第2話 集落

 どれくらい歩いただろうか?

 しばらく歩くと、樹木に囲まれた小さな湖があった。湖畔の傍には、小さな集落らしきものがあるようだ。


「ここに住んでいるのか?」


 鳥が、そうだと言わんばかりに小さく鳴いた。

 そして、集落に向かって歩き出す。


「ちょ、ちょっと待てよ」


 慌てて後を追いかけると、鳥は集落から少し離れた場所で立ち止まり、こちらを振り返る。何となくだが、ついてこいと言っている気がした。


「わかった。行くから、ちょっと待ってろ」


 鳥にそう告げると、俺は集落に向かって歩き始めた。

 集落の入り口には、二人の男が立っているのが見えた。一人は老人でもう一人は青年だ。二人は俺を見ると、驚いた様に目を見開いた。


「な、なんだ?」


 思わず足を止めると、老人の方が口を開いた。


「……あんた誰だ?」

「あ、いや……その……」


 答えに困っていると、今度は青年が口を開いた。


「ここは人里離れた集落だ。こんな所に来る人間なんて滅多にいない」

「そ、そうなのか?」


 ……それは困ったな。ここがどこなのか、どうやって来たのかすら分からないんだが……。そんな事を考えていると、青年が問いかけてきた。


「もう一度問う、あんたは何者だ?どこから来た?」

「えっと……」


 どう答えたら良いのだろうか?

 正直に話しても信じてもらえるとは思えないし……。


 俺が悩んでいると、老人の方が口を開いた。


「まぁまぁ、そう問い詰めては答えられんじゃろ」


 老人はそう言って青年を窘めると俺を見た。そして、小さく微笑むと言った。


「……とりあえず中に入りなさい」


 老人に案内された先は、小さな小屋だった。

 中に入ると、椅子に座るよう促される。


「さて、まずは自己紹介からじゃな」


 老人はそう言うと、自分の胸に手を当てて名を名乗った。


「儂の名前はカロンじゃ」

「俺は……」


 自分の名前が思い出せないことに気付き、口ごもってしまう。そんな俺を見て察したのか、老人……カロンは言葉を続けた。


「……ふむ。どうやら訳ありみたいじゃな」


 そんな様子を見ていた青年が口を開いた。


「俺の名前はアトラ。とりあえず、名前がないのは不便だろう。仮の名前でいいから、何か名乗っておけ」

「……ああ、わかった。そうさせてもらおう」


 俺は、訳ありという単語から「アル」という仮の名前を名乗ることにした。


「ふむ。アル殿じゃな」


 カロンは頷くと、今度はアトラに視線を向けた。


「……それで、どうしてここに来たんだ?」


 アトラの問いに、俺はここに来るまでの経緯を説明した。……と言っても、ほとんど覚えていないので説明できることは少なかったが……。


 俺の話を聞き終えた二人は、難しい顔をしていた。


「……記憶喪失か」

「ふむ。それはちと厄介な話じゃな」


 二人は顔を見合わせると、小さくため息をついた。そして、再び俺を見ると言った。


「とりあえず、今日はここに泊まっていくといい」

「いや……でも……」


 流石にそこまで世話になるのは悪いと思い断ろうとしたのだが、カロンが首を振った。


「遠慮するでない。村のものにしか懐かない『カラドリウス』が懐いた相手じゃ。無下にするわけにもいくまいて」

「カラドリウス?」


 聞き慣れない単語に首を傾げると、アトラが説明してくれた。


「ああ、お前と一緒にいたアイツだよ。鳥類の中でもかなり獰猛でな、カラドリウスという種族なんだ」


 当たり前だが……、聞いたこともない種族だ。ちなみに、この世界では鳥類に分類されているらしいが飛べないらしい。


「わかった。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」


 俺がそう言うと、カロンとアトラは嬉しそうに笑った。


「そうか!それはよかった」


 カロンがそう言うと、アトラも頷いた。

 ……とりあえず、今日はここで世話になることにしよう。

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