ネームドの存在

 地上では、駆けつけていた飛竜ワイバーン編隊が、地元の自警団と連携して激しい戦闘を繰り広げていた。


 巨大な害魔獣の太い腕が轟音を立て、周囲の木々を巻き込みながら襲い掛かってくる。


 巨躯のわりに俊敏な動き。分厚い皮膚は強靭な鎧となり、生半可な武器では傷を負わせるのも困難を極めていた。


 さらに極めて高い再生能力を持つようだ。戦闘で負わせていた傷も、今は見る影もなくなっていた。

 この害魔獣、名は無いが強力なネームドレベルだと、現場編隊隊長、

 なか元作げんさくは感じ取っていた。


 副隊長が、ふと上空から何かが居りてくるのを見つけ、すぐさま、元作に報告する。


「隊長! 上空から何か降ってきます!」


 予想外の強敵に、余裕のない元作は、その報告が雑音に聞こえた。


「上見んな! 前の害魔獣に集中せんか!」


 死者こそでてはいないが、巨大害魔獣を相手に、防戦一方になる編隊と篠栗ささぐりの自警団。

 周囲にも小物ではあるが、侮れない害魔獣が包囲網を形成しながら、編隊と自警団を追い詰めようとしていた。


 元作の背筋が凍る。


 このままではやられるどころか、市街にまで被害が及ぶ。

 それだけは防がねば! 


 元作は手にした大型の斧槍ハルバードを構え、仲間たちを振り返る。

 彼らの眼前に、圧倒的な存在感を放ち、なお咆哮を上げる巨大な害魔獣の姿に、誰もが恐れを抱く。


「俺がひきつける。その間に体制を立て直せ!」


「た、隊長! そんな無茶を!」


「任せろ!」


 声を張り上げ、部隊を鼓舞する。

 さすがは隊長――元作の気迫に、兵たちの士気が高まる。

 地元の自警団の面々も、その姿に勇気を得たように瞳を輝かせた。


(うっわ~~、言っちまった……どうすっかなぁ?)


 内心では冷や汗をかいていた元作だが、害魔獣はそんな事情など解しない。

 ニヤリとあざけるように見下ろし、おぞましい雄叫びを天へと響かせる。


「しかたねぇなぁ! サンピンっち見下しやがって……そのツラぶちくらかすぞ!」


 元作が吠えた、その刹那――


 シュ!………


 鋭く空を斬る音と共に、害魔獣の首が


 いかに強靭で、驚異的な再生力を誇る害魔獣といえど、首を斬られては即死は免れない。


 ズドン!


  と鈍い音を残し、巨体が地に沈む。

 

 瘴気とマナが体内から溢れ出し、やがてその身は骨ひとつ残さず消滅した。


 あまりに突然の出来事に、元作たち編隊の隊員、自警団の戦士たちも、声を失う。

 取り囲んでいた他の害魔獣たちも動揺し、陣形を崩し始めた。


 ……


 元作に、最悪のケースがよぎっていたのだが、きゅうを助けてくれた今の一撃のが誰なのか、すぐに察しがついた。


 あの脅威を、まるで紙を切るように容易く屠った存在――


「おい! ラー坊! きゅうすぎやろが!」


「元作さん、遅くなりすみません」


 手にした美しい波紋のブロードソードを構え、先ほど巨大害魔獣が居た場所に立っていたのは、魔王城に仕える執事、ラーヴィだった。


 遥か上空から、トオリモンの背を飛び降り、その勢いを利用して、強靭な害魔獣に攻撃をしたようだ。


 まるで神業としか表現できない。


「小物が付近で三十体、殲滅しましょう」


 戦いはまだ終わりではない。周囲を包囲している害魔獣はまだ残っている。


「っしゃぁ! あともうちょいだ! 自警団の方々! 負傷者を連れて退避準備を、A班は自警団の退路確保! B班は自警団の退避をサポート! 残りは害魔獣駆逐するぞ!」


 元作が叫ぶと兵士たちは雄叫びを上げ、指示通り応戦に転じる。

 


「それじゃ瘴気現場の群れが多い場所貰いますね?」

「おいさ! 暴れてきんしゃい!」


 ラーヴィは音も立てずに滑走する。気づけば既に消えたような錯覚に陥る。


「んとに…アイツも大概化け物だよなぁ。味方で良かったよ」


 ボソリと呟く元作。どうやらラーヴィは魔王軍でも随一の実力者のようだ。


□ ■ □ ■


 僕は瘴気が発生している洞窟に向かっていた。

林道を駆け抜ける途中、林の奥の先々に、四体ほどの害魔獣の気配を察した……


 気配がある方へ向かいながらこの場にふさわしい相棒を呼ぶ。


Tar amachこい, mo chlaíomh beag白き牙の刃


 小さく呟くと、手元に魔法陣が淡く輝きを放ち始める。


 僕はその中心に手を入れ、そこにしまい込んでいた片刃のショートソードを掴む。


 魔法陣から取り出した、長さ約40センチ、幅5センチほどの刃は、今日も調子よさそうだ。


 月光のような淡い輝きを放ち、子供の頃から使いこんでる柄は、皮膚のように手に馴染む。


 そのまま敵に向かい疾走する。


 まだこちらに気づいていない、二足歩行の獣型の害魔獣……

 『リカント』と呼ばれる、人肉を好み、群れで襲い掛かる、一般人には脅威となる害魔獣だ。


 僕は、敵に気づかれる前にとびかかり、すれ違いざまに月光に輝くショートソード白き牙の刃を一閃する……


 すると、音もなく、害魔獣の頭は吹き飛び、そのまま瘴気をまき散らしながら、頭と体は霧散する。


 ――生命が尽きた害魔獣は、肉片すら残さずこの世から消え去る。

 それは先ほどの巨大害魔獣と同様の消滅現象。理屈はわからない。


 残る気配は三つ……林道を抜けた先にそれは居た。先ほど屠ったリカントと同じタイプの害魔獣だ。


 僕に気づいた三体が、一斉に動きだす。


 三方向から、あえて時間差で襲いかかる連携攻撃…

 単なる本能ではなく、狡猾さすら感じさせる戦術。


 だが――


 一体目が僕の足元を噛み千切ろうとしたので、その前に首を切り払う。

 二体目が背後から鋭い爪で襲い掛かったので、体をひねって躱し、返す手で相手の腕を掴み空気投げで相手の体制を崩す。刹那、手にした相棒で首を一閃。

 三体目は二体目の空気投げを利用し巻き込み、ひるんだ隙を逃さず、首を切り離す。


 林道抜けると、ショートソード白き牙の刃じゃめんどくさいな……

 こんな雑魚ばかりだと、遊びにもならない。さっきのネームドクラスはいったい?


 それに、今戦った場は開けていて、怒号のように、瘴気が発生している洞窟から大量の害魔獣が、こちらに襲い掛かってきている……さっさと片付けるか。 


Tar出でよ!, a chlaíomh mór破壊する者


 別の相棒に換えるか……ありがとう、相棒。

 僕は再び魔法陣を呼び出し、使っていたショートソード白き牙の刃をしまい込む。


 次に取り出したのは、こうした広い場所での乱戦で信頼している相棒をだ。


 長さは180Cmで、幅も12cmの、たよりになる大剣。僕はと呼んでる。


 厚みも重厚で、使用者のマナに呼応して、様々な斬撃を放つことが可能になる。


 僕は、大剣破壊する者を片手で持ち横に構え、腰を落とす。

 横薙ぎに一閃できるように、少し破壊するマナを、破壊する者に込める。

 刀身が青く輝き、破壊するオーラに包まれる。さてと……


 僕は向かってくる害魔獣達に向けて、横薙ぎに大剣を一閃すると、斬撃が衝撃波となり、害魔獣達を薙ぎ倒す。


 大群の害魔獣達は瞬く間に霧散した。辺りに静寂が訪れる。


 この場はこれでいいだろう。後は、元作さん達にまかせられる。

 すぐさま宗像へ向かおう。僕はトオリモンを呼び寄せ、すぐ背に乗り次の現場へ向かう。

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