第13話 滝川の凄まじい努力
「ふたりともマジすごすぎるんだけど」
話を聞いた針山は猛烈なのどの渇きを覚え、メロンソーダを一気にあおった。
冷たく爽やかな炭酸が喉を通って涼を与え、糖分が頭を明瞭にしていく。
ふたりの過去は一般家庭に育った針山からは想像もつかず、どこからツッコミを入れていいのかさえわからなかったが、彼らの精神力が鬼のように強いことだけは理解できた。
「それで、その後はどうなったの?」
「フフッ、知りたい?」
滝川はウィンクをして人差し指を自身の唇に当てる仕草をしてから続きを語った。
公太は正義感こそ強いがとてつもない劣等生で、彼の家族も匙を投げていた。
家族の名誉のために公太を優等生にするという道もあるにはあるのだが、それには公太に非常な苦痛を与え存在を全否定することにも繋がりかねない。
滝川としては彼は彼のままで幸せでいてほしかった。ならば、どうするか。
滝川は考え、答えを出した。
自分が彼を支えられるぐらい優秀になればいい。もともと優れた能力をさらに磨くために滝川は凄まじいまでの努力を課した。毎日の筋トレに勉強、ルックスを磨くべく美容にも気を付け、二リットル入りの牛乳を毎日三本も飲んで身長を伸ばした。
今でも滝川は牛乳を飲むことを欠かさない。まだ育ち盛りでもあり、身長が伸びるかもしれないと思っているのだ。こうして滝川はすくすくと成長したが、公太は早熟だったのか成長が止まってしまった。
滝川は中学に上がると期末テストは全ての科目で学年一位を獲得し、特定の部活にこそ所属していないものの、あらゆる部活で助っ人要因として活躍。センスの良さを遺憾なく発揮して多くの部活の発展に貢献した。
柔道、空手、剣道部では女子どころか男子の主将を相手にしても勝利するほどの凄まじい戦闘力を身に着け、生徒たちから畏怖の目を向けられていた。
その美貌と凛々しい性格から女子からは憧れの対象、男子からは恋愛感情を向けられることもあったが、その全てを「公太を守り支える」という理由の一点張りで断っている。
話を聞き終わった針山は盛大にため息を吐いた。すごすぎて言葉が出ない。
まず滝川の意志力がすごい。惚れた相手に普通はここまで努力できない。
「ねえ。公太君」
針山はオレンジジュースを飲んでいる公太に言った。
「麗ちゃんに愛されて君は幸せだねえ」
「ん? そうかな」
「そうだよ」
即答した針山だったが、彼女は公太の一瞬の間が気になった。
劣等生と完璧超人。
確かにそのスペックには天と地ほどの差がある。
その凸凹っぷりを誰かに比較されたら、かなりしんどいかもしれないと針山は苦笑するのだった。
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