第3話 二週間もメッセージが続くなんて、あなたはきっと

リュウ:初めまして、リュウです。たくさんお話できたら嬉しいです。よろしくお願いします。


みらい:いいねありがとうございます。こちらこそ、いろいろおはなしできたらと思います(^^)よろしくお願いいたします!


リュウ:お写真の猫ちゃんは飼ってるんですか?可愛いですね。


みらい:去年まで飼ってた子で。亡くなっちゃったんです。でも猫大好きだから載せてます!猫好きな方とお話のきっかけになれば嬉しいなって。


リュウ:僕、猫好きですよ。実家で飼ってて。そういや小学生の頃、俺が可愛がってた猫が農薬なめてなくなりました(泣)


みらい:田舎あるあるですね……。うちの実家のネコちゃんもそのケースで天国行きになったことがあります。でも、今飼ってるネコちゃんは長生きしてますよ。




 そんな感じでみらいさんとのやり取りが始まって一週間、違う、に、二週間? やべー詐欺。詐欺の女だ。でもまだ、個人情報は引き出されてないし、LINEに誘導されてないし……うう、いつ詐欺するのかなあ。


 そんな悩みを抱えながら朝の総武線に乗り込む。四方をスーツ男性にぎゅうぎゅうされながら、会社へ向かった。みらいさんとぎゅうぎゅうしたい。あーだめだめ、さぎさぎさぎさぎ。


 昼めし時。俺はキッチンカーで買ったからあげ弁当をデスクでもぐもぐしながら、マッチングアプリを確認する。


「うおー、メッセージきてるわあ」


 え、みらいさんとのお話……楽しいよお。せめて普通の女性でフェードアウト希望。詐欺だけは詐欺だけは。


 きっとアイドルのような愛くるしい容姿の彼女は、常時100人の男とやり取りして、毎日のように誰かと会って詐欺をする手練れ。でも俺は、騙されるまでは婚活相手でいたかった。




 私は一人、ゆで太郎で昼飯をすませ、オフィス内のトイレで歯磨きをしていた。


 リュウさんはだいたい、お昼休みと思われる12時30分から50分あたりにメッセージを送ってくれる。会社員を装うためこの時間にしているのだろうか、それか会社員をしながら詐欺を働いているのだろうかと疑う。


 私は口内の泡をべっ、として流す。歯ブラシをケースにしまうのもそこそこに、テーパードパンツのポケットに手を伸ばし、スマホをつかんだ。


「お、メッセージ来てる」


 やり取りが始まって二週間。いつ変な場所で会おうって言われるのか、実家の母親が具合悪くて入院費用が、って言い出すのか……日々、ドキドキしながらすりすりと文字入力している。ああリュウさんとのやりとりが今の癒し。愛猫のタケルが亡くなって悲しかったけど、リュウさんのメッセージのおかげで今生きてるの。


 カラモクか詐欺なのは分かってるの。でも被害に遭うまでは夢を……。


 にしても、なかなか誘ってこないなあ。この手の輩は、わりとすぐ「ご飯行こー!」なのに。




リュウ:昼はからあげ弁当食いました。週2でくるキッチンカーがあって、うまいんです。みらいさんは何を食べましたか?




 都内、キッチンカー、週2。


 一応、真面目に働いているのかなあ。仕事が忙しいから今は誘えないパターンも考えられる。まだ1月だけど年度末にむけて、っていうこともあるだろうし。どこ業界か知らんけど。春になったら動き出すために、いまから信頼関係を構築しているのかしら。それだけのためにしては、粘り強く、まめにメッセージをくれるものねえ。割に合うのかな。そもそも何人と並行しているのかしら。佐藤健だから300人くらいだろうか。働きながらだと、300きついかも。じゃあ50人かな。毎週何人に会うんだろう。体力あるなあ。


 でーも。ゆで太郎のもりそばミにかき揚げ丼セットなんて、カラモクであろうと、詐欺であろうと、佐藤健に報告できない。いや、健君なら心広く受け止めてくれるけど、ちょっとは見栄を張りたい。


「……都内のOLっぽい昼飯ってなに?」


 大学生から都内に住んでいるとはいえ、好物がけんちん汁やほしいもな私は、カラフルなインスタ映えするメニューとは縁遠い。それに都内のランチは量が少なくてお腹一杯にならない上に高すぎて吐く。1000円以上の価値が見出せない。だから、ゆで太郎と格安弁当屋の日々。ゆで太郎はいいぞぉ。たまにカップラーメンと家で作ってきたおにぎり。特別な日はなんとかタワーのフレンチより坂東太郎に行きたいわあ。女将にもてなされたいわあ。


 私は必死に職場近くの女子が行きそうな店を脳内検索する。引っかかったのは、一度同僚と行った欧風カレーの店だった。正解か不明だけど、ゆで太郎よりはぽいはずだ。


 


みらい:同僚と欧風カレーのお店に行きました♪


リュウ:おお、女性はおしゃれなもん食べますね!野郎じゃゆで太郎が関の山っす! 




「女もゆで太郎だよおおおお!」


 私は思わずスマホに叫んでしまった。トイレの入り口に挨拶程度の後輩が立っていて、恥ずかしくなった。今両親と電話して喧嘩して、などと言い訳してみた。退職してえわ。


みらい:同僚がそういう、オシャレなお店やちょっといいランチに詳しくて。


リュウ:へえ。俺の思うちょっといいいランチは坂東太郎かな。都内はよくわかんないですねー。

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