第一話 対戦フードバトル開幕

 『クイセン』をインストールしてから数日が経った。最初は半信半疑だったが、どうやらこのゲーム、本当にリアルの食事と連動しているらしい。


 食べたものに応じて「フードポイント(FP)」が付与され、そのポイントを使ってバトルができるシステム。俺は試しにいくつかのコンビニ飯でポイントを貯めてみたが、まだ実際の「バトル」というものには遭遇していなかった。


「……やっぱり対戦とかもあるんだよな?」


 アプリのメニューを開いてみると、新しい通知が表示されていた。


『フードバトルマッチング開始』


 ようやくゲームの本番が始まるらしい。対戦相手はどこにいるのか……そう考えた瞬間、スマホの画面に新たな表示が浮かび上がった。


『対戦可能エリア発見:牛吉屋○○店』


「おお、ついに来たか……!」


 俺は期待に胸を膨らませながら、牛吉屋へと向かった。


 夕暮れ時の牛吉屋は、サラリーマンや学生たちで賑わっていた。店内に入ると、スマホの画面が自動的に更新され、新たなウィンドウが表示される。


『対戦相手が見つかりました!』


 その瞬間、店の奥からこちらを見つめる男がいた。


 彼は短髪で筋肉質、ジャージ姿の男だった。俺と目が合うと、ニヤリと笑う。

 だがなんだかホモ臭いのが怖い。


「お前か? クイセンの挑戦者ってのは」


 俺は驚きつつも、自然と笑みがこぼれた。


「そうみたいだな。ルールは?」


「簡単さ。牛丼をどれだけ早く、どれだけ多く食えるかって勝負だよ」


 そう言うと、男は店員に向かって声を上げた。


「すみません! 牛丼並盛、五杯お願いします!」


 店員は驚いた様子だったが、すぐに注文を受けて動き出す。


「お前も注文しろよ。さすがに同じ条件じゃねぇと勝負にならねぇ」


 俺も負けじと、牛丼並盛を五杯注文した。


 すぐに店員が牛丼を運んできて、テーブルに並べる。


「それじゃあ、カウントダウンいくぜ」


 スマホの画面にカウントダウンが表示される。


『3……2……1……START!』


 バトル開始だ。


 俺はすぐさま箸を取り、一気に牛丼を口に運んだ。ご飯と甘辛い牛肉の旨味が口いっぱいに広がるが、味わっている暇はない。だけど美味い。凄く旨い。


 対戦相手の男もすごい勢いで食べている。箸さばきが異様に速く、人間技を超えている。


「くっ……こいつ、速い!」


 しかし、俺も負けるわけにはいかない。俺は元々、大食いには自信がある。集中力を高め、一気に牛丼をかき込む。


 どんどん減っていく牛丼。しかし、男も同じペースで食べ進めていた。


 そして牛丼八杯を食べ終えた。


「ふっ、やるじゃねぇか……!」


「お前もな……!」


 だが俺はその上を行く。牛丼九杯を食い終えた。


『WINNER!』


 スマホの画面に、俺の勝利を示す文字が浮かび上がった。


「……マジか、俺の負けか」


 対戦相手の男が苦笑しながら、器を置く。


「すげぇな、お前。食い方が綺麗だし、ペースが乱れねぇ」


「お前も相当だったよ」


 お互いに称え合いながら、スマホの画面を見ると、新たな通知が届いていた。


『フードポイント +50 獲得!』


『新たなスキル解放:胃袋拡張(Lv1)』


「……スキル?」


 どうやら、『クイセン』はただのフードバトルゲームじゃないらしい。


 俺は新たな戦いに胸を躍らせた。


「面白くなってきたな……!」

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