第17話 入浴中にプルプルしてるヤツは危険

 温泉設備の解説も兼ねて、俺とティナがロッドさんの入浴に付き添う事となった。


 村長や一緒にいた村人たちは、金もないのに商品の吟味に余念がないとのことで、ロッドさんを温泉接待するのは俺たちだけだった。


 一緒に脱衣所へ行き、軽くロッカーの説明をして、ロッドさんには服を畳まずに中へそのまま投げ込んでもらった。


 すると中の洗浄装置が運転モードに自動で切り替わり、ブォンブォンという音とともに服の洗浄を始めてくれた。


 何度もチェックしていたので自信はあったが、実戦でしっかり稼働してくれたようで少しホッとした。


 そしてそのまま、ラマも引き連れて皆で一緒に湯場まで足を運んだ。


 ちなみにロッドさんは、自前の布で自身の大事なロッドはしっかり隠して湯場まで向かってくれた。


 ティナがいるからだろうが、そういう配慮はちゃんとしてくれる、まともな感性の持ち主のようで助かった。


 彼はこの村の住人よりはるかに常識人だ。


「ハァーン!」


 温泉に浸かったロッドさんの目は、これ以上ないほど大きく見開かれていた。言葉は理解できないが、表情からは感動が伺える。


「ヒヒーン!」


 一緒に入ったラマの口も大きく開かれた。


 ……おい。


 勢いに任せてお湯を飲むんじゃない、ラマ。


 腹壊すぞ。


「湯加減はどうだ? ロッドさん」

「フン、フンフン!」

「あー、えーっと……」

「このお湯、最高だって! よかったね、グレンさん!」


 そ、そうか。それはよかった……。


 ん?


「ティナ。君もしかして、ロッドさんが今なんて言ったのか、わかったのか?」


 村長だけじゃなかったみたいだ。摩訶不思議なこの言語を理解できるのは。


「えっ? グレンさんって、もしかしてマイン語知らないの?」


 マイン語? なんだそりゃ。


 魔国も人間世界も、扱う言語は万国共通じゃないのか?


「いや、聞いたことがないな」

「えー、割とメジャーな言語だと思ってたんだけど……」


 「フン」とか「ハハン」しか言ってないのに、どうやって理解してるんだ。


 俺が聞き取れていないだけなのか? 俺の耳がおかしいのか?


 まぁ、別にいいか。


「ハハァン?」

「えっ? ああ。アレはシャワーっていう装置でして……」


 頭に布を乗せ、顔に赤みを帯び始めたロッドさんが、物珍しそうにシャワーヘッドを凝視している。


 そうだったな。人間世界こっちにはない技術だから気になるのだろう。


 商売人の血が騒いだのかな?


 だがそういうことなら、せっかくだ。披露させてもらおうか。


「ウィンド、38℃のお湯を出せ」

「……」


 コイツ、また俺の言う事を聞かないつもりか。


「ウィンドさん、お湯を出してください。お願いします!」

「任しといてーや!」



 シャアアアアア……



 クッソめんどくせぇヤツだな、お前はほんと。


「!?」

「ヒヒーン!?」


 花のつぼみに似たシャワーの頭から細かな聖水の粒が舞い落ちる。その性能に驚嘆の表情を浮かべるロッドさんと相方。いや、ラマのほうは通常時から驚いたような顔をしているので、実際何考えてるのかよくわからんが。


「フフン!フフン!!」

「ええ、どうぞどうぞ。是非、頭から浴びてみてください!」

「フン!」

「あ、前は隠してもらえるとありがたいです」


 湯舟からザパッ立ち上がり、布を腰に巻いてノッソノッソと花つぼみの下まで移動するロッドさん。そのまま頭から聖水を浴び始めた。


「フゴッ!?」

「どや? 気持ちええやろ?」

「ファッ!」

「ティナちゃん、他の機能も見したろうや!」

「そうね! それじゃあ、ミスト!」



 ガコンッ



「!?!?」

「どや? すごいやろ!」

「ね? すごいでしょ!」

「……」


 さっきから、さも自分の手柄のように盛り上がっているティナとウィンドだが、それ作ったの全部俺だからな。


 ただ、ロッドさんが恍惚の表情で聖水を浴びるその様子を見て、俺の内心は確信を得ていた。


 これは、イケる!


「フン、フフン、フン!」

「えっ? いや、それ売り物じゃないんで……」

「なんだって? ティナ」

「このシャワーとかいう装置を売ってくれないかって、ロッドさんが」


 なるほど、そう来たか。


「……いくらだ?」

「100000フン!」

「えー! 100000リルだって、グレンさん!」


 いや、それは安すぎる。普通のシャワーならそれでも十分元は取れるが、中に搭載している精霊石は希少品だ。


 それを考慮すると、時価なら300000リルはくだらない。


 だがそもそもティナの言う通り、これは売り物ではない。


 このシャワー設備もこの村に多大なる恩恵をもたらす温泉設備の目玉装置。再度作るにしても資材がまた必要になるし、手間も考えると売るという選択肢はないな。


「スマンな、ロッドさん。これは売れない」

「ハァン……」

「ワイはここを離れるつもりはないで!」


 まぁ、中の精霊だけは取り替えたいところではあるけども。


 せっかくいい商品を取り揃えて、ここまで売りにきてくれたことは感謝している。だが今回は見送りだ。村の財源でも買えそうな資材を街まで買いに行くしかないな。


 ……ん?


「プルプル……プルプル……」

「あれ? ラマさん、なんか震えちゃってるけど大丈夫?」


 ティナがラマを少し心配そうな眼差しで見つめている。


 俺も目に入ったが、確かに何だか様子がおかしい。


「もしかして、この温泉の効能が効きすぎて、体調が悪くなったんじゃ……」


 動物には少し刺激が強すぎたか。もう上がってもらったほうがいいな。


 まぁ、表情は幸せそうなんだけどな……


「ヒ、ヒヒーン!!」

「!?!?」

「フゥ……」


 なるほど、そういうことか。理解した。



 ラマは、ウ●コした。

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魔国の専属鍛冶師をクビになった作業厨、限界集落で温泉をつくる 十森メメ @takechiyo7777

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