ひな祭りの友達

小春凪なな

ひな祭りの時期にだけ会える友達

 私の父の実家は電車で一本の距離にある古い…歴史を感じる家だ。

 そこにはお父さんの祖父母が住んでいる。

 近いこともあり、行事があるとその家に行くことが多かった。


 歴史を感じる外観に違わず家の中も歴史を感じる家具が多い。

 ひな祭りに飾るひな人形も例に漏れず、お父さんが生まれた時には使われていた物だった。


「飾るの手伝って~!」

「………わかった」


 お母さんがゲームで忙しい私にそう頼む。本来なら断るか抗議の声を上げるところをお母さんの後ろにいたお祖母ちゃんの姿があったのに免じて引っ込めた。

 2年前にリフォームしてキレイになった廊下を二人の後から着いていく。何時もひな人形を飾っている部屋に着いた。

 ふすまを開けるとお祖父ちゃんとお父さんが大きな段ボールや木の箱の奥にいた。


「あ、母さん達ちょうど良かった。雛壇飾り終わったところだよ」


 力仕事を終えた男集は『先にお菓子頂いてくるよ』と言ってお祖母ちゃんが用意したと言うお菓子を食べに去って行く。

 食べきられる前に早く終わらせようとやる気を出してお祖母ちゃんとお母さんの指示に従って動くロボットになった。


 なんやかんやで毎年飾るのを手伝っているので手際よく終わらせる。7段もあるひな人形は毎年見ても圧巻だった。幼い時は小さいから大きく感じたと思っていたけど高校生になってもそれは変わらない。


 ひな人形飾りを手伝った者のみに許されるご褒美のお饅頭を食べていると今着いたらしい叔父さん叔母さんも来てお饅頭を食べ始めた。

 心の中でムッと思い、お饅頭を多めに取る。話に花が咲いている大人達はそんな私の行動なんて気付いていないらしく最近どこそこの親戚の娘が結婚式したーだの話していた。


 あまり顔を覚えていない親戚の話に、お饅頭を持って別の部屋に行こうかと考えていたが“親戚の娘”で1つ気になっていた事を思い出してそのまま隣のお母さんに訪ねる。


「最近ももちゃん見ないけど来てないのかな?」

「ももちゃんって?」

「ほら、ひな祭りの時によくいた」

「ええ?あかりちゃんとかりんかちゃんとかじゃなくて?」

「違うよ。あかりちゃんは4つも違うしりんかちゃんはまだ小学生でしょ。ももちゃんは私と同い年くらいの女の子だよ」


 それでもピンと来ないお母さんは盛り上がっていた親戚に訪ねる。


「ももちゃん?そんな子はいなかったと思うけど」

「近所の子供じゃないのか?」

「近所の親戚の子供とか?」


 親戚一同もピンと来ないようで記憶を探るようにしながらそれぞれが『知らない』と言う。


「違うよ!だって毎年この家で会ってたから!」



 ◆◆◆



「ありがとう。お菓子を持ってくるから隣の部屋で待っててね~」


 まだ小学生だった私は7段の雛壇にひな人形を飾るのは慣れておらず、飾り終えた頃には疲れていた。そんな私にお祖母ちゃんがお菓子を持ってきてくれるというので甘えて隣の部屋に行く。


「わぁ!今年も来てたんだね!ももちゃん!」

「…うん」


 繋がっているふすまを開けると疲れていたのも忘れて笑顔になった。

 そこにいたのは私と同い年くらいの女の子。雪のように白い肌、ツヤツヤの長い黒髪、桃の花柄の浴衣を着た綺麗な子、ももちゃんだ。


 その子は毎年ひな祭りの時期にしか会えない子だった。もの静かだけど遊ぶのは好きみたいで広い家を走り回ったり、元々あるお手玉とか双六で遊んだりしていた。


「今日は何する?」

「…かくれんぼしたい」


 ニコニコしているその子と話してかくれんぼを始めた。最初は私が負けたので隠れに行く。


「…みーつけた」

「エヘ、じゃあ交代しよ!次はわたしが鬼ー!」

「うん」


 交代しながら何回もかくれんぼをしていると近くにいたらしいお母さんに、


「走らないで!静かにしなさい!」


 と叱られてしまった。本気で怒ってはいないらしくふすまを開けたりされなかったのが幸いか。


「怒られちゃったね」

「…そうだね」


 だからかお母さんが離れた後にももちゃんとクスクス笑いあった。


 でもかくれんぼで怒られてしまったのは事実なので、遊びを変えて次はおはじきで遊ぶ。

 ………お祖母ちゃんが持ってきたお菓子が部屋にあるはずだと途中で思い出して部屋に戻って置いてあるお饅頭や煎餅を食べる。


「そーいえばももちゃんってひな祭り以外で会わないよね」

「うん。今の時期じゃないといけないから……」

「ふーん。お父さんとかの仕事が忙しいの?あっ、住んでる場所が遠いの?」


 曖昧に笑うももちゃんはハムスターみたいにお饅頭を食べていた。



 ◆◆◆



「う~ん。知らないわね」


 ももちゃんと遊んだことについて熱く語ったがみんなの反応は悪い。

 私にとっては当たり前だったももちゃんの存在を誰もが知らない事に混乱する。確かに小学校を卒業した辺りから会えていないが断じて気のせいではない。


「あの子はももちゃんって言ったのねぇ」


 すると、ずっと静かにお茶を飲んでいたお祖母ちゃんがのんびりと言った。


「お祖母ちゃん知ってるの!?」

「見たことはないけれどねぇ」


 やっと現れた味方のお祖母ちゃんに興奮気味に訪ねる。

 お祖母ちゃん曰く、『ひな祭りの時期になると小学生くらいの子供の声がしていた』らしい。私が生まれる前から。お父さんが子供の頃から。


「えっ!何それ知らない」


 仮にも子供時代を過ごした家で起きていたことにお父さんは声を上げる。対してお母さんやお祖父ちゃんは、


「小さな子供の笑い声を聞いたことがあるわ」

「私も!」

「この時期になると子供の走る足音がしてなぁ」


 と心当たりがあるようだ。


「ふふ。男の子や大人の前には現れないみたい。お姉さんは遊んだことがあったみたいよ」

「そうなの?全然覚えてないわぁ」

「小さい時に数回程度だったみたいだから仕方ないわよ。でも………」


 いつの間にか全員がお祖母ちゃんの話に聞き入り、言葉の先を待つ。


「貴女のことは気に入っていたのかよく遊んでいたわね。貴女と遊んでいる時は楽しそうな声が絶えなかったもの」


 それでも会えなくなってしまったのは、ももちゃんが小さな子供の前にしか現れないからだそうだ。


「遊びたいだけなんだよ。怖がらないであげてねぇ」


 その一言で『まぁ古い家だし、座敷わらし的な存在だと思えば怖くない』と実害がないからなのか全員あっさりとももちゃんの存在を受け止めて気にしないことになり、話は終わった。


 私はといえば仲良しだった子がいなくなってしまったことに少しショックで縁側に座ってぼんやりしていた。


「…ももちゃんとはもう遊べないのかぁ。寂しいな」


 そのまま後ろに倒れて寝っ転がった先、廊下の曲がり角のところに見覚えのある桃の花柄の浴衣が見えて固まる。


 ひらひらと手を振ったももちゃんは楽しそうに笑って行ってしまった。




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ひな祭りの友達 小春凪なな @koharunagi72

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