第27話 公太の心情

滝川は毎日朝に僕を起こしにきてくれて朝ごはんを作ってくれる。

いつもとてもおいしくてありがたいのだけれど、彼女は疲れていないのかなと思う。

毎日僕のお世話をしてくれて困ったときは助けてくれて、なのに僕は何も恩返しできていない。その旨を伝えると滝川は美しい笑顔を見せて言った。


「君が笑顔でいてくれることが私にとっての喜びだから」


僕よりずっと背が高くてスタイルがよくて美人で運動も勉強もできる幼馴染。

そんな彼女が僕に深い愛情を向けてくれるのは嬉しいけれど、勿体ないと思う。

滝川は僕のような落ちこぼれじゃなくてもっと優秀でイケメンな人を愛した方が遥かに幸せな人生をすごせると思うのだけれど、彼女は訊ねる度に首を振って答える。


「私はどんな美形よりも君が好き」


躊躇いもなく嘘もなく彼女は即答する。

その強さが眩しくてかっこいいと思う。

小学生のときは確か僕の方がずっと背も高くて体格もよかったと記憶しているけれど。

いつの間にか追い越されてしまった。そういえば彼女はいつも牛乳を飲んでいる。

だからだろうか。

僕も今から牛乳を飲めば成長するかとも思うけど、考えてみれば小学4年のころから成長が止まっている感じがするから望みは薄いかな。

滝川が明確に変わったのは小学4年生時に僕が彼女をいじめから守ったときからだったと思う。

唐突に「私は君の騎士になる!」と言い出し、縦ロールのお嬢様っぽい髪型と白いドレスをやめてポニーテールに、服装はボーイッシュになってぐんぐん背が高くなった。

顔立ちも大人びて美人になって元からよかった成績も運動神経も上昇して、中学生の頃には様々な部活に助っ人として顔を出すようになって大活躍。

とても僕には手が届かない存在になってしまった。

時折、彼女が下級生や上級生、同級生に呼び出されているのを見たことがある。

たぶん告白なんだろうと思っていたらやっぱりそうで、滝川はモテていた。

異性からも同性からも告白されていたけど、当然ながら僕は告白されたことがない。

バレンタインのチョコも貰ったことはない。

ただひとり、滝川を除いては。

彼女は中学校入学時に「三年間騎士として君に仕え、愛し守りたい」と宣言した。

その言葉通りに彼女はバレンタインには愛情のこもった手作りチョコをくれるし、愛をしたためた情熱的で知的なラブレターも渡してくれる。

他の人ではなく僕にだけくれるから、特別感はあるかもしれないけど、他の子に嫉妬されないかだけがいつも不安だった。

他の男子や女子にも同じことをすればいいのに、僕だけにチョコを渡してくる。

彼女は僕以外は見えていない。一途とも言えるけど、重いのかもしれない。

一緒にいる毎日は素敵で楽しいけれど、どこか、心の奥で苦痛に思う自分もいる。

それはきっと滝川と自分のスペックを比べてしまうから。

クラスの皆が言葉にしなくとも「どうしてお前みたいなやつが騎士様の愛を存分に受けているんだ」という嫉妬の視線を向けてくる。

息苦しい。釣り合わない。

彼女が騎士ではなくて王子様だったらきっと全員に平等で誠実な態度を示しただろうに。全員に優しかったら僕だけが悪目立ちすることもないだろうに。いや、違う。

滝川は基本、弱い人や困っている人を放っておけない。

この前もカレーパンを楽しみにしていた子にパンをあげたり。

コンビニの強盗を捕えたり。

人の悲しむ姿を見たくないから全力を尽くす。

その中には僕も含まれているだけで……その割合が高すぎるだけだ。

これまで生きてきた中で滝川より立派で素敵な人を僕は知らない。

逆に言えば、素敵すぎるからこそどうしても引け目を感じてしまう。

完璧すぎるが故に自分とは釣り合えていないと思うから。

僕は君を愛していいの? 好きになってもいいの?

心の奥底にある不安を見ないようにして僕は今日も彼女に甘えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る