第29話 クズなチンピラはやはり…
ファミレスに着いて、外から中を見渡す。
ガラガラだから、すぐに元カレがまだ到着してないことが分かった。
俺は綾羽の座った席のすぐ後ろ隣の席に座って、様子を見ることにする。
暫くして、威張り散らすように歩いてくる若い男が店に入ってきた。
「綾羽〜機嫌直ったか〜?」
金髪にサングラス。チンピラの好きそうな服に短パン、サンダル。いかにもな、若い男が猫なで声で綾羽に話しかける。
「……」
無言で睨みつける綾羽。
「ほら、やっぱり会いたくなって、来てくれたんだろ?仲直りしよーぜ?」
「終わらせに来ただけ。動画、今すぐ消して!」
「チッ…下手に出てりゃ、つけあがりやがって…金は?」
「先に動画。携帯で撮ったんでしょ?見せなさいよ。」
チンピラが携帯をいじって、カメラフォルダの動画を見せる。
「ほらよ。上手に撮れてるだろーが。何なら大音量で再生してやってもいいぜ?おめぇの声が響き渡るだろーがな。」
チンピラはニヤニヤしながら、綾羽に詰め寄る。
怖いだろうのに、気丈に振る舞っている綾羽。
「フォルダの中、全部見せてよ。残ってたら、払い損になるから。」
「めんどくせーな、ほらよ!これで全部だろうが?」
どうやらフォルダの中はその動画一本だけのようだ。
綾羽がほっとしているのが分かる。
「んで、金は?」
俺はその言葉を合図に綾羽の横に座る。
キョトンとするチンピラ。
「んだ?!てめーは?」
「綾羽さんの、新しい男です。初めまして。」
少し煽るように話す俺。
「てめー!俺の綾羽、取りやがったな!」
掴みかかる勢いのチンピラ。
「…ですから、動画を消す目的で、お金で解決しようとここに参った次第です。」
俺は紙を1枚、机の上に置いて、チンピラに差し出す。面食らうチンピラ。
「なんだ、これ。」
「契約書です。よくお読みになってください。」
チンピラには小難しい文言の書かれている契約書。
動画を消すこと。綾羽に近づかないこと。
この2点を守る代わりに金10万円を支払う、と書かれている。
「そこの乙、のところに名前を書いてくだされば、お金を支払いますよ。」
俺は物静かにチンピラに告げる。
左手で綾羽の手を握りながら。
「……」
「このボールペンで、お名前、お願いします。」
「…30だ。」
「はい?」
「30万出せ。そしたら、本当に約束守ってやるから。」
また、ニヤニヤし始めるチンピラ。
金ヅルとでも思っているのだろう。
綾羽が何かを言いかけたのを静止する。
「分かりました。先にお名前を書いて頂けたら、ご希望の金額に致しますよ?」
綾羽が心配そうに俺を見つめる。
しかし俺にとっては、10も30も大差なかった。
「ほらよ!書いてやったぜ。金、寄越せよ!」
ボールペンで名前がちゃんと書かれていることを確認する。
寺元龍太
よし、これで後は動画を消せば…
「では、準備致しますので、その間に動画を消去して頂けますか?」
「金が先だろうが!」
「3倍も上乗せしたんですよ?やはり止めておきますか?」
チンピラは強く舌打ちした。
チンピラにとって30万は安くないのだろう。
綾羽の前に携帯を差し出して、動画の消去をした。
「ほらよ!金出せや!」
俺はコンビニでおろして少し膨れあがった財布を取り出した。
チンピラは札束の詰まった財布を見て、目を丸くする。
「これで30ですね。お確かめください。」
「お、おお…」
チンピラが札を数える。
間違いなく、30。ぴったり。
俺は契約書を折り畳んでポケットに入れ、綾羽を促して席を立った。
「では、私どもは帰りますね。ごゆっくり。」
レジに向かって歩き出す。
綾羽は振り返ることなく、俺の腕を掴んで、手を握ってきた。
「…ありがとう…」
会計をしている俺に改めて礼を言う綾羽。
「どういたしまして。」
微笑みながら、綾羽の手を握り締める。
そのまま手を繋いで、ファミレスを出た。
携帯でタクシーを呼ぶ。
その際に、綾羽に携帯で動画を撮れるようにお願いした。
綾羽はべったりと俺に身を寄せて、何で?と尋ねてくる。
「何かが起きたときに、動画撮って貰って、証拠にしようと思って、ね。」
「何かって?」
そう言ったその瞬間、殺気が後方からやって来た。
綾羽を背後に廻して、殺気と対峙する。
やはり…
殺気の主はチンピラ寺元だった。
「にーちゃん、随分、羽振りがいーじゃねーか?」
財布の厚さと、まだ若造の俺を見て、恐喝でもしようと思い立ったのだろう。
「オレにも金、まわしてくんねーかなぁ?痛い目に遭いたくねえだろう?」
いや、本当にチンピラだな…
今どき、こんなチンピラ居るんだな…
少し驚いてしまった。
「いえ。お断りします。」
「黙って金置いてけば、痛い目に遭わなかったのによう!」
綾羽が叫び声をあげた。
チンピラの拳が俺に命中したのだと思ったのだろう。
しかし俺は、その拳を避けて、チンピラの勢いを殺さずに腕を掴んで投げた。
勢いのまま、吹っ飛ぶチンピラ。
「この野郎!」
起き上がったチンピラが俺を掴みかかりに来る。
…遅い。
俺は顔面に掌底を打ち込んで、足を払う。
盛大にすっ転ぶチンピラ。
またも立ち上がって、こちらに向かってくる。
頭に血が昇って、見境ないがなくなっているのだろう。
骨の1本でも折れば、大人しくなるんだろうが、過剰防衛になりかねない…
チンピラの右手が大振りのストレートでやってくる。
骨が折れないように、投げないといけないな…
そんなことを考えながら、身体に染みついた動きが自然と発現する。
己が右手で引き込んで、左手で巻き込む。
そのまま身体を反転させて、勢いのまま、梃子の原理で投げを打った。
と、同時に巻き込んだ左手に嫌な感触が。
あー…やっちゃったな。どこか折ってしまったや。
地面に転がったチンピラが腕をだらりとして痛がっている。
いつの間にか、周りには人だかりが出来ていた。
俺たちの取っ組み合いを見物していたのだろう。
チンピラは痛みで転がりまわっている。
綾羽が青ざめた表情で俺の胸に飛び込んできた。
「大丈夫?修、ケガしてない?」
「無傷だよ。大丈夫。元カレさんはちょっとケガしちゃったかもだけど…」
俺が無傷なのを聞いて安堵する綾羽。
そのうち、タクシーとパトカーが現場に到達した。誰か通報してくれたみたいだ。
「あー…当事者はキミ?」
40代くらいの警察のおじさまが話しかけてくる。
「はい。」
「ケンカかね?」
「いえ…お金を支払って円満に解決した、と思ったら、いきなり殴りかかってきて…」
「ふーむ…正当防衛だと?」
「はい。」
「それにしては片方が転げまわって、一方的だな。お連れさんは彼女さん?」
「はい。」
「おーい!北嶋!ちょっと応援、1台呼んでくれ!」
「はい!」
「ちょっと申し分ないんだけど、彼女さんと2人、調書取らせて貰えるかな?中央署なんだが…」
「実はタクシーを呼んでいて…」
「ああ、タクシーには俺から言っておくから。あと、学生さんかな?保護者か身元保証人は近くに居られるかな?」
「はい。身元保証人が…」
「その人の連絡先も調書で取りたいんだが、大丈夫かな?」
「多分、大丈夫だと思います。」
「あー…アイツ、骨やってんな。北嶋!救急もだ!」
おじさまが、痛がって転がっているチンピラを見て言った。
北嶋と呼ばれた婦警が、威勢良く返事をする。
「分かりました!」
「じゃ、アイツ救急に渡したら、俺達と一緒に中央署、お願いな。」
そう警察のおじさまは言って、チンピラの方に行った。
チンピラは大層、痛がっている。
俺は、美耶にラインで事件の報告をした。
身元保証人を引き受けて欲しい、とも。
それから、綾羽の手を優しく握って、謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね…面倒に巻き込んでしまって。」
「いや、修は悪くないよ。こんな私のために、ここまでしてくれて…」
綾羽の目は潤んでいた。
怖い思いをさせたのに、勇気を振り絞ってくれた綾羽。
そっと抱き締めた。
救急車が来て、俺たちはパトカーに乗って、中央署へ。
綾羽はパトカーの中でもべったり、俺の傍を離れない。
心細いのだろう。
だから、大丈夫だから、と何度も手を握って、勇気づけていた。
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