友チョコバレンタインその真意 一話完結
僕を見て笑う鶴谷さん
中庭を影からそっと覗く僕、相葉イサオの視線の先には佐野くんが居て友達にチョコレートを渡している。
笑顔で。
すると廊下で佐野くんは僕へ話しかける。
口の中がチョコレート味になる
そこでイサオの目が覚めた
佐野くんはまだ起きていないようだ。
いつもより長い夢だった
(今日の夢は未来っぽい)下へ降りて佐野くんを揺すり起こす、彼は朝に弱いためこれが日課になっている。
「佐野くん朝だよ」
揺すっても寝返り一つ打たない、爆睡しているようでふと隣の机を見るとしおりが真ん中辺りまで進んだ小説が置いてある。
確かこれは昨日図書室で借りてきた本のはずだ
僕は納得し起こすのを諦め 洗面所へ行くため部屋を出た
時間も時間なので廊下には人がまばらに居て皆学校へ行く準備を各々し始めていた。
洗面所を覗くと身支度を整えに生徒が集まっているほとんどが初等部の生徒だ
高等部の赤坂さんが言うには部屋にベットしか無いのは初等部までのようで、
中等部、高等部の生徒はよほど部屋が汚いとかの理由がない限り大体部屋で済ませる、と洗面所で教えてもらった。
「おはよ」
噂をすれば寝起き姿の赤坂さんが後ろに立っていた。
やはりこの人の部屋は汚いらしい
「知ってるか?今日はバレンタインなんだぜ」
隣で歯を磨きながら一方的に話し続ける赤坂さんのその一言にイサオは歯ブラシを止めた
「そっか バレンタインか」
ようやく返事らしきものを返した後輩を赤坂は呆れたように見返した。
唯一覚えているのは正月ぐらいで、行事ごとはさっぱり興味がないため忘れていた
「バレンタインって チョコレートを渡すやつだよね」
「まあ 渡すっていうか、俺らは基本貰いたいっていうか」
モゴモゴと何かを呟く赤坂さんを横目にイサオは朝見た夢に納得し少しだけ不満を持った
バレンタインのチョコレートは好きな人に渡したり、友達に渡したりする行事だったはずだ。
夢で見た佐野くんは 僕も知っている男子に渡していた。
あの2人は仲がそこそこ良かったはずで 仲良しの印にお菓子をあげるのだろうか?
いや 佐野くんはそんな細々したことはしない
寝食を共にする僕は断言する
気は使えるが積極的ではないのが彼だ
なにより 同じ部屋でそこそこ仲のいい僕にはくれないのかと 今の今までバレンタイン自体を忘れていたクセに少し悲しくなった。
「どしたイサオ 好きな子でも居るのか」
「うん…」
「マジかよ 相手は誰だ?特徴は?」
「うん…」
「おい 頭を使って返事をしろ!」
赤坂は突然質問してきたかと思えば、黙り込み勝手に落ち込む失礼な後輩を部屋まで送り届けた。
部屋に戻った僕は佐野くんをまた揺すり起こし それとなく聞いてみたがいつも通りだったので尋問は諦めて部屋を出た。
「はいこれ 友チョコあげる」
椅子に座り机を見ながらぼーっと本を読んでいた僕は顔を上げた。
鶴谷さんが僕にチョコレートをくれるというのだ
「あえっと ありがとう嬉しい」
イサオはなんとなく立ち上がり礼を言った
鶴谷さんは笑っている。
「なんかイサオくん、空元気?だね なんかあった?」
「え?ううん 今日はちょっと早く起きちゃって 眠いんだ」
「ふーん」
絶対に納得していない顔だったが 先生が教室に入ってきたため席へ戻っていった
暗黙の了解で許されているとはいえ、チョコを持ってくれば先生に目をつけられ良いことはないので僕はチョコレートを横の手提げ袋に優しく落とした。
一時間目の授業中
(夢で見た場所は中庭、銅像があったから。
中庭までここらの教室から大分離れているので十分休みにはほとんど行かない、なら業間休みか昼休み 、影的に昼休みかな)
イサオはとりあえず何もわからないので中庭へ行ってなぜ彼がチョコを渡しているのかを詳しく盗み聞きしてやろうと決めたのだった。
ちなみに 授業は全く聞いていないためこの後佐野による黒森も突撃してくる授業が始まるはめになる。
業間休みが始まるとイサオはすぐに教室を出て中庭へ向かった。 二時間目は先生の熱が入り過ぎて少し長引いたのだ
(沙終くん喜んでくれるかな)
オモネはソワソワするようなドキドキする様な、不思議な気分で二時間目を終えた
(教室にいるかな? あーあ なんで同じクラスじゃないんだろ)
チョコレートの入ったラッピングされた袋を優しく抱えてオモネは教室を出る
(瀬楽ちゃん 朝渡してたよね。先生がもうちょっと遅く来れば、アタシもあの時渡せたのになぁ)
オモネの居るクラスと沙終の居るクラスは同じ学年でも、階が違うので階段を降りる必要があった。
階段を降りて教室の後ろ扉を覗くと同時に沙終くんらしきセーラー服の生徒が、前扉から教室を出て行った。
話しかけようと思ったが足取りが早く急いでいる様子だった
(業間休み長いし 沙終くんの用事が終わってからで良いかな)
オモネは自然と沙終の跡を追う形となった
しばらく跡をつけていると沙終は中庭に入り銅像と対極ぐらいにある木の茂みへと入って行った。
(へ? 沙終くん…何してんの? もしかしてバレてた? そんなに嫌だった? )
オモネは困惑したが とりあえず本人から何をしているのかを聞き出すため同じ草むらへ入った。
イサオは中庭へ急いで来ると記憶を頼りに盗聴席を探した。
(銅像が見えてて、文字がある辺りに佐野くんは居たから この辺で良いか)
イサオは考えるながら銅像と対極あたりにある草むらに飛び込んだ。
遠過ぎても聞こえない、近過ぎてもバレてしまうため丁度いい場所を四苦八苦しやがら探していると 後ろの草がゴソゴソと揺れる
「イサオ何してんの」
僕は声の主も分からず飛び上がった。
「大丈夫?」
「びっくりした」
「ごめん」
イサオは腰を上げ手を払った
「なんで黒森くんがここに居るの」
「なんでって君が草むらに入るのが見えたからだよ 」
「だからって黒森くんまで入って来なくたって」
「うわっ」
またも後ろから声がして振り向くとそこには草木に足を取られ転んでしまった凛道さんが居た
「ちょっと 大丈夫?」
僕は駆け寄り凛道さんに手を貸した
「凛道さんまでなんでここにいるの?」
オモネは少し口ごもり
「沙終くんがここに入って行くのが見えたから」
「僕ってそんな目立つの?」
「鏡見てこい イサオって呼ばれてる旧セーラー服の男子生徒が居るから」
黒森はオモネの足に絡まったつたを千切ったり抜いたりしながらイサオの疑問に答えを出した。
足が自由になったオモネは体勢を立て直す
「沙終くん本当になんでこんな場所に入って来たの?」
「それ 俺も知りたい」
二人にまじまじと見られて居心地が悪くなった僕は佐野くんについての夢を喋った。
黒森くんは僕の特技を当然の様に受け入れているので話しは早かった
「へ? 何となく噂では聞いてたけど 沙終くん本当に夢で未来が見えるの?
ど、どういう意味」
問題は凛道さんで僕のした話を半分以上頭に入っていないようだった
僕は周りを見て佐野くんがまだ来てないのを確認しながら黒森くんと共に凛道さんに説明した
「つまりね僕は基本夢で未来が見えるんだけど たまに寝てなくても見えることがあるんだ」
「未来って言っても基本雨の夢ばっかで精度のいい天気予報みたいなもんだけどな」
「仕方が無いじゃない 僕は雨が嫌いなんだ」
「沙終くんは嫌いな事がその能力で見えるの?」
「いや もっと大雑把で心が動いたって言うのかな とりあえず感情が大きく動いた時のが見えるんだ」
「あ佐野だ! なーちょっと!」
突然草むらの外から声がした、三人でその声の方向に振り向いたが声の主は焦っているらしく知らない内に来ていた佐野の方へ移動してどんどん離れていく。
「僕が見た未来と違う」
たしか銅像の前で佐野くんと彼は話していたはずだ 僕の居る位置が変わったから二人の話す場所も変わったのか?
「これあっちに移動した方がいんじゃね」
黒森が足音を立てない様に移動して外の様子を見ている。
「あっちって隣の茂み?バレるでしょ何もないから隠れれない」
凛道さんが小声で黒森くんに話しながら少し背伸びをして外を見る
中庭の茂みは二つあって両方とも苔の生えた石垣の上にある
二つの茂みは一番近い場所でも3mほどの距離がありその3mの間に草木はなく佐野たちの居る位置的にバレる可能性があるのだ。
「バレるかも知れない、でしょ とりあえず隣に移動しよう」
黒森の押しと勢いに負けてイサオと凛道は隣に移動する事になった
隣の石垣への移動はバレずに済んだが二人の会話を聞こうと近づいた時に問題は起きた。
「ここじゃ何言ってるか聞こえないな」
黒森くんが誰よりも先に石垣を移動して草を掻き分けて見て様子を見ていた。
「でもこれ以上近づけない」
さっきまで居た方の石垣は屈めば小学生くらいなら隠れる程度の草木が生い茂っていた。
だが今いる方の石垣は花などが植えられているために半分ほどが木もなく綺麗に草刈りされてある。
佐野たちが居る場所に最も近づこうとするとその花が植えられた場所まで行かなければならない。
「ちょっと前まで花があっても草ぼうぼうだったのに」
黒森くんはゲームでもしているかの様に悔しがっている
「ここからじゃ聞こえないけどこれ以上近づくのも無理よ 絶対バレちゃう」
「あれ?」
声は聞こえないが遠目で見る佐野くんはチョコ一つ出すこともなくもう一人と別れこちらの方へやって来る。
「やばい隠れろ!」
「ちょっとうるさい バレるでしょ」
「ここじゃ見ようと思えば見られちゃうからもっと奥へ行こう」
三人は四つん這いで慌てて茂みの奥に身を潜めた。
さっき居た場所のほとんど真横を佐野くんが歩く音がする 3人は一塊になり外を覗く事すらせず必死に身を潜めた
「バレても死ぬわけじゃないのにこういう時って何故か必死に隠れちゃうよな」
「シッ」
潜めた声で楽しそうに話す黒森くんを凛道さんがピシャリと黙らせる
「あ、なあー古谷!!」
佐野くんが大声で呼んでいる。
古谷とはさっき話していた彼の名前らしい
佐野くんが何かを手に持つ音がして銅像の方へ小走りに進む。
僕らは体が固まり佐野くんが何故突然呼んだのか全く分からなかった。
「古谷これ」
おそらく佐野くんは手に持っていた何かを古谷さんへ渡した様だった。
(もしかして)
僕は無意識に石垣を降りようと動いたが足につたが絡まってしまい思う様に早く降りれなかった。
ようやく石垣から降りた頃には二人の会話は終わっていて古谷くんと言われた彼がチョコレートの袋を持って中庭から離れようとしていた。
僕が呆然と立っていると佐野くんがこちらに気付き近づいてきた。
「相葉ここで何してるの て、足大丈夫?」
足?ふと目線をさっきつたの絡まった足元へ見やる
「つた絡まってるし、泥だらけじゃん」
「石垣の上で遊んでたんだよ」
「相葉が友達と?珍しいな」
振り返ると同じ様に制服を汚した黒森くんと凛道さんが立っていた。
「ごめん相葉 俺次体育だから」
佐野くんは走り去っていき3人を取り巻く気まずさだけが残った。
その後のイサオは自分が一方的に友達だと思っていた事実に打ちのめされ授業どころでは無くなっていた。
時には自分以上に仲のいい親友だったりそれこそ彼が好きなのであって佐野くんは自分と仲が良いと思ってくれているかも知れないと考えたりもした。
でも一緒に過ごしていて朝の弱い佐野くんを僕が起こして洗面所まで引っ張ったり、怖がりの僕とお茶を買いに行ってくれたりとお互い協力しあっていてもそれ以上にあの古谷くんと仲が良いのかとモヤモヤした気持ちが強くなるのだ。
(嫉妬か)
下校し寮に着く頃にはそう結論付いていた。
部屋に入ると佐野くんはクラブ活動があるらしくまだ帰っていない様でイサオはランドセルと鶴谷さんから貰ったチョコレートの入った手提げを下ろした。
いつも通り髪を団子にする。
前まで鶴谷さんがお団子を作ってくれていたが今では一人でもできる様になった。
さっそく鶴谷さんから貰ったチョコレートを食べようと手提げを確認すると中には鶴谷さんから貰ったチョコレートともう一つチョコが入っていた。
「間違いで入ったのかな」
僕はそのピンクがふんだんに使われて大きなリボンの付いた袋を手に取る。
『沙終くんへ 友チョコです 阿より』
(凛道さんから 僕宛に?)
イサオは鶴谷から貰ったチョコレートと凛道から貰ったチョコレートを大切に食べ、ホワイトデーで何を返そうかと考えるのだった。
「ただいまー」
「おかえり佐野くん」
佐野はランドセルを下ろすとイサオが宿題をしている机の向かい側に座った
「今日の夜ご飯って何か見た?」
「見たよ 鯖の味噌煮だった」
「よっしゃ さっさとお風呂入って食堂に行こう」
「そうだね」
佐野くんはさっき座ったにも関わらず勢いよく立ち上がりそれに釣られて僕も部屋を出た。
「相葉今日はどの風呂に入る?」
「立法風呂」
「昨日入った司法風呂は相変わらず窓なくて熱かったもんな」
寮生のお風呂は学年ごとに一つのお風呂場を使うのでは無く。
全学年ごちゃ混ぜで3つのお風呂を生徒の気分で自由に使う、この謎の制度は女子寮でも同じだそう。
2人は特に話すこともなくなり周りの話し声に耳を傾け始める
だが2人に流れる謎の空気がイサオによって始まっていると気づいた佐野は我慢できず立ち止まりイサオを振り返る
「なんかさ相葉怒ってる?」
「いや、怒ってはいない」
(怒ってはいない)
「つまり悲しんでる?」
「まぁ そう」
「なんで?」
イサオは少し渋ってからまた歩き始め今日のことや思ったことを全て話した。
「夢でさ佐野くんが友達にチョコレートをあげてるのを見たんだ、なんで急にチョコレートをあげるんだろうって不思議に思ってた
それで君が寝てる間に洗面所へ行ったら赤坂さんが今日はバレンタインだよって それまで忘れてたんだ 」
「うん」
佐野くんは何か言いたげな顔で僕の話の続きを待っている。
「バレンタインってさ友達とか好きな人とかにチョコレートをあげる行事でしょ?
今日の今日までバレンタイン自体忘れてた僕が言える事なんて無いけどさ
一緒の部屋でお互い苦手な事で助けあったりしょーもない事で笑ったりして それでも古谷くんの方が仲良いんだなって
悲しくなったんだよ。」
佐野は前を歩くイサオに追いつくよう早歩きで隣に並んだ
「相葉は俺が古谷にチョコレートをあげてると思ったんだな」
「え?でもチョコレートあげてた」
佐野は不貞腐れ必死にそれを隠しているつもりのイサオを見ておかしそうに笑う
「違うよ 俺が中庭で古谷に渡してたチョコレートはあいつが中庭で落としたチョコレート」
(じゃあつまりえっと)
「落とし物を返しただけ?」
「そう 」
ようやく言えたとスッキリした顔で頭の後ろで腕を組む。
僕はなぜかホッとした
「俺がそんな器用な事するわけ無いじゃん」
「僕もそれはちょっと思った」
「なあ風呂入ってご飯食べたら売店行くぞ」
「なんで?」
「良いじゃん 今日くらい、お互いにチョコ買って部屋で食べよ」
「うん 」
「どしたよ」
「ヒサシが僕のルームメイトで良かった」
「名前?」
僕らは部屋で食べるチョコレートのため
なおさらお風呂場へ急いだ。
無意識的超能力 尾虎 @lovol3
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