想いを言葉にして
第11話 師匠
「着いたぞ。ココが目的地だ」
影との戦いから翌日の昼過ぎに、ボク達はとうとう目的地に着いた。
空を覆うように木々が立ち並ぶ鬱蒼とした森の中で、その場所からは青く広い空が見えた。太陽の光が柔らかに差し込み、澄んだ空気が流れている。小さな川があって、たぬきのような小動物が、親子で川に口をつけ水を飲んでいた。
キリさんは目をつむり、「ん~」と体を伸ばし、深呼吸をした。
「やっぱり、ここは気持ちがいいな。空気も良いし、のどかだし。落ち着く」
「スゴイですね。ここだけ別世界みたいです」
「なんでも、師匠が切り拓いたらしい。普通なら眉唾物の話だけど、師匠なら本当にやりかねないからな」
「これを作るって。師匠さんって、一体どんな人なんですか」
キリさんは顎に手を当てて、少し考えた。
「人じゃないな。種族としてもそうだし、中身も化け物だ。錬金術とか、魔法、占星術、数秘術。大抵の分野において並はずれている。基本的に優しいけど、怒ると本気で怖いな。まぁ、総じてイイ人なんだろうけど。あとはなんだ、自分で会って見てみるのが一番だな。行くぞ」
そう言うと、キリさんは歩き出した。
その先には木で作られた小屋がある。
多分、師匠さんの住んでいるだろう。
小屋に着くと、キリさんは扉をノックした。
「師匠、キリです。いますかー」
その声に対して、返ってきたのは足音だった。
軽く小刻みの足音は、小さい子が走ってくるようだった。
その足音は扉を開けると、勢いそのままにキリさんに飛びついた。
「キリーぃ!」
嬉しそうに声をあげながら飛びついてきた子供を、キリさんは抱きとめた。
「急に飛びついたら危ないですよ」
その子は両腕をキリさんの背中にしっかりと回し、離さなかった。子供の後ろにはトカゲのような、硬い鱗質の尻尾が生えていて、それを子犬のように左右にブンブン振っている。
「キリ。元気してたか?」
「ええ、元気にやっていましたよ。今日は頼みごとがあって来ました。落ち着いて話したいんで、中に入ってもいいですか?」
「ちょっと待って!」
子供はそう言うと、家の中に走って行った。
それから、物を動かすような音が聞こえてきた。
「ずいぶん、気に入られてますね」
ボクの言葉に、キリさんは眉をしかめて微妙な表情をした。
「まぁ、なんだ。否定はしないが、複雑な心境だな」
「なんでです?」
「師匠だ」
突然出てきた言葉。
その意味が咄嗟にわからずに、聞き返した。
「師匠?」
「あの人が、私の師匠だ」
「――え?」
陽気な足音が近づいてきた。
子供はニコニコしながらキリさんを見ていたが、隣にいるボクを見つけると、あんなに嬉しそうだった笑顔を、どこか奥底にしまった。それから「コホン」と咳払いをした。
「そちらの方は?」
その声に、子供らしさはなかった。
幼いのに落ち着きのある声。
さっきの様子との落差に戸惑う。
大人として対応したほうがいいのか。
子供として接したほうがいいのか。
ものすごく迷った。
そんな様子を察してか、キリさんが答えてくれた。
「こっちはテルです。師匠にテルのチューターを頼みたくて、連れてきました」
「なるほどな。色々聞きたい事があるが立ち話もなんだ。中で話を聞こう」
師匠さんはボクたちに背を向けて中に入っていった。
その尻尾は穏やかに、でも嬉しそうに揺れている。
師匠さんが家の中に入り見えなくなると、キリさんは言った。
「師匠は私に甘くてな。気にかけて貰えてるのは嬉しいんだが。つまりは、だ。お互いのために、最初のは見なかったことにしてくれ」
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