第21話 滝川は似合う浴衣を選びたい
夏休みのある日、針山さんから電話がかかってきて「夏祭りに一緒に行かない?」と誘われた。友達と同じことをするのは嬉しいし、公太君と一緒ならもっと嬉しい。
彼に訊いてみると行きたいとのことだったので、当日駅で針山さんと合流することに決まったのだが、問題は何色の浴衣を着ていくかということだった。
公太君は浴衣は着ないということなので、レンタルの着物屋さんにひとりで行ってどの浴衣がいいのか選んでもらうことにした結果、赤地に黄色い帯の浴衣にした。
赤は好きな色だし万が一公太君がはぐれてしまってもすぐに私を見つけられるように。
背が高いから人に紛れてもすぐにわかるとは思うけれど、油断はできない。
着付けをしてもらって全身鏡で姿を映してもらう。
「お客様、大変似合っていますよ」
「そう、でしょうか……」
褒められて顔が赤くなるのがわかる。
浴衣はあまり着ないから自信はなかったけれど、褒められたのは素直に嬉しい。
ちょっとだけ勇気を出して着付けをしてもらった女性の店員さんに訊いてみる。
「男の人って喜ぶと思いますか?」
「お客様は大変お美しいですから、男性もきっと喜ぶと思います」
その言葉に心が温かくなる。
試しに家でゆっくりすごしているであろう公太君にスマホで着物姿の写真を送ってみると、『すごく似合う! 可愛い!』との返信がきた。
それだけで火が出るほど恥ずかしくて、けれど嬉しくて。
ちょっとだけ泣きそうになる。
凛々しいとかカッコいいとかはよく言われるけど、可愛いと言ってくれるのは公太君だけだ。
大好きな人だけが言ってくれる特別な言葉は、いつだって私に自信をくれる。
頷いて店員さんに言った。
「これで、お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます