エピローグ

第44話 エピローグ

 ボクたちがAWアナザーワールドをクリアしたあと、なぜかもうAWアナザーワールドにはログインできなくなってしまった。

 今まで通りの手順でゲームを始めると、開発中のゲーム画面になってしまう。あの場所へは、もう2度といけないのかもしれない。それが、なんだか少し寂しかった。

 ダークエルフのキリさんや、竜人ドラゴニュートのキジナさん。冒険で出会った様々な人たちキャラクターとは、もう会えないということだから。


 ──でも。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 日曜の午後、ボクは喫茶店にいた。

 ボクの向かい側にはキリさんが座っている。

 約束だった喫茶店。

 喜んでもらえると思っていたが、キリさんはすこし不機嫌そうだった。


「キリさん、どうかしたんですか?」

「何でもない」

「それは絶対に何かあるやつです!」

「別に、大したことじゃない」

「じゃあ教えてくださいよ」


 キリさんは唇を尖らせて、下を見ながら言った。


「なんか、さん付けが嫌だ。キリって呼んで欲しい」


 それは。なかなか難しい注文が来てしまった。

 キリさんは、言うなれば命恩人だ、それを呼び捨てにするなんて。


「呼び捨ての方が、良いですか?」

「そりゃそうだろ。年上から『さん』付けで呼ばれてみろ。気持ち悪いだろ」


 あとから分かったことだけれども、キリさんは現実ではボクより年下だった。確かに、年上からは " さん " 付けはちょっと変に聞こえるかもしれない。

 それに、キリさんの言うことだから、全力で頑張ろう。そう思った。


「キリ──さん」

「さん、つけてるじゃん!」

「キリさんはキリさんです! 努力しますけど、すぐには難しいです」

「分かった。じゃあ私もテルに『さん』を付ける。これなら公平だろ」


 何が公平なのかは全然わからなかったけど。

 でも、キリさんの気持ちは伝わった。


「じゃあ、呼んでみて下さいよ。絶対変な感じがすると思いますよ」

「そんなの簡単だって。なぁ、 " テルさん " ──」


 そこから先の、キリさんの反応は面白かった。

 なんでもない表情をしたまま、顔が真っ赤になっていった。

 恥ずかしい、という気持ちを隠しきれていないところが。そして、キリさん自身はうまく隠せていると思っているらしいところが。

 それがなんだか、可愛くて、ボクまで顔が赤くなってしまった。


「なんだテル、顔が赤いぞ」

「すみません。想像以上に可愛くて」

「──可愛いとか言うな! 恥ずかしい! 私は言ったんだ。次はテルの番だぞ」


 キリさんに言われて、ボクは覚悟を決めた。


「キリ──さん」

「さん、ついてる!」


 そういわれて、怒られてしまった。


「すみません。ちょっとずつなおしていきます」

「うん。そうして」

「分かりました──キリ……さん」

「おしい! もう少し」


 行ける。次は絶対に行ける。

 そう思って、その言葉を口にしようとしたとき。


「キリーッ!」


 呼び方のお手本のような声が聞こえて、白衣を来た人がキリさんに抱きついた。


「ちょっと、師匠! 離れてください!」

「もう師匠じゃないぞ。キジナさんと呼びなさい!」

「ハイハイ分かりました。キジナさん離れてください」

「うむ。よいよい」


 キジナさんはそういうと、満足そうにしてキリさんから離れた。


「キジナさんはどうしてここに?」

「開発途中だったゲームが完成してな。祝いパフェを食いに来たんだ」

「新しいゲームですか?」

「ああ。AWアナザーワールドのせいで開発が滞っていたヤツだな。やっと完成した。なんだぁ。遊んでみたいって顔してるなぁ」

「ええ。体験プレイができるようになったら、ぜひお願いします」

「そうかそうかぁ。ちょうど通しプレイをしてみるところだったから、テルも参加しろ」

「ありがとうございます。いつ行けばいいですか?」

「今からだよ。パフェは持ち帰りにするか、2人とも準備しておけ」


 そういって、キジナさんはパフェを注文しに行ってしまった。

 ボクはキリさんと顔を会わせる。

 キリさんはボクを見ながら言った。


「良いこと思い付いた。私、チビキャラにする。だからテルは身長高いキャラにして。そうしたら、キリって呼びやすくなるんじゃない?」


 そうれから「ねっ」と笑顔。

 ボクは、この笑顔に完全にやられてしまった。


「──はい」

「決定! じゃあ、行くぞ!」


 キジナさんに急かされて、ボクたちは並んで歩き始めた。

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Re:GAW ~Game of Another World~ 文月やっすー @non-but-air

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