第28.5話  それから、綾羽

 金曜日の1限目。

やはり京極先輩は来るはずもなく。


 俺は、2限目が終わってから駅に向かうことにした。

駅前のスタバ午後1時。時間は十分にある。

待ち合わせには俺1人。


 美耶は一緒に行くより、俺1人の方が絶対にうまくいく、と断言した。


 辺りを見渡す。

黒髪になって雰囲気が少し変わったが、京極先輩なら見落とす訳はない。


 だてに、幼少の頃から、いろいろ鍛えていない。もちろん、観察力も。


 スタバの入口付近を見守る。

中に入ってたり、入口付近に居たりして、先輩が俺を見つけてしまえば逃げられる可能性があるからだ。

先輩は美耶が来ると思っているに違いないから。


 数分後。

白のワンピースで清楚な感じの、黒髪の女性を見つけた。間違いない、京極先輩。


 俺は、急ぎ足でスタバに入った先輩を追い、すぐ真後ろに並んだ。

先輩がレジの前に立って、注文をしようとする。


「ドリップコーヒーのアイス、ショート」

「を2つ。」

注文中の先輩の腕を掴みながら、千円札をレジに置く。


 先輩は目を丸くして、俺の方を見つめていた。

「ど…どう、して…?」

声を振り絞るかのように尋ねる先輩。

「心配したから、です。」


 俺は、優しく先輩の瞳を見つめた。

「分かった…逃げないから。」

そう聞いて、掴んだ手を離す。


 2つのアイスコーヒーが乗ったトレーを持って、窓際の席に向かった。


「恥ずかしいところ、見られちゃったね。」

切り出す先輩。

「…彼女さん、かわいい人だね?最近、出来たの?」

恐る恐る、という感じ。


「いえ。彼女では無いです。」

目を丸くする先輩。

「え?だってホテルに…」

「ええ。そういう関係です。」

「うそ…だって凄く真面目そうな人だったけど…」

「真面目なのは、そうです。かなりの真面目人間ですね。…でも、彼女には婚約者がいますから。」


 俺の言葉に、明らかに衝撃を受けている先輩。

「えっ??じゃあ、どうして…?」

「…先輩。」

「は、はい。」


 動揺している綾羽。

「先輩には、僕はどう見えているんですか?」

「そ、それはどういう意味??」

「僕は決して真面目人間じゃないです。婚約者が居る人ともセックスしますし、同級生とも。」

「な、なんで、そんなこと、私に。」

 暴露するのか?言ってくるのか?

 そんな表情をしている綾羽。


「…先輩のこと、本当に心配しました。会えなくなって、どれだけ心配したか、知らないでしょう?」

俺は少しだけきつい口調で綾羽に言った。

「だって…」

そう言って俯く綾羽。


「…先輩は僕のこと、嫌いですか?」

ストレートに言葉にする。


 美耶の言葉が本当なら、綾羽は俺に少なからず思いがあるはず。そこに賭けた。

「…嫌いじゃ、ないよ?」

ゆっくり、言葉にした綾羽。

さらに言葉を被せる。


「あの、ホテルに居た男性。別れた元カレさんですよね?やっと別れられたっていう。」

「……」

「どうしてです?俺じゃダメだったんですか?」

「……ダメじゃない…」

「じゃ、どうして…」

「修に、嫌われたって思いこんで…」

「そんなこと、一言も言ってないじゃ…」

「…ごめん…」


 涙がポタポタ落ちている綾羽。

周りの人間が注目し始めていた。

「…先輩。ここじゃ何ですから。ついて来れます?」


 黙って頷く綾羽。

俺は綾羽の手を握って、スタバから出た。

目的地は決まってる。


 ズンズン歩く俺に手を引かれながら、綾羽が尋ねてくる。

「修…どこに行くの?」

「もうすぐですから。」

「…」


 無言で手を引かれる綾羽。

そう、目的地はあのホテル。

俺は握った手に力を込めて、綾羽の瞳を強く見つめた。

「……」


 無言のままの綾羽。

「嫌なら、、無理しないでください。」

そう言ってまた、綾羽の瞳をじっと見つめる。

「……」

手を振りほどこうとはしない綾羽。

俺は、手を強く握ったまま、ホテルの入口を入って行った。


 部屋に入ってすぐ、俺は綾羽を強く抱き締めた。

「…痛いよ、修…」

「先輩のせいです。」

「…ごめん…」

そうして、頬を撫でて、顔を上げさせた。

唇を重ねる2人。


嫌がらない綾羽。


 ふと、綾羽が泣いているように見えた。

「ここに来たこと、後悔してます?先輩。」

「…ううん。」

「じゃ、どうして泣いているんですか?」

「……」

「あの時、言葉にしてくれていたら、僕でも何とか出来たかも知れません。けれど、言葉にしてくれなかったら、」


 言葉を遮る綾羽。

「私、汚れてるから。」

「そんなこと、ないです。」

「…そんなことある。何人も、知らない男に抱かれたりしてる。」

「…そんなことぐらい、」

「アイツに、元カレにウリさせられてたから…」


 そう言って、絶望した顔になる綾羽。

「毎日、アイツの連れて来た男に抱かれて…しまいには、何人もの男たちに……」


 とめどなく落ちる涙。

「自業自得なんだって…だから…」

「違います!」

「そんなこと!だったら、私を抱ける?」

涙を落としながら、キッと睨む綾羽。


「…証明します。」

俺は出来るだけ優しく…


綾羽の心を満たすように…


繋がって、綾羽をまた、強く抱き締める。

「…シちゃったね…」

綾羽が横を向いたまま、腕で自分の口を覆いながら呟く。

「はい…」

「動いて、いいよ…?中に出したって…」

「先輩。先輩は、俺と繋がって、どうですか?」

「ん…気持ち良いよ?」

「幸せ、ですか?」

「…うん…そうだね…もっと素直になれてたら…」

「今からでも遅くないです、先輩…僕の…俺の女になってください…綾羽…」


「…いいの?私を1人ぼっちにしない??」

自分の願望を口にする綾羽。


「綾羽が約束を守るなら。」

「や、くそく?」


「…あの男と切れることと…」

「うん…」

「他の女を抱いても、逃げないこと。」

「…他の女とも、するの?」

「うん。俺には捨てられない人ばかりだから…」

「……」

「いや?」


勝算は、綾羽の俺への思い次第だった。


「1人ぼっちにしないで…」

それが綾羽の返事だった。


「分かってる…約束するから…」

「約束…約束だから…」


「綾羽…絶対1人にはしないから…」

「…うん…修…信じてる。」

「好きだよ…」

綾羽は涙を一雫落として、応えた。

「私も…好き。」

 そうして2人は強く抱き締めあった。


 行為の後、綾羽は俺に密着しながら、泣きそうな表情で、またも尋ねる。

「…本当に…いいの?」

「綾羽こそ…俺、他の女性を抱いてしまうけど…」

「…そりゃあ、修のこと独占はしたいけど、そんなワガママ言えないから…時々、一緒に居てくれるなら。」


「あの男とも切れる?」

「修が居てくれて、寂しくないなら、むしろ2度と会いたくないくらい。」

「でも、あの男の言いなりになってたよね?」


 綾羽の顔が一気に暗くなる。

しかし、この話を避けては通れない。

「…そのくらい、1人ぼっちが怖かったの…」


 そう言って、顔を俺の身体に押しつける。

泣けてきたのだろう。

「もう、1人ぼっちにはならないよ。」

「…本当?本当に?」

「うん。俺の女になってくれたんだよね?綾羽。」

「うん…」

「じゃあ、俺の言うこと、聞ける?他の誰にも触らせたくないよ?」

「大丈夫。修の言うこと、全部聞くから。」


そこから、俺は持てる力で、綾羽を蹂躙する。

これは俺の得意分野だ。それこそ、蹂躙しながら、秘術を尽くす。


 情欲と、俺への思いが、頭の中で満たされていく綾羽をさらに追い込んでいく。

 俺には知られたくないであろう、元カレに何をさせられていたのか、何人と行為したのか…

1つ残らず白状させられる綾羽。


 俺は最後の仕上げに入る。


 綾羽を、何度も何度も最後まで導き、快感を身体に刻みこんでいく。


「修…」

 快感を刻み込まれた綾羽が、とうとう堕ちる。

「どうかした?」

「ヤバいかも…凄く満たされる…」


 俺は耳元で囁いた。

「愛してる…」


 そして、綾羽は俺の沼に堕ちていった。



「そろそろ…電話する?」

俺は優しく綾羽を抱き締めて、額にキスをした。

「うん…私にはもう、修が居るから。」

裸のまま、携帯を取り出す綾羽。

綾羽の携帯には、大量の着信。

当然、元カレだ。


 発信してすぐ、電話が繋がる。

スピーカー越しでも伝わる怒気。

「もしもし」

『なんや、オノレ!電話にも出んと何やっとんじゃ?!』

「……」

『ま、ええ。綾羽、おめぇ、家にすぐ来いや。』

「…行かない。」

『は?フザけたこと抜かすな!オレが来い言うたら、すぐ来るんじゃ!』

「…別れるから、行かないよ。2度と会いたくない。」


 綾羽が勇気を振り絞って伝える。

少しだけ、震えているのが分かる。

『おめぇ、そんなこと言っててええんか?おめぇの動画、バラまいてもええんやぞ?』


…動画?

まさか……行為を撮られてたのか?

「…いいよ。好きにしたら?」


 気丈にも、突っぱねる綾羽。

『…まぁ、スマン。オレも言い過ぎたけえ、機嫌直せや。』


 一変して猫なで声になる元カレ。

「機嫌とかじゃないよ。本気で別れるつもり。」

今までに無い真剣な声色。


『綾羽…頭冷やせや。おめぇのこと、拾ってやっただろ?』

「ホント最悪だった。私のこと、金ヅルにしか見てなくて。」

『んなことねーよ!2人で暮らしていくための金を作りたいって言ったじゃねーか!』

「信じられる訳ない。別にアンタと別れるのに、許可が要るとは思ってないし。」


『あーもう、うぜえな。動画、10マンで消してやるから、ぼっちにでも何でもなれや。泣きついてきても知らねーぞ?』

「アンタには関係ない。ぼっちになんかならないし。」

『うぜーな。今すぐ金持って来いや。それでチャラにしてやるから。』

 

 そう言って相手は電話を切った。

「本当にバカだったな、私…」

涙目になっている綾羽。

俺は優しく抱き締めた。


「大丈夫…俺が居るから…」

「修…信じていい?私を1人にしないって…」

「うん…あ、でも、俺の用事のときとかは…」

そう言うと、綾羽は微笑んだ。

「そのくらいは大丈夫。修が他の女を抱いても、私も抱いてくれるなら…」

そう言って軽いキスをした綾羽。


「行こう。」

俺は立ち上がって、綾羽の手を引いた。


「え?どこに?」

「2度と関わられないように、元カレのところに。動画、撮られてるんでしょ?」


「…別にいいよ、そのくらい。それに私、お金持ってないし。」

「大丈夫!俺、あるから。」


「そんな!絶対嫌。修に迷惑なんかかけられないよ。」

「迷惑なんかじゃないよ。お金で片づくなら、安いもんだし。」


「そんな…」

「大丈夫。いつか身体で払って貰うから、ね?」


 そう言って、綾羽を強引に連れ出す。

駅前のタクシー乗り場に向かいながら、元カレにラインを送った。


『八日市のファミレス』

一瞬で既読がつく。

『金、持って来いよ!』

…下品な輩だ。

俺はコンビニに寄って、余分に金をおろした。

持っていて損は無いだろう。


 タクシーに乗り込んで、八日市のファミレスに向かう。

綾羽がぴったりと寄り添いながら、ごめんね、と謝り続けていた。


「ううん…綾羽はもう、俺のモノだから、もう謝らなくていいから。」

「うん…私、修のモノだから…ありがとう…本当に。」

「怖いかも知れないけど、最初だけ、元カレの相手をしてね。途中から、俺が相手するから。」

「うん…頑張る。」


そうして、八日市のファミレスに到着した。

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