第二話 路上フードバトル
クイセンをプレイしてから、俺はフードポイント(FP)を貯めるために日々の食事を少し工夫し始めていた。とはいえ、そんなに高級な食べ物ばかり食べるわけにはいかない。
「とりあえず、安くて量が多いものが一番だな」
そう思いながら、俺は近所のスーパー『スーパーマルナナ』に向かっていた。
店内にはさまざまな弁当やおにぎり、パン、惣菜が並んでいる。クイセンのアプリを開くと、商品ごとにフードポイントの表示が浮かび上がっていた。
「ほう……からあげ弁当はFP8か。カツ丼弁当はFP11。総菜パンは種類によって5~10ってところか」
俺は適当におにぎり数個、カツ丼弁当、唐揚げ弁当、それから総菜パンを2つほどカゴに入れた。
レジを済ませ、店の前のベンチで食べようとしたその時だった。
「お兄さん、クイセンやってるの?」
ふと声をかけられた。振り向くと、そこには12歳くらいの少女が立っていた。
「……食玲?」
知っている顔だった。同じマンションに住んでいる少女、山田食玲(やまだ しょくれい)。俺のことを「しんしん兄ちゃん」と呼んでたまに遊んでいた。
「やっぱり! お兄さんもクイセンやってるんだ!」
「まぁな。お前もか?」
「もちろん! でもまだ初心者だよ。でもでも、せっかくだし対戦しない?」
食玲はスマホの画面を見せてきた。そこには『対戦フードバトル申し込み』の通知が表示されていた。
「マジか。路上フードバトルって、こういうところでもできるのか?」
「うん! スーパーの前とか、飲食できる場所ならOKみたい!」
俺は少し迷ったが、食玲のやる気に押されて『対戦承認』をタップした。
『対戦開始!』
スマホのカウントダウンが始まる。
『3……2……1……START!』
バトル開始の合図と同時に、俺はまずカツ丼弁当に手を伸ばした。
ふたを開け、スプーンで豪快にかきこむ。卵とじの甘さとカツのサクサク感が口の中に広がる。美味いな。カツ丼はこうじゃなくては。
一方、食玲は素早くツナマヨおにぎりを開け、一気に半分を口に入れた。
「ふふ、まだまだ!」
食玲は続けてハムカツサンドを手に取る。サクッとした食感が響き、すぐさま飲み込んで次のターンへ移行していく。
「くっ……なかなか速いな!」
俺も負けじと、唐揚げ弁当を開け、唐揚げを一気に3つ口に入れる。ジューシーな肉汁が広がり、白米と一緒に押し込む。
食玲も負けていない。鮭おにぎり、カレーパン、焼きそばパンと次々に食べ進めていく。
「は、速い……!」
俺は少し焦りながら、最後の弁当に取り掛かった。焼肉弁当の肉を一気に頬張り、ご飯とともにかき込む。
『終了!』
スマホの画面にバトル結果が表示された。バトルの結果は食べる物の総カロリーによってAIが判断する。審判はAIなのか。
『WINNER:山田食玲』
俺は思わず苦笑した。
「負けたか……」
「やったぁ! でも、お兄さん手を抜いたでしょ?」
「……バレたか」
「ふふん、次は全力で戦おうね!」
食玲はニコッと笑いながら、満足げにスマホを眺めていた。
「お兄さん、これからもライバルだよね!」
「……ああ、そうだな」
こうして俺は、新たなライバルを得た。
クイセンの世界は、まだまだ奥が深いらしい。
負けたけど自分より小さい女の子の幼馴染? の少女に負けてもそこまで悔しくなかった。
まあいいや今度こそ勝つか。俺は後悔などなかった。だから次の勝負は頂くぞ。
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