あこがれの場所

月夜夏瀬

あこがれの場所

「ねえ、知ってる? 屋上には天文台があるんだって」


 昼下がりの教室で、咲希さきが声をひそめて言った。窓の外では、春の柔らかな陽光が校庭の桜を照らしている。


「天文台?」


 私は教科書から顔を上げ、咲希を見つめた。彼女の瞳は、いつものようにキラキラと輝いている。


「うん、先輩から聞いたんだけど、昔は天文学部って部活があって、その人たちが使ってたらしいの。今はもう使われてないけど、そこからの星空がすごく綺麗なんだって」


 咲希は目を輝かせながら、そう言った。星空、天文台。その言葉を聞いた瞬間、私の胸はドキドキと高鳴った。


 私は、幼い頃から星を見るのが好きだった。夜空を見上げると、無限に広がる宇宙に心が奪われる。いつか、天文学者になって、宇宙の謎を解き明かしたい。そんな憧れを、ずっと抱いていた。


「行ってみたい!」


 私は思わず声を上げた。咲希は嬉しそうに笑った。


「でしょ?でも、そこは普段、立ち入り禁止なんだって。だから、誰にも見つからないように行かないと」


 私たちは放課後、人気のない廊下を抜け、屋上へと続く階段を上った。錆びついた扉を開けると、そこは風が吹き抜ける広い空間だった。


 目の前には、古い望遠鏡が置かれた小さな天文台があった。壁には、星図や天体写真が飾られている。私たちは使い方も分からない古い望遠鏡を覗き込んだ。昼間でも、天体望遠鏡を通せば星が見えた。


「すごい……」


 私がそう呟くと、咲希も小さく頷いた。


「ね、言った通りでしょ?」


 彼女は誇らしげに笑った。


 私たちはベンチに腰を下ろし、しばらくの間、他愛もない話をした。好きな星の話、気になる男の子の話、将来の夢。風が私たちの髪を優しく撫で、太陽が私たちの頬を温かく照らした。


 ふと、咲希が真剣な表情で言った。


「私、将来は絶対に天体に関わる仕事がしたいんだ。この天文台で星を見てたら、ますますそう思った」


「えっ、そうなの?」


 私は少し驚いた。咲希はいつも、色んなことに興味を持つ子だったからだ。


「うん、だって、宇宙って本当に神秘的じゃない? 私は、まだ誰も知らない星を見つけたいんだ」


 彼女の瞳は、遠くの空を見つめていた。その瞳には、憧れと希望が輝いていた。


「そっか……」


 私は少し寂しい気持ちになった。でも、それと同時に、彼女の夢を応援したいと思った。


「私も、いつか一緒に宇宙へ行きたいな」


 私はそう呟いた。


「うん、きっと行けるよ。だって、私たちはまだ若いんだから」


 咲希はそう言って、私の背中をポンと叩いた。


 私たちは夕焼け空の下、屋上を後にした。帰り道、咲希は言った。


「ねえ、今度は夜に来て、星を見ようよ」


「うん、そうだね」


 私は笑顔で答えた。


 屋上で見た星空は、私の心に深く刻まれた。あの場所は、私にとって憧れの場所になった。いつか私も、咲希のように、自分の夢を叶えて、宇宙へ飛び立ちたい。そう強く思った。

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