第25話 海水浴とファーストキス
「どう……かな」
モジモジと内股になりながら海水浴場へと現れた滝川を見た公太は石化した。
薄い胸元を隠す赤いフリル、細く引き締まった腹に縦長のへそ、雪のように白い肌。
長くしなやかな手足。日差しに照らされ黄金色の輝きを放つ金髪に困ったように八の字眉をする幼馴染の破壊力は凄まじいものがあった。普段は騎士を自称しイケメンオーラを全開にしているだけに、そのギャップはジェットコースター級と表現しても過言ではない。
腰にはめた巨大な浮き輪から手を放すと蛇口を捻ったかのように凄まじい量の鼻血が噴き出す。
「公太君⁉」
ドバドバと鼻血を出しながらフラつく彼に滝川は慌てて駆け寄る。
「どうしたの? 日差しが強かった?」
目の端に涙を浮かべ懸命に声をかける滝川に公太は言葉を紡いだ。
「滝川の水着が最高すぎて、不意打ちされちゃったよ」
「それは、嬉しいなあ」
滝川は微笑し、公太を抱きとめる。
自然、整った顔を接近させて公太の唇を奪おうとして寸前に我に返って額にキスをした。
公太は太陽に目を細めながら。
「今、僕にキスする流れだったんじゃない?」
「……人が、見ているからね。それよりも今は、海を楽しもうよ」
滝川の言葉に公太も同意し、海を満喫することにした。
滝川は日焼けを防止するために日焼け止めを念入りに塗って、公太にも同じように塗っておく。日焼けは痛く地獄を見るし美白の肌が小麦色になるのは避けたかったし、好きな人がこんがり焼けるのを見るのは避けたかったからだ。
公太は泳げないので巨大な浮き輪を持参していたが、一緒に海に入り彼の手を取る。
深いところにはいかず浅瀬で遊ぶことにした。
手をとってゆっくり進んでいると、不意に公太が口を開いた。
「滝川の指、綺麗だね」
細く長く白くすべらかな指先を指摘され、滝川の顔がすぐに赤くなる。
「どうしたの? 僕、まずいこと言っちゃったかな」
「違うよ。ただ、嬉しかったんだ。君に褒められたことが」
「そう?」
「そうだよ」
ゆっくりと海を進んで向かい合いながら何気ないやりとりを重ねていく。
「ねぇ。僕たち周りの人からどう思われているかな?」
公太の顔に影が差す。声が不安で揺れている。
「僕たち、姉弟とか思われていたらどうしようって思うときがある。幼馴染なのに、同い年なのに……」
滝川は心が痛んだ。
公太は自分の幼い外見を気にしている。低い身長を気にしている。
大人びた自分といるとどうしても比較してくる人がいることを滝川は知っていた。
それでも彼女は彼の両頬に触れて無理やり顔を上に向ける。
青い瞳と黒い瞳が見つめあう。
「周りの人の反応なんて気にしなくてもいいんだよ」
「滝川、でも……」
言いかけた公太の口を滝川が唇で塞ぐ。
甘く柔らかい感触に公太の瞳が大きく見開かれた。
ゆっくりとバラ色の唇を離して滝川が言った。
「私は君を愛してる」
真剣な眼差しで滝川は言葉をひとつひとつ積み重ねていく。
「誰がなんと言っても私は一生公太君を愛し続けるよ」
「滝川はブレないなぁ……」
「ごめんね。少しはブレて君を嫉妬させられたらいいんだけど、こればっかりは変えられそうにない」
「僕より素敵な男はいっぱいいるよ?」
「いないよ。私にとっては君がいちばん」
滝川は感情が抑えられなくなって公太を強く抱きしめた。
その後ふたりは水をかけあったりして遊んで海から上がって更衣室へ向かって歩きながら会話をした。
「ところで、さっきのってファーストキス?」
「君があまりにも悲しそうな顔をしているものだから、初めてをあげちゃったよ」
「ごめんね」
「謝らないで。私が勝手にしたことだから。なんならノーカウントにしてもいいよ。
さっきのは事故みたいなものだし」
「それじゃあもっとムードがあるときに」
「そうだね。今度はかわりばんこにキスをするのもいいかもしれないね」
「でも、滝川っていつもキスしてるよね?」
「頬にね。唇のキスは特別な時にって決めているから」
「じゃあさっきは特別だったんだね?」
「さっきのは緊急事態かな。愛している人を悲しませたくなかったからね」
「ほんと、滝川ってズルいと思う」
「ん? どこがかな?」
滝川は余裕ある意味深な笑みを浮かべて女子更衣室の中へと消えていった。
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