」
「海か、その魔人も連れていくつもりなのか?」
「そうだね。牛車を改造して船に乗せていこうと思ってるんだ。」
サラは牛車の外装をアルミでコーティングし、車軸まわりをステンレスで強化した。
車軸受けも板ばね式で振動を抑え、車輪はベアリング付きのアルミフレームにしてやる。
ゴムはこの時代にはまだ発見されておらず、代替えできる素材もない。
そのため、木の皮を圧縮して車輪に巻いてある。
「本当に一人でいくつもりなの?」
「あはは、大丈夫だよ。じゃ、行ってきます。」
こうしてサラは海岸まで移動し、その場でアルミ製の箱を作って牛車とイッチを乗せた。
浮力とかは関係ない。
水で持ち上げながら移動するだけだ。
水上を時速50km程で移動して、2時間ほどでムサシの浜に到着すると、サラは船を荷車に再加工してそこに海水から取り出した塩を積んだ。
ついでに、周辺の海藻からグルタミン酸を抽出して、顆粒状にしてアルミの容器に入れておく。
海岸からムサシの都市部までは30kmほど移動する。
時速20kmで1時間半になる。
それよりも早い速度だと、車輪が跳ね上がってしまい乗っていられないのだ。
ムサシの町は、この時代には珍しく黒板の塀で囲まれており、外側には濠が掘られていた。
門には出入りを警戒する兵士が警護にあたっていたが、守護隊のカムロの娘だとイッチが告げるとあっさりと通された。
「ご無沙汰しております、お父様。」
「驚いたな、サラか。どうやってここまで来た。」
「このイッチに牛車を引かせてまいりました。こちらの状況は如何でしょう?」
「ヤマトの主力は、甲州路を通って八王子までやってきておる。俺もじきに八王子に向けて出発する予定なんだ。」
「御殿場から松田へ抜ける経路は使われなかったのですね。」
「松田から二宮へ抜けると、相模川を超すのが大変だからだろう。川越えするところを寒川から襲われたらひとたまりもないからな。」
「では、ボクも八王子へ同行しましょう。」
「いや、お前はまだ4つだろう。戦は父たちに任せておくが良い。」
「カズサでは、このイッチ一人で3000の敵兵を葬ってまいりました。必ずやお力になれるでしょう。」
「この、イッチというのは何者なのだ?普通の兵士とは思えぬのだが……」
「鉄よりも丈夫でサビない金属で作った人形です。私の”呪”の力で動かしています。」
「”呪”の力だと……、そういえばヤマトの術者が、巨大な鬼を操っていると報告にあったが……」
「ああ、その術ならば、このイッチが撃破しております。術の内容も解明してありますので、必要ならば再現可能ですが。」
「なにぃ!味方からは、甚大なる被害が出ていると報告が来ているが……」
「どうします。皆の前で弱点とか説明しましょうか?」
「ああ、可能であれば頼みたい。」
そして、サラは翌日、陰陽師の術を披露する事になった。
【あとがき】
この父親、少し胡散臭いですよね……
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