第26話 小学生のときの思い出

「えー。公太と同じチームになりたくないー」


公太と滝川が小学5年生のときの話である。

クラスの体育でチームを作ってリレーをすることになった際、クラスメイトのひとりが不満を口にした。公太はクラスで、否、学年でも最も足が遅いので彼が入ると負けるから嫌だというのがその子の言い分だった。事実足の速い子を先頭にしても公太が走ることで差が縮まって最終的にビリになるというのがいつもの流れだった。クラスの体育ならまだいいのだがクラス対抗で行われる全体リレーでもそうなのだから、公太は自分の鈍足が皆に迷惑をかけるといつも肩身の狭い思いをしていたのだが、ここで真っ先に彼と同じチームになると挙手したのが滝川だった。


「私がアンカーを走って、必ず1着でゴールしてみせます!」


青い瞳を輝かせ口元に自信を漲らせた笑みを浮かべて宣言する滝川に、皆は冷ややかな視線を向けた。たとえ、どれだけ滝川の足が速かったとしても公太の鈍足とミスが合わされば必ずビリになると彼らは踏んだのだ。

論より証拠ということでリレーが開始された。

ひとりにつきグランドを一周してバトンを渡すというルールである。

公太は4番目に走ることになっている。

元より負けず嫌いの小学生たちである。手加減という言葉はなく、全力で勝つために走りどれだけ敵が遅くとも容赦することはない。3番目の子から苦心しながらもバトンを受け取った公太だったが、やはり脚力に相当な差があり半周以上も差が開いていた。

大汗をかきながら滝川の待つ場所まで駆けていく。滝川は手を後ろにしてバトンを受け取る構えを取った。大好きな人からバトンを受け取り、必ず1着になる。これまでの彼に対する印象を覆してみせる。滝川は青い瞳の奥に闘志を燃やしていた。


「滝川!」


息も絶え絶えになった公太からバトンを受け取った刹那、滝川はトップギアで駆け出す。

前しか見えない。走る相手のことなど考えない。小学生とは思えぬ桁違いの走力で半周差をものともせずに3人を瞬く間に追い抜いて4人目にも迫っていく。

長い金髪を靡かせ最後のひとりも追い越して、とうとう先頭でゴールした。

さすがに疲労がたまったのか額から汗を流して両膝に手を置いて呼吸を整える。

皆が呆気にとられる中で公太が真っ先に彼女に駆け寄って称賛した。


「すごい。すごいよ滝川! 1着でゴールするなんて……」


滝川は薄く微笑んで言葉を紡いだ。


「どういたしまして。私も公太君がいても1着になれるって証明できてよかったよ」


小学生の頃のふたりの忘れられない思い出である。

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