第27話

するとそこには、青い空と緑鮮やかな草木が綺麗に描かれているではないか。 なんとも言えない淡い色使いに私は思わず、


「うわぁ、上手だねー!」


と声をあげてしまった。すると彼はこちらを振り返り、ビックリしたような顔でしばらく私の顔を見たあと、ほんの少しだけ口元を緩ませて微笑んだように見えた。




 私は1歩、2歩とゆっくり彼に近づきながら、

「いつもここで描いてるの?」

と尋ねる。彼は再びスケッチブックのほうへ顔を向け、無言のまま「うん」と頷いた。


 会話自体を嫌がっているようではなかったので、そのまま絵を描く彼をしばらく見つめ、また話しかける。


「学校はどこ?」


 このあたりの学校は数えるくらいしかない。ひょっとしたら母校の後輩かもしれないし、そうじゃないとしても、彼の事が気になっていた私は何か質問をしたかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る