第24話 滝川は可愛い水着を選びたい

デパートの水着売り場で滝川は細長い指を形のよい顎に当てて考え込んでいた。

赤い眼鏡を光らせひとつひとつの水着に真剣な眼差しを向けている。

生地に触れてデザインを凝視し悩むという過程を何度も繰り返すが結果は出ない。


「公太君はどれを着たら喜んでくれるだろうか……」


心の声が出たことに慌てて周りを見回すが他の客が気にしている様子は見られないと確認して安堵のため息を吐き出した。

彼女は夏の定番イベントの海水浴でどんな水着を着るべきかと思案していた。

先日公太から「海に行きたい」と言われたのだ。

連日の猛暑だし夏祭りには行ったが海にはまだ訪れていない。

断る理由はなかったのだが滝川は水着を持っていなかったことを思い出した。

否、学校の水泳の授業で使用するスクール水着は持っているのだが、さすがにスクール水着で海に行けば確実に浮いてしまうと考え、水着の新調に繰り出したのだ。

こうしてデパートの水着売り場に来たものの、あまりの種類の多さに滝川は圧倒されていた。世間の女子にとっても海水浴やプールは大切なイベントなのだろう。

滝川は騎士だが、一応少しは公太に異性として認識してもらいたい気持ちはあった。

それに地味な水着を選んで万が一彼が他の女性にときめいてしまった場合、複雑な気持ちになるかもしれない。それだけに妥協はできなかった。

じっくりと時間をかけて選んだ末に彼女はいくつかの候補に絞ることができた。

ひとつは定番の白ビキニで清純なイメージと滝川の白い肌にマッチするだろう。

ふたつ目は大好きな赤ビキニなのだが、赤は海でとにかく目立つ。スレンダー体型の彼女は胸にはあまり自信がなかったので、着るのはかなりの勇気が求められた。

最後は白地に赤のフリルがついた可愛らしいビキニだ。胸と腰のヒラヒラしたフリルがガーリーで凛々しいイメージのある滝川にはかなり意外なチョイスだ。

目を瞑り海での自分の光景を想像してみるが、明確なイメージがわいてこなかったのでものは試しと試着室で着てみることにした。

実際に試着し、鏡に映る自分の姿を一瞥した滝川は長く深いため息を吐き出した。

自覚していることなのだが、やはり胸は薄い。微かな膨らみと谷間があるかどうかといった発達程度で、とても同年代女子の成長具合には及ばない。牛乳は毎日欠かさず飲んでいるのだが、彼女の場合は成長が全て背丈のほうにもっていかれ、胸への影響は微々たるものらしい。

非情な現実に唇を噛んだ。鍛えているので引き締まって腹筋も割れている。

胸では勝てずとも手足の長さと腹で魅了すればいいのではないかと滝川は考え直した。

ちなみに魅力的だと支持を集める尻を強調するのも奥の手としてはありだと思った。

だからこそ肌の大部分が隠れるスクール水着だけは候補に入れないようにしたのだ。

もっとも公太がスクール水着がいいと言い出す可能性も否定できないが、それは今は考えるだけ無駄である。わずかな可能性を考え出すとキリがない。

今は今の水着に集中すべきだろう。

水着の写真をとって公太に送って決めてもらう発想もあったが、卑怯な気がしてやめた。

それに本人に決めてもらうよりは自分で決めて当日披露した方が驚かれるはずだ。

三つの水着を手にとり試着し悩みに悩んだ末に彼女はフリルの水着を選んだ。


「公太君は可愛い系のものが好きだし、私は赤が好きだし……いいと思う」


決断すると霧が晴れたような感覚がした。

この際だからということで彼女は普段束ねている髪を解いた。

長く艶のある金髪が広がって背中や胸元にかかる。


「これが……私?」


彼女自身さえも絶句するほどの超絶美少女が鏡の中にいた。

赤眼鏡をかけ長い金髪を揺らした姿は清楚な雰囲気が漂っている。

これならきっと公太君も喜んでくれる。

胸の奥から噴き出した自信が確信へと変化を遂げる。

口角を上げて微笑んでから、私服へ着替え、会計に水着を持っていく。

海水浴の当日が楽しみだと笑みを深めて滝川はデパートをあとにするのだった。


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