閑話 一方その頃、魔国では……【魔王視点】
「急報! 急報!!」
「なんだ、騒々しい」
「魔人都市アッガム陥落! 魔人都市アッガム陥落!!」
『なっ!?』
魔王城の謁見室に突如響きわたるあり得ない戦況報告に、我を含むすべての魔将たちが震撼していた。
「我が領土最大の要塞都市であるアッガムが陥落したというのか……」
「はっ! 四魔大神が一人、狂乱のガレス様も孤軍奮闘で頑張っていらっしゃったらしいのですが……」
自分の額に冷や汗が滲んでいるのがわかる。
これまで徐々に勢力を拡大しつつあった魔国の支配地が、あの日を境に少しずつ縮小していることは理解していたつもりだったが……。
だが、まさかこんな短期間で、魔国の主要な大都市圏までもが人間どもの手に落ちることになるとは、完全に想像の範疇を超えていた。
「敗戦兵からの伝言です!」
「なんだ、言ってみろ!」
「“装備が弱すぎて、まともに戦えなかった……グハッ!”だそうです!」
「ぐぬぬ……」
そう。理由はわかっているのだ。
ここ最近、魔国の国力が急激に減衰した理由。考えられる要因はひとつしかない。
わかってはいる。ただ、認めたくないのだ!
それを受け入れることは、我の完全なる落ち度を認めることと同義。よかれと思って下した決断が間違っていたことを意味する。
「魔王様」
「な、なんだジャラン! なにか言いたいことがあるのか!?」
「僭越ながら。ここ最近の国力低下は目に余ります」
腹心の魔軍師ジャランが我を
目がコワイんだけど。
「ジャラン! き、貴様……」
「魔国のあらゆる製造品がここ最近、物凄く弱体化していることがその原因です」
「そ、そんなことは……」
「だから私は反対したのです! あの男を、この魔国から追放することに!」
ズバッと真意を貫かれ、たじろぐ我。あえて言わなかったのに、そんなにハッキリ皆の前で暴露しなくても……。
「お、お前も止めなかったではないか!」
「重々、再三。ご進言は申し上げていたはずでございます」
た、確かにコイツは言ってたかも……。
「いやアレはなぁ……あ、ほら。あんな勢いで止められたら、逆にヤレってことかと思うじゃん?」
「どこぞの某有名ギャグに影響されすぎです、魔王様」
そ、そんなことないし!
「そもそも、あの鍛冶師に仕事をさせすぎたのですよ。装備品に限らず、普段使う生活用品や城の修繕に至るまで、彼一人にあまりにも依存しすぎていたのです」
「いや、だって彼さ。文句のひとつも言わず、お願いしたモノはなんでもすぐに作ってくれたし、壊れたモノはすぐに直してくれたじゃん? 楽しそうにやってたし、そりゃ色々頼んじゃうよね」
「それがそもそもよくなかったのです!」
「何故だ!? 魔王からのありがたい依頼の数々! やりがい、ありまくりだったハズだぞ!?」
「
意味がわからん。
理由はどうあれ、仕事とはやりがい一番でやるものではないのか?
「それと装備や修理の問題もさることながら、魔王軍のモチベーションも今は最悪の状況です。先日、若手兵士へアンケートを実施した結果をご覧ください」
ジャランがパッと書状を広げると、そこには色とりどりの不満が列挙されていた。
【魔王軍・若手兵アンケート】
Q1. 最近の装備について、どう思う?
→「キラキラしてるだけ」「実用性ゼロ」「呪いがなくてつまらん」
Q2. グレンがいなくなって変わったことは?
→「城がボロくなってきた」「防具がペラい」「飯が不味く感じる」
Q3. ぶっちゃけ、今のままで戦えると思う?
→「ムリ」「死ぬ」「亡命一択」
「ぐぬぬぬぬ……」
我のこめかみが、かすかにピクついた。飯は絶対関係ないだろうが!
だが、そうも言ってられない事情は十二分に理解した。
「グレンを連れ戻す!」
「ようやく決心されましたか、魔王様」
若手の意見は貴重だ。
アンケの結果がそうであるならば、背に腹はかえられぬ!
「だが追い出した手前、今さらヤツに頭を下げるのもシャクだし……向こうから“どうしても戻りたい”と言わせたいのだが、何かよい手はないか? ジャラン」
我は魔王だ! 死んでも首は垂れぬ!
「都合が良すぎです、魔王様。それにグレンは今、辺境のとある村で温泉をつくって村娘とイチャイチャパラダイスとの噂です。そう簡単には戻らないでしょう」
な、なぁぁぁにぃぃぃ!!
「イチャイチャパラダイスだとぉぉ!? 魔国が今こんな状況になっていると言うのに、グレンのヤツは1人だけ田舎でまったりハーレムスローライフを満喫しながら、あんな事やこんな事をしていると言うのかぁぁ!!」
「いえ、そこまで詳しいことは知りませんが。あと魔国の惨状は魔王様の自業自得でございますので、お忘れなきよう」
「ぐぬぬぬぬ……」
「おそらくグレンが呪いの装備しか作れなくなったのは、彼になんでも仕事を押し付けて、ストレスの限界を超えてしまったことが原因だったのかと推察します」
「そ、そうなのか?」
「おそらく。ですから、もし彼が
止まらぬ「ぐぬぬ」とともに、我は玉座の上で、見事に項垂れていた。
こうして、魔国最強の支配者である我は、自らの意思で手放した鍛冶師を、喉から手が出るほど取り戻したくなっていたのであった。
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