♠ 世界樹とカラドリウス
第1話 転生、記憶がない
目が覚めると、広大な草原だった。上体を起こし、思わず目をこする。
「……は?」
目に入ったのは、空の青と地平線の白。そして、広い草の海だった。
……え? ……噓……だろ?
「な、なんで……こんな所にいるんだ……?」
慌てて周囲を見渡すが、人影はない。というか、建物一つない。ただ延々と草原が広がっているだけだ。
……なんだこれ? どうなってるんだ……?
「お、落ち着け……」
混乱した頭を必死に落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。
……そうだ。まずは現状把握だ。どうして、俺はここにいる? ここに来る前の最後の記憶は……確か、上から木材が降ってきて…。
……いや、違う。
そうだ。俺はあの時、死んだはずだ。
頭上から降ってくる大量の木材に押し潰されて……。
なら、ここは天国なのか? それとも死後の世界ってやつか? ……でもそれにしては、現実感がありすぎる。
……なら、これは夢なのか?
「いや、違うな……」
頬をつねってみる。普通に痛い。夢ではないらしい。
……じゃあ、一体なんなんだ……?
驚いたのは、それだけじゃない。
水面に映る自分の姿を、改めて確認する。
「……は?」
……誰だ、こいつ? 水面に映るのは知らない男の顔だ。
「お、俺……か?」
いや、違う。これは俺じゃない。俺はこんな顔じゃない。もっとこう……あれ?どんな顔をしていたっけ?
思い出せない。自分の顔も、名前も。
……記憶喪失? いや、そんな馬鹿な。俺はちゃんと覚えている。
「俺の名前は……」
……あれ? なんだっけ……?
「……そうだ」
思い出した。俺の名前は……。
……あれ?なんだっけ?
「……思い……出せない」
頭を抱え、必死に思い出そうとする。しかし、どうしても現実の光景は思い浮かべることができるのに、名前も自分の顔も思い出せない。
「なんだよ、これ……」
周りを見渡すと、遠くの方に一本の樹があるのが見える。
「……なんだ、あれ?」
樹木の傍に何かがいる。……人か?
目を凝らすと、それは動物だった。
頭部は小さく、頸部は長く小さな羽毛に覆われている……。
その姿はまるで「ダチョウ」の様だ。
しかし、それは明らかに異質だった。
その体は羽毛ではなく、硬質な鱗で覆われている。
……なんだ?あれは?鳥か?いや、あんなの見たことが……。
そんなことを思っていると、その鳥がこちらを見た気がした。
……まずい。
そう思った瞬間、鳥はこちらに向かって走り始めた。
「……っ!」
慌てて立ち上がり、駆け出す。
……どうする?逃げるか?戦うか?
駄目だ。武器も何もない。
逃げ切れるとは思えない。
それに、あの鳥が俺を襲うとは限らないじゃないか。
……でも、もし襲われたら……?
「はぁ……はぁ……」
息が上がる。心臓が激しく脈打ち、足が悲鳴を上げる。それでも必死に走る。
しかし鳥は徐々に距離を詰めてくる。
もうダメだと思ったその時だった。
突然、鳥は立ち止まり――、
そいつは俺の頬を舐めながら、顔を覗き込んできた。
「……え?」
鳥は、俺の頬を何度も舐める。まるで甘えているかの様に……。
「な、なんだ……?」
困惑しながらも、恐る恐る手を伸ばしてみる。すると、鳥は俺の手を甘噛みしてくる。まるで、じゃれつく子犬の様に……。
「こいつ……、なんで俺を……?」
困惑していると、鳥が俺の服をくちばしで引っ張り始めた。どうやらどこかへ連れて行きたいらしい。
「……ついてこいって事か?」
そう問いかけると、鳥は小さく鳴いた。どうやら正解らしい。俺は仕方なく鳥の後について行くことにした。
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