ExtraEpisode2 補填ゴーレム理論
「う〜ん…固定して土魔法を起動し続けるのは非効率だなぁ。魔力も持たないし…。」
陽の射し込む森の中。耕された土を眺めながら、一人の少女が頭を悩ませていた。
彼女が、当時5歳のメイカである。
畑の周りをグルグル回り、時折うがーっと叫んでから岩に座って落ち着く。
はぁっとため息をついてから、また独り言を繰り返した。
「もぅ…魔導具制作は好きだけど適当に任せすぎだよ。」
当然、メイカがこうなっているのには理由が有る。
メイカはこの歳で色々作りまくっていた結果、この地域ではそこそこ有名になっていた。
それから町や村の人の依頼をこなす様になったのだが、その依頼の一つが今頭を悩ませているのだ。
内容は『洪水で不作だから、成長を促進させる魔導具を作って欲しい。』と言う物だ。
元々設置型として土魔法を使う物はあったのだが、それが洪水によって破壊されてしまった様だ。
この依頼、実は達成するのは簡単なのだ。
達成するだけなら、以前と同じ設置型の魔導具を作れば良い。だが、それではまた洪水が起こった時に今回と同じ轍を踏むことになる。
だが、結局同じ結果になっては意味が無いので、その点を改善した魔導具を考案しているのだ。
「いっその事魔導具が自分で判断してくれたら良いのに…AIみたいなさぁ。…ん?」
願望垂れ流しな独り言を漏らしながら悩んでいると、近くの藪からゴソゴソと物音が聞こえてきた。見ると、狼の魔物『レッサーウルフ』がノソノソと現れた。
「がぁるるるる………」
「うぉ…レッサーウルフ。強くはないけど戦い方が難しいんだよなぁ…。」
ウルフを
発動するのは土魔法。土操作で土砂を操り、人型を形作って行く。やがて完全したのは、土で出来たゴーレム。
このゴーレムは、メイカが操作して戦う時によく使用している物だ。操作性が良く、スピード、威力共に優秀である。
「んっ!」
ゴーレムに魔法をかけて、ウルフに向かわせる。ガタガタと動き出した約2mのゴーレムは、その巨体に見合わぬ速度で走り出した。
それに合わせてウルフも動き出す。ゴーレムを警戒している様で、ジリジリ下がりながら唸っている。
ウルフの目の前まで移動した後、腕を大きく振り上げた。そして、速度にゴーレムの質量を乗せて振り下ろす。
─ドンッッ
振り下ろされた拳は地面を穿ち、辺りに亀裂が広がった。
だが、ヒビの上にウルフは居なかった。土煙の奥に影が見えることから、直撃前に避けたと推測出来る。
「ぐるる…ぐぁぅ!!」
土煙が引いたのを確認したウルフがゴーレムに攻撃しようと突っ込んでくる。爪で破壊しようと振り下ろしたウルフにあえて突進し、攻撃をボディで受ける。
「効かないよっ!」
「ぐるぁっ!!」
手を伸ばし、逃げないようにウルフの足を掴む。再び腕を振り上げて、離れようと
─ボンッッ
身体に直撃した瞬間、爆ぜる様な音と共に血が飛んだ。メイカの頬に生温かい液体が付着する。
「ふぅ、討伐かんりょー!」
グチャグチャになった肉体に近づき、核を引っこ抜く。ゴーレムを撫でて魔法を解くと、身体が崩壊して土砂に戻った。
「ゴーレムは難しいけど気楽で良いねぇ。まぁ自分で操作出来るのも良いけど、自動で戦うのもロマンだよねぇ!」
崩壊を見届けた後地面に寝転び、再び思案に耽ろうとした瞬間、メイカの頭にとある案が浮かんだ。
「ゴーレム…そうだ、ゴーレムだ!」
思わず飛び起きたメイカが、顎に指を当てて考える。
「移動して好きなタイミングで魔法を起動出来る。災害にも対応出来て、さらにAIの様にそれを自動で行える。ゴーレムにどうにか知能を持たせられたら、農業の効率化だけじゃない…もっと色んな事に応用出来る!」
その未来を想像したメイカが、早速形にするために構想を練り始めた。
◆◆◆◆◆◆◆
「ゴーレムを作るまでは大丈夫。そこから知能を与えるには…。………あぁもう!私理論とか考えるの苦手なんだけど!」
場所は変わって少し踏み入った森の中。
またまた頭を抱えたメイカが次の壁に当たっていた。ゴーレムに知能を与えるまでの理論が確立出来ないでいるのだ。
「つまりAIと同じな訳だよ。学習出来る機能を付ければどうにかなる…はず!と言う事は、脳の動きを再現する物だから…。魔石?」
魔物は身体の重要な部分。人間で言うところの脳や心臓を、全て核で補っている。これが無ければ魔物は動けないし、逆にこれが有れば魔力の回復も身体の再生も出来る。
これを再び動かす事が出来れば、脳と心臓の働きを再現出来るのでは無いかと考えた。
だが、ただ動かすだけでは元の魔物の知能と同じレベルになってしまう。
「知能の高い魔物を狙う?でもそれだと入手難易度も効率も悪いよねぇ…。駄目だぁ…一回別の角度から考え直すべきかなぁ。」
と言うことで、別のアプローチを考える事にした。町まで行って、歩きながら考える。
町には活気が溢れており、煙の登る煙突や出店が並び、水魔法で噴き出している噴水の周りには走り回っている子供達がいる。
「ここは活気があって良いねぇ。…お、あれは…。」
噴水のベンチに座って町人を眺めていると、三人の子供が魔法で遊んでいるのが見えた。
水魔法で水を出し、空中でフヨフヨと形を変える。
別の子供は、走り回って火照った顔に風魔法を当てて涼んでいる。
「はは、子供達が遊んでる光景は微笑ましいよねぇ。水とか風とか生み出して、日本じゃあ………あ。」
その時、またメイカの頭が閃いた。
「魔法…魔力で物体や現象を引き起こす力、無から有を生み出す、それは…身体機能の拡張も含まれる?」
身体機能の拡張。
それは筋力増強や視力強化など、身体の機能を増幅させる技術。日本では幅広い漫画で使われていた物。
その名を、身体強化。
足りない筋肉を補い、視力を上げる。つまり、無から有を生み出す力だ。これを脳機能の拡張に応用出来れば?
人間を遥かに越えた成長速度を持つ、擬似的なAIが完成する。さらに魔力で補うため、どんな魔物の魔石でも使う事が出来る。
「これだ…。必要なのは身体と魔石、それに大量の魔力。その量は魔石の質によって変わるけど、少なくとも脳機能を補完出来るくらいの…。」
(私だけの魔力じゃ限界がある。仮に補えても幼児くらいの知能にしかならない。…考えろ、大量の魔力を得る方法。魔力…その塊と言えば………ぁ。)
「魔物だ…。」
そう、魔物は殆どが魔力から生まれた、言わば魔力の塊だ。その核、つまり別の魔石から魔力を取り出して、それを本命の魔石に注ぐ。
そこまでの道が見えた瞬間、家に向かって走り始めた。大量の魔石を取り出すために。
こうして、人形を作るまでの理論が完成したのだ。そしてこれは後の世で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます