第10話 公太が心配すぎる滝川は男子の水泳に参加したい
「次の体育だけど、男子は水泳だよね」
体育の時間前。
更衣室で体育着に着替えながら滝川は同じクラスで数少ない友人の針山(はりやま)に言った。
針山はふんわりしたツインテールにぱっちりした瞳の美少女だ。
彼女は興味なさげに答えた。
「そういえばそうだね」
「……私も男子の水着で水泳に参加できないかな」
「なんで⁉」
水着になるにしてもそこはスクール水着だろうと言う前に滝川が喋り出していた。
「だって水泳だよ? 公太君は背が小さいから溺れてしまうかもしれないし、誰かにいたずらで沈められてしまうかもしれない! 水中じゃ助けを求めることもできないから大変なことになったら手遅れなんだよ! だから私が傍にいないと……」
「いやー、高校生にもなっていたずらはありえないって」
「でも万が一ということもあるし水の中でこむら返りが起きたら公太君沈んでしまう」
「麗ちゃんはほんと公太君大好きだねー。それがピュアで可愛いところでもあるし、好きなところなんだけどさ。さすがに男子に混じるのは無理があるでしょ」
冷静にツッコみを入れると滝川が妙な自信に満ちた顔をした。
「私は胸もそこまでないし、背も高いから混じっても大丈夫」
「じゃない。男子の餌にされるかも」
「それでも公太君を守れるなら一片の悔いもないよ」
「いやいやいや。ダメだから。友達を失ったら私も悲しいし。つーかさ、心配なのはわかるけど、すこしは公太君を信じてやりな」
「うぅ……公太君……」
目に見えて落胆する滝川に針山は呆れ混じりの嘆息をした。四月に入学して同じクラス、席も後ろということもあってフレンドリーな関係を築けているが、彼女の公太ラブにはついていけないところがあった。
社長令嬢で才色兼備だったことから同級生に嫉妬され小学生の時に壮絶ないじめを受けているところを唯一かばって助けてくれたのが公太だったというのは聞かされているし、惚れる理由としてはある程度妥当がいくものだとは思うのだが、いくらなんでも愛が重すぎる。
それに今では立場が逆転しているようにも見える。
「とりあえず今は体育の授業に行くしかないっしょ。次の時間割で会えるんだし。
まずは目の前の走り競争を頑張りな」
「うん……そうだね、針山さん。ありがとう」
「いいっていいって。ウチの騎士様は完璧だけど公太君のことになるとパニくるのが愛嬌だよね」
滝川は胸に手を当てて爽やかな笑顔で。
「私にとって公太君は人生の全てだから」
「言い切るのはかっこいいけど、1パーセントでいいから私も入れてほしいなー」
「ごめん……針山さんも大切なお友達だよ」
「サンキュー」
この日の体育のグランド一周走で滝川は抜群の脚力を発揮して金髪ポニーテールを揺らして女子たちをゴボウ抜きにして一着でゴールし、参加している女子たちから黄色い歓声を浴びたのだった。
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