第3話 ひなまつり?
『ふむ……揃っておるな……』
目の前には巨大なお爺さん……。
それがぎょろぎょろと険しい視線で俺達のことを見下ろしている。
さっきまでの好々爺然とした姿はどこにやったんだろうか……。
そして、なんだよこの状況は……。
普通さぁ。転生って言ったらもっと説明があるものだろう?
それか、異世界に放り出されていきなり放浪したりとかだ。
なぜひな人形になってガラスケースの中にいるんだ?
それに目の前にいる巨大な人たち……もしかして俺達の方が縮んだのか?
あと、なぜお雛様が穂乃花なんだ……?
声を大にして聞きたいが、そもそもなぜか声が出ない。
何か見えない魔法のようなもので体だけを操られているかのようだった。
『よいよい。お前たちはただワシの言うことを聞いていればいいのだからな』
今は巨大な女の子とその母親がどこかに行ったあと、ほっと息をついた俺達は目の前にいる巨大なお爺さんの声に整列させられたところだ。
「俺達はなにを?」
そこでようやく声が出た……が、なんで今なんだよ。
めっちゃ睨まれてるんですけど……。
『ふむ……。さっき来た男か。ようやくこれで揃ったと思ったが……まぁいいか。"ひなまつり"は知っておるじゃろう?』
「えっ……えぇ。一応……」
こうなったら怖いとか言っていられない。
それに、すぐに害されるような感じでもないから、俺は勇気を振り絞っていたが、降って来たのは『ひなまつり』……。
もちろん知ってるっちゃ知ってるけど……。
『お前たちは来る3月3日のお祝いの際に、そこに綺麗に座っていればいい。ざっと2時間くらいじゃろうな。簡単な仕事じゃろ?』
それは確かに簡単だ。
ガラスケースもあるから危害を加えられる心配はない……きっと。
大丈夫だよな?
突進されてガラスケースをぶち破られたりとか、ひっくり返されたりでもしない限り……。
「そんなことのために俺たちを?」
『そんなことじゃと!?!?』
「えっ……」
突如としてガラスケースが消え去り、俺はお爺さんに掴みあげられる。
「すみません、神様。この者はまだ来たばかりでここの理を知りませぬゆえに」
それを何とかかばおうと、今まで一言も発しなかった穂乃花が声をあげた!
穂乃花……俺、お前を誤解していたかもしれない。そういえば昔は可愛くて恥ずかしがり屋で素直で優しい女の子だったよな?
「時間はあったはずじゃ! 何をしていたのか!?」
「えっと……」
おいクソ女。何赤くなってんだよ!?
もしかして俺に説明するはずの時間をアレに使ったとかいうんじゃないだろうな!?
おい!?
「すみません。転送されてきてその……意識が混濁していたようだったので待っている間に神様方がやってこられまして……」
物は言いようだよな……。
確かに混乱してたさ。
『ふん……もう時間はない。これ以上、別のものを呼んでいる時間はない。ちゃんと説明しておけ!』
「はい」
「いてぇ!?」
そう言うと、俺をポイっと放り捨て、どこかに行ってしまった。
もちろん俺はひな壇に腰を打ちつけて悶絶する。
「大丈夫?」
「あっ……あぁ……」
「きゃあ!」
「悠君に触らないで!」
「すっ……すみません……」
そんな俺を心配して三人官女の一人が駆け寄ってきてくれたが、穂乃花に弾き飛ばされてしまった。
何このカオス……。
「まったく、隙あらば女を誘惑するわよね、悠君は」
しかも俺のせい???
「そんな覚えは全くないけど、これ、どういう状況なんだ?」
「またはぐらかす……まぁいいわ。説明しておかないと私も怒られるものね。えっとね……」
そこから穂乃花が語った内容は衝撃的なもの……でもないのか?
曰く、
1.俺たちは神様の世界に転生した。
2.役割は元の世界にもあったひな人形。
3.神様達に逆らうことはできず、見られるときは強制的にひな壇に着座させられる。
4.それ以外の時間は割と自由で、あんなこともこんなこともできる。
5.ひな人形なので、俺以外全員が女性。
だった。
なんだよそれ……。
「だからぁ……どうせ暇だし、あたしたちと遊びましょう?」
三人官女のうちの一人……一番若そうな子が俺の服に手を突っ込んで……っておい!?
どこ触ってんだよ!?
あっ……。
「貴様……死ニタイラシイナ……」
「えっ? いや、それはやばいってお雛様……って、ねぇ、助けてよ」
「暴露……束縛……羞恥……」
「いやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!?」
えっと。
結構かわいい子だったのに、いきなり全裸にされ、縄で縛られて恥ずかしい恰好にされて転がされた。
せめてもの情けでチラ見するくらいに留めておいたから、それくらいしか描写できないことを許してほしい。
そんなこんなでこの世界に転生した俺の意味不明なひな人形ライフがスタートしたのだった。
とりあえず神様の『ひなまつり』とやらを成功させないとまずいんだろうな……。
それが終わったら解放されるんだろうか?
それとも……。
先行きは全く見えないが、まぁ心配しても仕方ないか。
どうせ死んだんだしな。
とりあえず、おっきくしたものは、穂乃花によって沈められた……。
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