萩市立地球防衛軍☆KAC2025その①【ひなまつり編】

暗黒星雲

第1話 うわばみのひなまつり

 今日は三月三日。当然、防衛軍本部でもひなまつりは行われる。指令室には豪華な五段のひな人形が飾られており、供え物の白酒、菱餅、桜餅なども並べられていた。更に、日本酒の一升瓶が十数本並んでいた。


「この白酒は甘いわね。ちょっと甘口過ぎないかしら?」

「はい、総司令。甘い桜餅と一緒に頂くにはこの甘い白酒がよろしいと思いますが、個人的にはこちらの〝長門峡〟の方が合うと思います」

「萩の地酒ね。そちらの〝東洋美人〟はいかが?」

「東洋美人はやや甘口。一本筋の通った辛口の長門峡の方が私の好みですわ」


 萩の地酒について語り合っているのは防衛軍のうわばみと呼ばれている二人だ。うわばみの筆頭はミサキ総司令。次点はイスカンダルの人のような容姿の長門である。今日は指令室で〝ひなまつり日本酒会〟という酒宴が行われていたのだ。


「私はああ、めっちゃ甘口の白酒の方がいいです」


 等と言いながら〝飛騨高山の白酒〟のビンを抱えているのは白猫獣人のハウラ姫だ。彼女は防衛軍のメンバーではない居候なのだが、うわばみランキングならナンバー3である。


「あれれ? 空になっちゃった?」

「ごめんなさいね。白酒は三本しかないの。後は清酒かにごり酒で」

「はーい。長門峡のにごり酒をいただきまっす」


 グラスになみなみと長門峡のにごり酒を注ぐハウラ姫。そしてそのグラスを一気に空けてしまう。


「プハッ! これもいいわ。オ・イ・シ・イ!」

「あら、ハウラ姫。良い飲みっぷりね」

「はい。日本酒程度なら水と同じですわ。何リットルでもイケます」

「頼もしい。負けちゃいられないわね」


 おひなさま日本酒会が始まってまだ一時間しか経過していないにもかかわらず、元気よく酒を飲んでいるのはこの三名とコスプレ娘のビアンカだけだった。彼女達は日本酒を冷やでグラスに注いで飲んでいた……流石うわばみである。


 男性陣の正蔵と黒猫、ハウラ姫のボディーガードであるトラーダは既に轟沈していた。意識を失った彼らは廊下に放り出されていた。


「ねえねえ。ミサキ総司令。いつになったら彼氏を紹介してくれるんですか?」


 長陽福娘ちょうようふくむすめの一升瓶を抱えてミサキに絡んでいるのはコスプレ少女のビアンカである。尚、この福娘は日本海産の魚介によく合うと言われている名酒である。


「あら、この前の合コンで山大生を十名くらい紹介したじゃないの。お気に召さなかったの?」

「あいつらみんな、ミサキ総司令のおっぱいばかり見てたんですよ。そりゃ司令のGカップ……の破壊力は認めますけど、私だってEカップの美乳なんです」

「私の胸を餌に釣り上げたのは事実だけど……Gカップじゃなきゃダメな男の子ばかりじゃないでしょ? むしろ、需要としてはEカップの方が多い気がしますが??」

「むう。そんなのは気休めです」

「ビアンカさん。あなたのEカップ……素敵ですよ。私なんかBにもなれないAなんですから」

「長門さんはそのコンパクトなお尻と美脚があるじゃないですか」


 三人がそれぞれ他の者を褒めている格好になる。そもそも、ミサキは巨乳むっちり系。ビアンカはバランスの良いセクシー系。長門はスリム系美女であり三者三様の美しさがある。この中の誰かに言い寄られたとしても、それを断る男は稀有な存在だろう。


「でもね、ビアンカさん」

「何でしょうか?」

「酔っぱらってヤンキーに喧嘩売ってたら、大抵の殿方はドン引きですよ」

「ああ、あれですね」

「私、何かしたんですか??」


 ミサキと長門が顔を見合わせて笑っている。ビアンカは覚えていないようで呆けた表情だ。


「合コンの後でね、山大生の男の子がヤンキーに絡まれたの」

「ビアンカさんはそのヤンキーに敢然と立ち向かったのよ。『明日の日の出が拝めると思うなよ』って」

「ヤンキーの方も『オタクのコスプレ女は引っ込んでろ』とか言っちゃったんで」

「ああ。こいつらマジで沈められるって思ったわ。ね、長門さん」

「はい。ミサキ総司令」

「どうして止めてくれなかったんですか?」

「止めたわよ。山大生のみんなが。でも、ビアンカさんはヤンキーも仲裁に入った山大生も、駆け付けて来た警察官も、その地区を仕切るヤ〇ザ屋さんも、みんなぶちのめしちゃったの。ね、総司令」

「そうね。流石は帝国一のアバズレ」


 そう、ビアンカは素行が悪く本国でも配属先に困っていた。その彼女を引き取ったのがミサキ総司令である。


「その荒ぶるビアンカさんを止めてくれたのはそこにいるハウラ姫です」

「はい。私、ハウラがビアンカさんを抱きしめて行動不能にしました。この、Iカップの胸が役に立ちましたわ」

「常識はずれの爆乳が事件を解決したのよ」

「ビアンカさんはハウラ姫の胸元に埋もれて幸せそうに眠っていました」

「ううう……それで……どうなったんですか?」


 別の席でちびちびとコーラを飲んでいたララが、テーブルをバンと叩いて立ち上がった。


「警察と山大に出向いて謝罪したのは私だ! お前たちの後始末などやりたくもないが、私が隊長なのだから仕方がない。もちろん、表向きの司令官であるハゲの萩市長と同行してだ。その後でヤ〇ザの組長がここまで来て土下座して謝罪したんだぞ。『私の舎弟がご迷惑をかけました。大変申し訳ありません』とな。その時に置いて行った大量の日本酒が、今、ここで消費されているんだ。ヤ〇ザから贈答品を受け取るなどあってはならん事だが、受け取らないとここで指を詰めると泣きを入れたから仕方がなかったんだ!」


 その時、司令室内に未確認攻勢生物出現の警報が鳴り響いた。


「くそ。皆が酔っぱらってる時に非常事態だと? 椿、最上、出撃だ!」

「了解!」

「わかりました!」


 ララと同じテーブルでジュースを飲んでいた最上と椿が立ち上がった。


「酔っ払いは全員放置! 重巡最上、出撃だ!」


 重巡洋艦最上が、ララと椿、インターフェイスの地味娘最上を乗せ、防衛軍本部のある笠山から現場へと向かった。見島沖の日本海に未確認攻勢生物が出現したのだ。


 萩市沖に突如出現したワームホールを潜り、未確認攻勢生物、即ち怪獣が出現するようになった。自衛隊や米軍では歯が立たない未知の脅威に対抗すべく、今日も防衛軍は戦うのである。萩市の平和、日本の未来は彼らが守っているのだ。


【おしまい】


※作者はお酒が全く飲めないので、日本酒の味はさっぱりわかりません。作中の描写はいい加減ですので事実と異なっていてもご容赦ください。尚、〝長門峡〟〝東洋美人〟〝長陽福娘〟は萩の名酒でございます。通販でも買えますので、お好きな方は是非ご賞味ください。

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