第4話 何がなんでも繋がりたい私たち

 みらいさんとは、夜もメッセージのやり取りをする。大体、俺が帰宅、風呂、飯、ぼーっとテレビを見ながら体が落ち着いた時間にメッセージが始まる。内容はだいたい、雑談。他の女性たちとも似たような雑談だったはずなのに、ならフェードアウトするはずなのに、みらいさんとは続く。やっぱ詐欺じゃん。




みらい:お仕事お疲れ様です。私は今日、ちょっと残業。ご飯作りたいけどやる気がでなくてお弁当……。


リュウ:OKですよ。ほんと、残業後に飯なんか作れないですし。俺は定時で帰れたけど作る気あんまなくて、後輩無理矢理引っ張って日高屋してきました。


みらい:んー、日高屋!最近行ってませんねえ。日高屋と王将はたまに食べたくなります。今度行こうかな。


リュウ:そういう安い物も食べるんですね!


みらい:食べますよ~実家に帰ると坂東太郎です。


リュウ:あそこはちょっといいファミレスなんで高い気が(笑)


みらい:確かに(笑)リュウさん、ちょっといいランチっておっしゃってましたね♪


リュウ:みらさいさんち金持ち(^^)




 会社員というのが嘘でなければ、おおよその自由時間は同じなのかもしれない。それか、装うために時間を調整している可能性も否定できん。




みらい:でも、お肌だけは守りたいから化粧水やパックはしてから寝るんです。


リュウ:女性はすごいっすね。肌の事なんか考えたことない。どういうとこの化粧品使ってるんですか?


みらい:基礎化粧品はHABAで、パックはマツキヨとかドラッグストアで買える商品、いろんなのを試してます。ルルルンとかダーマ―レーザー、ごめんね素肌、お米のマスク、Wonjungyoとか。 コスメは最近、クレドポーボーテやNARS、KATEやセザンヌが中心かなあ。あ、春はランコムのリップ狙ってます。プチプラだとCipiCipiのハイライトが良さげなんですよ。


リュウ:全然わかんないのでググります;;


 


 疑えば疑うほど、苦しくて頭がフラフラする。病院行くレベルで不整脈。こんなに疑うなら、辛いなら、みらいさんとのやりとりは終わりにすればいいだけなんだ。何度も、やめようと思った。返事なんて返さないで、ブロックしようと思った。


 指が、ブロックボタンのスレスレで拒否する。


 俺は何がなんでも、みらいさんと繋がっていたかった。理由なんか分からない。本能だ。


 詐欺なのに、好きだ。


 会ったこともないのに、大好きだ。


 きれいな顔で、スタイル良さそうだから? 違う、そういうことじゃないんだ。説明できない好きなんだよ。


 俺と二週間もメッセージ? 常人なはずがない!! 猫好きの詐欺だ!!


 ……さて、たわいない雑談に返信しよう。




リュウ:みらいさんとのお話、とっても楽しいです。今度、実際に会いませんか? 都内住みですよね。新宿とか?




 ん?


 あれれー?


 太田君、雑談はどうした?


 無意識に俺の指は、会いたい旨を送ってしまった。メッセージは消せない仕様になっており、後悔しかできない窮地に陥った。


 


「のあー?!?!?!」


 ルルルンのパックをしながらアプリを確認したら、リュウさんからのお誘いが来ていた。


 ついに、その時。


 新宿だって。人混みに紛れてあんなこともこんなこともできる夜の街じゃん。カラモクの人だったのね。中途半端に良いプロポーションが憎いわ。


 まだ、ゆめ、みたい。




みらい:わー嬉しいです!でもいま、いろいろ忙しくて……とりあえず、LINE交換しません?




 これなら拒否したように、詐欺だと疑ってるように、思われないはず。LINEに移行するだけなのだから。文字の交流は続くのだから。




「きたー!! LINEへの自然な誘導!! なんてナチュラルでオーガニックで無添加なんだ!! HABA使ってるだけあるよ!!」


 俺は自然と涙がこぼれてきた。やっぱり彼女もその人なのだった。使ってるコスメメーカーをググった時点でそれが伏線だと気づくべきだったんだ。わー、美容に気を使ってるんだなあ、じゃねえんだよ。


 ここが潮時か。




リュウ:僕のIDです。




 あれー、ID教えちゃった。馬鹿だよ俺。今現在、世界一馬鹿だよ。


 これだから恋愛はイヤなんだ。


 バカになるから。


 でも好きになりたいんだ。2人で美味しいご飯が食べたいんだ。


 あー、でれすけ。




太田龍:友だち追加ありがとうございます。リュウです。桜川未来さん、っていうんですね。


桜川未来:こちらこそ、ありがとうございます。そっか、LINEの名前は本名のまま(笑)龍さんもですね。


太田龍:うお、マジだ。太田です(笑)超普通でなんの捻りもない名字ですいません。


桜川未来:なんで謝るんですか、私も大した名字ではないですよ~。すみません、私の都合でこちらに移行していただいて。


太田龍:いえいえ、ラインのほうが便利だし、いいと思います。アプリってちょっとまどろっこしいですよ。

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