動物園の飼育員、異世界転生して最強テイマーになる。

ともP

プロローグ

 季節は夏である。夏の陽光に肌を焼かれながら、俺はペンギンの餌やりを行なっていた。ペンギン。そう、ペンギンである。


「はい、みんなご飯の時間ですよー」


 餌の入ったバケツを床に置くと、ペンギンたちは一斉に集まりだす。その愛らしさに思わず顔がほころぶが……、俺はすぐに気を引き締めた。


「ほらほら、慌てない。順番ずつに投げるから、ほらステイ」


 俺が餌である魚を投げると、器用に嘴でキャッチするペンギンたち。


「はい、よくできました!」


 俺が褒めるとペンギンたちは嬉しそうに『グワッグワッ』と鳴く。

 ペンギンの餌である魚は毎日朝と夕方にあげなければならないが、その作業も楽しい。それに、この動物園はペンギンだけでなく、カピバラやオランウータンといった他の動物たちもいる。


 昔からなぜか動物に懐かれる俺は、この仕事を始めてから毎日が充実していた。デスクワークをして、嫌いな上司にこっぴどく怒られるより、動物たちに懐かれながらお世話をする方が精神的にも、肉体的にも健康である。


「あ、もうこんな時間か……。それじゃみんな、また明日な!」


 そう言って俺がその場を立ち去ろうとすると、ペンギンたちは『グワッグワッ』と鳴く。まるで『またね』と言っているようで微笑ましい。


「……ふう。やっぱりペンギンかわいいなあ」


 この動物園で働き始めて早数ヶ月――、


 当時の担当部長に「お前、動物好きか?」と聞かれ、「はい、好きです」と即答したのが全ての始まりだった。

 それからあれよあれよと話は進んでいき、俺はこの動物園でペンギンの飼育員担当として働くこととなった。


 最初は不安だったが……、いざ働いてみると毎日が楽しい。

 上司という、日々罵詈雑言の嵐を浴びせるゴミと相対するより、愛くるしいペンギンの世話をしている方が良いに決まっている。


「さてと……、今日の晩飯は魚にするか」


 家路につく途中にある業務スーパーで魚を買いながら、俺は今日の晩御飯の献立を考える。アジフライにするか……。


「あ、そうだ。確か、卵が切れかかってたよな」


 冷蔵庫の中身を思い出しつつ、俺はスーパーを物色する。そして、お目当ての卵とついでに朝飲む用の牛乳もカゴに入れておく。


「よし、これでOKだな」


 買い物を済ませた俺は、そのままレジで精算を済ませる。そして、買ったものをマイ袋に詰めて道路に出た。


 スーパーを出ると、野良猫が『ニャー』と駐輪場の傍で鳴いていた。俺はその場にしゃがむ。すると、猫が喉を鳴らしながらすり寄ってきた。


「おー、よしよし」


 俺は猫をなでながら、その毛並みの柔らかさを楽しんだ。すると、猫は抵抗する素振りも見せず嬉しそうに『ニャー』と鳴く。


 超かわいい。


「お前、人懐っこいなあ。飼い猫じゃないなら家に来るかい?」


 俺がそう呟くと、猫は『ニャー』と鳴く。


「あははっ、なんだそりゃ」


 そんな猫の頭を優しく撫でながら、俺は猫を持ち上げた。抵抗することもなく猫は抱かれてくれたので、そのまま帰ろうとしたその時――、


「――危ないっ!!」


 周りからそんな声が聞こえてきた。刹那、突然頭上から、大量の木材が降り注いできたのが見え――、俺の意識はそこで完全に途絶えた。

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