夕日の約束

ヤト

転校前、約束を交わす瞬間

 夏の終わりのある日、光太は公園で一人ぼっちでボールを蹴っていた。友達はみんな帰ってしまって、空は少しずつオレンジ色に染まりかけていた。光太は、ちょっと寂しい気持ちを抱えながらも、ボールを蹴る足を止めることなく、次のシュートを目指して足を振った。


 その時、遠くから走ってきた影が一つ、光太の前に現れた。


「光太!」


 振り向くと、真希が息を切らせて立っていた。彼女は小柄で、いつも元気いっぱいに笑っている、光太の大切な友達だった。


「どうしたんだ? こんな時間に。」


 光太がボールを足元で転がしながら尋ねると、真希は少し照れくさそうに足を止めた。


「うん、ちょっと話したいことがあって。」


 光太はボールを一旦放り、真希の顔を見つめた。真希はしばらく黙っていたが、やがて深呼吸をして、少しだけ顔を赤くして言った。


「実は…来週、転校することになったんだ。」


 光太はその言葉に驚いた。転校? それも急に? 真希の言葉を理解するのに少し時間がかかったが、すぐにその意味を噛みしめた。


「え、なんで?」


「うーん、家の都合で引っ越しすることになったんだ。でも、大丈夫。すぐに新しい場所にも慣れると思うから。」


 真希は笑顔を作ったが、その笑顔にはどこか寂しさが隠れているように見えた。光太は無意識に、真希が大好きな友達だったことを再確認した。毎日一緒に遊んで、時には喧嘩もしたけれど、それも全部思い出になっていくのだろうかと思うと、急に胸が苦しくなった。


「そんな、急に…」


 光太は少し焦ったように言った。


「うん、私もすごく寂しいけどね。でも、これからもずっと友達だよね?」


 真希の言葉に、光太は思わず頷いた。「もちろん! でも、もう会えなくなるんだね…」


 真希は少し笑って、光太に近づいてきた。


「だから、最後にちゃんと言っておこうと思って。またね、大好きって。」


 光太は目を見開いた。彼女はもう少し顔を赤くして、照れくさそうに言った。


「え、でもそんなこと、照れるよ。」


 光太は恥ずかしさを隠すように首を振った。


「私も、少し恥ずかしいけど、ちゃんと言っておきたかったんだ。」


 真希は強い決意を込めて続けた。


「だから、言ってくれる?」


 光太は何も言えなかった。心の中で色々な感情が入り乱れて、どうしていいか分からなくなった。でも、真希の目を見ていると、どうしてもそれを言わないわけにはいかない気がした。


「わかった…またね、大好き。」


 その言葉が口をついて出ると、真希は満面の笑みを浮かべて、光太に手を差し出した。


「ありがとう、光太。」


 光太はその手を握りしめた。何も言わず、ただその温かさを感じた。二人はしばらく静かな時間を共有して、やがて真希が一歩下がって言った。


「じゃあ、またね。」


 光太もその言葉に応えるように、もう一度言った。


「またね。」


 真希は少しだけ振り返り、そして走り去っていった。光太はその背中を見送ることしかできなかった。彼の心は、どこかでまた会えるような気がして、少しだけ軽くなった気がした。


 夕日が沈み、空がさらに暗くなった。光太は一人、静かな公園に残されていた。胸の中にはまだ寂しさが残っていたけれど、真希と過ごした日々が心を温かくしていた。


「またね...か。」


 光太は何度もその言葉を繰り返しながら、ゆっくりと家へと向かって歩き出した。

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夕日の約束 ヤト @yato1234

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