『あこがれ』の行き着く先は恋か友情か

日諸 畔(ひもろ ほとり)

大好きな理由

 大好きな人が二人いる。

 恋愛的な好きなのか友情としての好きなのか、未だにわからない。でも、とても大切で、胸が苦しくなるような感情ということは確かだ。


 好きと自覚したきっかけはたぶん、あこがれに近かったんだと思う。


 沙知さちはとても可愛らしい。

 長い髪はサラサラで、とても綺麗だ。少し眠そうに垂れた目は、見る度に幸せな気分になる。

 ぬいぐるみを集めたり、お菓子を作ったりが趣味。

 まさに、理想の女の子だった。


 芳人よしとは凄くかっこいい。

 小さい頃から続けているサッカーでは、上級生に混ざってレギュラー争いをするくらいだ。日焼けした肌は、とても健康的に見える。

 爽やかな笑顔で笑いかけられると、思わずドキリとしてしまう。

 そう、理想の男の子そのものだ。


 希望する性別も含めて、一見は正反対な二人だけど、共通する点がある。

 それは、一貫した『自分』を持っているところ。

 自分を男だと言う芳人と、自分を女だと認識している沙知。とても羨ましいし、とてもあこがれる。

 

 そんな二人が仲良くしてくれることは、純粋に嬉しいのだ。

 だから、あまりにも欲深いけども、二人とも手に入れたいと思ってしまっていた。でも、友人としてなのか、恋人としてなのかはハッキリしない。

 それに、選んだところで、選んでもらえるとは限らない。理屈ではちゃんとわかっている。でも感情は言うことを聞いてくれない。

 だからひたすら悩んでいるのだ。

 

「やっぱり選べない? 期限伸ばしてもらうように、一緒に先生のところいこうか?」


 沙知が心配そうにこちらを見つめる。


「とりあえず提出しちゃおうぜ。後から変えられるんだし」


 芳人がこちらの肩を軽く叩く。


「うーん」


 二人に挟まれてできることといえば、唸り声をあげるだけだった。


「よし、俺と沙知でジャンケンしよう」

「え、なんで芳人と私?」

「だって亜紀あきだけじゃ決まらんし」

「乱暴ー」


 二人が口論を始めてしまう。


「あ、ジャンケンしてもらえると……」


 なんとか手を挙げて、二人を止める。優柔不断すぎる自分がうらめしい。


「じゃ、俺が勝ったら亜紀は男な」

「私が勝ったら女の子ね」


 芳人も沙知も、同性の友人を求めている様子だ。つまり、二人とも恋人になることは望んでいない。

 自分勝手すぎるけど、少しだけ、ほんとうに少しだけ、胸が痛くなる。 

  

 十四歳の春、自分の性別を自分で選べる社会。選ばなくてはならない社会。

 ジェンダー論と生物化学の行き着く先は、選択を個人に突きつける。


「じゃーんけーん」

「ぽん」


 大好きな二人が、声を揃えた。 

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