第12話 提案

 家の中は、本当にめちゃくちゃだった。

 本や紙やらが、縦横無尽に散らかっていた。

 足の踏み場もない、なんて言葉があるが、まさにソレだった。


「相変わらず、散らかってますね」

「そうか? まぁ、そうかも知れんな。でも、世紀の発明のためには些末なことだ」

「また工作ですか? 今回は何を作ってるんです?」

「カメラだ。原始的なヤツだがな」

「カメラなんか何に使うんです?」

「色々なことに使える。まぁ、敢えて挙げるなら、情報伝達を容易にすることが大きい。それこそカメラ一つで、一世紀は時代が進む」

「そいつはスゴいですね」


 師匠さんは満足そうに頷くと「適当に座ってくれ」。

 「じゃあ遠慮なく」と返すキリさん。

 椅子に腰かけると、慣れた様子で、テーブルの上にある紙や本を綺麗に重ねて、邪魔にならないように脇へと置いた。


「空いたぞ。テルも座れ」


 ボクは「はい」と答えて、キリさんの横の椅子に座った。


「ずいぶん可愛らしい道連れだな」


 そういってボクの方を見て、口の端を挙げて見せる。ボクがどう反応すれば良いのか困っていると、師匠さんはすぐにボクを視線から逃した。それからキリさんを見て、目を細めた。


「やはり、弟子の元気な顔を見るのは、気持ちの良いものだな」

「それは良かったです。それはそうと、師匠にお願いがあるのですが」

「さっきも聞いた。この子を預かってくれ、っていうんだろ」


 そう言って、再びこちらを見る。

 さっきのことで準備ができていたので、今度は余裕をもって挨拶ができた。


「テルです。よろしく願いします」


 そう言って頭をちょこんと下げると、師匠さんは目を細めた。

 その目はボクを見ているような、それでいてどこか遠くをみているような、不思議な感じを受けた。

 それも一瞬。

 師匠さんの顔は笑顔へと変わった。

 その表情をみたら、言葉はなくても、歓迎されているのがわかった。キリさんは師匠さんのことを優しいと言った。その理由がわかるような、温かみのある笑顔だった。


「キジナだ。よろしくな」


 キジナさんはそう返すと、視線をキリさんに向けた。


「キリ、お使いを頼めるか?」

「なんです?」

「実は食料の蓄えが少なくなってきていてな。どうしようかと思っていたところだ。客人をもてなすにためにも食料を調達しておきたい。材料は書いておくから、お使いを頼まれてくれ」

「私は客じゃないんですか?」

「キリは客人じゃない。私の大切な弟子だ。だからこうして、頼みごともできる」

「それって。良いように言ってますけど、結局師匠権限で使いっ走りに行って来い、ってことですね。まぁ、別に良いですけど。その代わり、貸し1つですよ」


 キリさんは「やれやれ」と言うように立ち上がった。師匠さんは満足そうに頷くと、散乱した紙の中から、ペンを取り出した。それから適当な紙に何やら書き込みをし、キリさんに渡す。


「ちょっと師匠。なんか多くないですか?」

「備蓄分も入っているからな。普通なら1日かかるかもしれないな。でも、キリなら陽が沈む前には帰ってこれるだろう。それが出来るように教えたんだから」


 キジナさんの言葉に、キリさんは溜め息をついた。


「これは貸し2つ分ですよ」


 キリさんはそう言って、部屋を出て行った。静かに扉が閉められると、キリさんの足音はだんだん小さくなり、すぐに聞こえなくなった。

 部屋には、ボクとキジナさんの2人だけだ。


 何かを始める合図のような「さてと」。

 それからキジナさんは、ボクの方を向いた。


「私はキジナ・レイ。種族は竜人ドラゴニュート。職業は錬金術師アルケミストだ。そっちは?」

「シンドウ・テルです。種族は、幼獣人シャルカです」


 その言葉を歓迎するように、キジナさんは僅かに目を細め口の端をあげた。


「さて、テル。──ちょっと秘密の話をしようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る