ExtraEpisode3 最初の人形
「よし、これだけ魔石があれば足りるかな。後は身体…。」
メイカは家に帰って来ていた。ここは工房ではなく、少し前に譲って貰った小屋である。
倉庫から貯めていた魔石を引っ張り出して来て、それをとりあえず作業机に置き、身体造りにシフトする。
材質は土。土魔法を使うゴーレムと言うことで、属性相性が良い。さらに、メイカがゴーレムで一番使う物であるため、操作に慣れている。
魔力を混ぜながら土を
モデルは日本の土偶。
昔の人は、土偶を豊穣の象徴だと考えた説がある。名前が先か行動が先か、それは定かでは無いが、どの世界でも共通して固有の形や名前などは強い意味を持つ事が多い。
魔王や勇者と言う名を語れば、お互いに因果関係が発生する。
ゲームでも、この名前でプレイすれば裏ルートが出現する、と言う物があるだろう。
名前と言うのは、言わばシステムだ。強い名前には意味が、情報が含まれる。
「なら、造った人形を土偶だと言い張ればそれは土偶の力を得るんだよ…多分!豊穣の力が強化されるかもしれないしね。」
造形が終わると、メイカの記憶に残っている土偶とそこそこ似ている人形が出来上がっていた。
「よしっ、結構良い出来じゃない?」
額の汗を拭って次の作業に入る。
次はこの土偶の核を作っていくのだが、ここが最も大事になってくる。魔力が足りなければ動かないし、多すぎると魔力に身体が耐えきれなくなる。絶妙なバランスを探って行かなければならない。
ここは地道な作業となった。魔石に魔力を注入、動かなければまた別の魔石から注入。
頭の良い人ならばもっと効率的な方法を編み出せるのかもしれないが、メイカの頭では何も思い浮かばず、仕方なく脳筋戦法となったのだ。
この作業は三日間、毎日続いた。
◆◆◆◆◆◆◆
「………また動かない。考え方が間違ってるのかなぁ…。」
この時点で、メイカはかなりの魔力を魔石に注ぎ込んでいた。魔石の周りに、薄っすら靄がかかって見えるほどである。
だが、ゴーレムは動かなかった。何度かやり直しているが、一向に動く気配がない。
「………んぁぁぁぁ!!わからん!!一回休憩じゃぁぁぁ!!」
疲れが限界に達したメイカは、一人発狂してジタバタし始めた。
そしてしばらく地面を転がった後、ふと立ち上がった。もう三日も何も食べていないことに気がついたからだ。
意識した途端に鳴りだすお腹。
急いでキッチンまで行き、素晴らしき偉人が設計した魔導コンロに魔力を流して火を付ける。
「ふんふ〜ん。もうヤケ食いしちゃうもんね〜。パンに卵、お肉にサラダ〜。」
食材を用意して、食欲を抑えきれずにつまみ食いしながら料理を作る。お腹が減っているからか、料理のインスピレーションは無限に湧いて来た。
出来上がった料理を机に並べていく。小さい机だが、その上が埋まるほどの量である。
メイカは席についた。
「いただきまぁ………す?」
─が、その瞬間に手から箸を落とした。
「私今…何やった?」
落とした箸に意識を向けることすらなく、手を口元に当てて思考に入る。
「私は料理を作った、どうやって?火を使って。次、その火はどうした?…魔導コンロを使って出した。じゃあ…魔導コンロはどうやって使った?」
そこまで考えが巡った瞬間、身体の底から何かが湧き上がってきた。
そして──
「……っ。っあっははははははは!!!!」
笑った。
それはもう心の底から笑った。
何故か?理由は簡単である。
三日悩み続けたゴーレムが動かない問題。
動かない理由が電源を入れていなかっただったら…笑うしか無いだろう。
「はぁ〜、おかしい。なんであんなに悩んでたんだろ。やっぱり視点を変えたり、別の事をするってのは効果的だねぇ。」
笑いすぎて出てきた涙を手で拭う。
「よし、早速起動しに──!」
そして席を立──たずに
勢い良く合掌した。
「その前にご飯!もう限界!いただきますっ!」
腹が減ってはなんとやらって言うしね。
◆◆◆◆◆◆◆
腹ごしらえも済み、メイカは作業に戻って来ていた。
「魔力量的には充分…どころか多すぎるくらいだね。私の考えとしては─」
現在造っている人形という物は、言わば家電である。電源が入らなければ動かないし、その電源から電気が行き渡らなければ、これも動かない。
別の考えとして、人間と同じだとも考えられる。人間の身体に必要なのは血だろう。それを全体に行き渡らせる物、血管が必要なのだ。
つまりここからは、身体の全体に魔力を行き渡らせる機構を付け足せば良いという事だ。
これは簡単に解決した。魔力伝導度が高い糸を身体に埋め込めば良いだけである。
そして、魔力の量も調整する。あまりに多すぎると、身体が風船の様に膨張する可能性もある。と言っても魔力のある世界の素材なので、そこまでシビアでは無い。
そして、完成した。
先ほど作った土偶の改良版である。
「よし…早速動かしてみよう…。」
土偶に核をはめ込み、魔力が全体に巡って行く事を確認する。カタカタと音を立てて揺れ出す。
やがてギッと、一層大きな音を立てると─
「───♪」
土偶が動き出した。
「…で、出来たぁぁぁ!!!!!」
その瞬間、メイカは地面に大の字に寝転がった。ここから危険が無いかのテストに入るのだが、とりあえず頭を悩ませるのは一段落したと言える。
それからメイカは色々とテストをした後、依頼主の元に向かった。ここまでメイカが頑張って来たのは、『洪水で不作だから、成長を促進させる魔導具を作って欲しい。』という依頼を最高の結果で達成するためなのだ。
依頼主からは大きく驚かれた。相応のお金が払えないと言われたので、食料を少し分けて貰う事で手を打った。
ちなみに、依頼主に渡した土人形は量産した物で、メイカが苦労して造った土人形は家で起動して、畑仕事を任せている。
こうして、メイカは最初の人形を造る事に成功した。この数ヶ月後に王城に呼ばれて表彰されたり、ローズを造ったりするのだが、それはまた別のお話。
【Chapter2.5 土人形で農業革命】〜完〜
異世界人形師 〜人形、売ります。〜 ゆーれい @unknown0325
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