小さなアイドル

宮田弘直

小さなアイドル

 保育園の年長組の担任になって一ヶ月。


 ようやく少しずつ落ち着いてきた我がクラスでは男女別々のものが流行っていた。


 男の子達は部屋の真ん中で仮面ライダーごっこをしたり、仮面ライダーの塗り絵をして遊んでいた。


 近年はYouTuberの話題が出る事が増えたが、やはり、戦隊モノや仮面ライダーはどの時代でも男の子達の興味を引く様だ。


 男の子達の様子を微笑ましく思いながら見守っていると、部屋の別の場所から黄色い声が聞こえてきた。


 その声につられて視線をそちらに向けると、女の子達が座って楽しそうに話をしていた。


 話題は最近デビューした男性アイドルグループについてで、誰々が格好良い、誰々が歌が上手という話でとても盛り上がっている。


 こうして、男の子と女の子の様子を見比べていると女の子の方が精神年齢が高いというのにも納得が出来てしまう。


 そんな事を思っていると、その内の一人であるみゆちゃんが視線に気が付いたのか顔を上げると、僕の顔をジッと見つめ始めた。


 何か言いたい事でもあるのだろうか。


 そう思っていると、みゆちゃんはジッと僕の事を見つめながら、「悠真先生ってよく見ると格好良いね」と、呟いた。


「えっ?」


 担任になってから一ヶ月の間にその様な素振りすら無かったので、僕はただ驚いてそう呟く事しか出来なかった。


 みゆちゃんの言葉に他の女の子達も私の顔を見ると、「確かにそうかも」、「りゅう君としゅん君の次に格好良いかも」と、楽しそうに話し始めた。


 りゅう君としゅん君とは最近デビューしたアイドルグループのメンバーでテレビで見ない日は無いという程の人気者である。


 そんな二人とただの保育士では比べるまでも無い。


「皆はアイドルがとても好きなんだね」


 この話題を続けてはいけない、と思った僕の言葉に、女の子達は嬉しそうに頷く。


「うん、大好き! だって可愛いし、格好良いんだもん!」


 思えば、アニメや特撮と同じくらい子ども達を夢中にさせているアイドルはすごいとふと感じた。


 子ども達向けに作られているアニメや特撮と違って、アイドルは特にそういった物を意識していないだろう。


 日々子ども達と過ごしている僕ですら関わり方を常に意識して、ようやくここまで仲良くなる事が出来た。


 そう思うと、直接関わっていないにも関わらず、ここまで好かれているのは、アイドル達が魅力に溢れている事が理由なのだろう。


 大人や子どもに関わらず、応援されているアイドルの凄さを改めて感じていると、「先生、見て見て!」と、みゆちゃんに声を掛けられた。


 目が合うと、「行くよ!」と言って何か歌を口ずさみながら、可愛いらしく踊り始めた。


 確か、みゆちゃんが口ずさんでいる歌は女性アイドルの曲だったはずだ。


 そう思いながら微笑ましく見ていると、「終わりー!」と元気良く言って、小さなコンサートが終わった。


「先生、元気出た? 私、可愛かった?」


「元気出たし、可愛かったし、それに楽しかったよ!」


 僕がそう言うと、「嬉しい! 私、大きくなったらアイドルになりたいんだ!」と、嬉しそうに言う。


みゆちゃんはそれ程、アイドルに憧れているのだ。


「みゆちゃんだったらなれると思うよ」


 僕が言うと、「やったー」と言って、再び楽しそうに踊り始めた。


 そんな姿を見ながら、将来みゆちゃんが皆に元気や夢を届けている姿を想像して、僕は嬉しくなって微笑んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さなアイドル 宮田弘直 @JAKB

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説