プロローグ② 孤児院訪問とコロッケ作り

カタン……


包丁を置いた音が、明るくなり始めた厨房に響いた。


「……さて、そろそろ行くか」


私はエプロンを締め直し、準備を整える。

今日は、いつものように シルビアと孤児院に行く日だ。


すると——


バンッ!


勢いよく店の扉が開く。


「リーファー! もう行くわよ!」


腕を組んで立っているのは、シルビア・アフロニア。アフロニア王国第二皇女にして、王位継承順位では五位、元冒険者であり、

現在は、震災直後の陣頭指揮が評価されて、王太子親衛隊の副隊長をしている、私には雲の上の存在の人物がニヤリと笑みをこぼしている。

彼女は毎週のことながら、まるで遊びに行くようなテンションで私を迎えに来る。

「いやいや、まだ準備が——」


「準備なんていいから! 今日はコロッケよ! 早く行くわよ!」


「ちょっ、急に引っ張らないで!」


「さあ出発!」



シルビアが乗ってきた馬型の魔獣である《ドラケイン》(ドラゴンホース)が引く馬車に、食材や、調理器具を手早くのせて、

強引に腕を引かれ、まるで、犯罪者が連行されるように、店をあとにした



馬車を操舵するシルビアの横に座り、私はため息をついた。


「……毎回思うんだけど、なんでそんなに張り切ってるの?」


「決まってるでしょ! みんな楽しみにしてるんだから!」


「みんな……って、子供たち?」


「それもあるけど——」


シルビアはニヤリと笑いながら、私を指さした。


「リーファが『シルファねぇ』って呼ぶ日を、私はずっと楽しみにしてるのよ!」


「……またその話!?」


そう、シルビアは孤児院の子供たちに 「姫様じゃなくて、シルファねぇって呼んで」 と強要している。


当然、私は頑なに拒否しているのだが——。


「さあ、今日こそリーファも “シルファねぇ” って言いなさい!」


「畏れ多い!! 絶対言わないから!!」


「ふふっ、まぁいいわ。いつか言わせるから!」


「……なにそれこわっ!!」


シルビアの満面の笑みに、私は思わず後ずさった。

その様子を見ていた周りの人たちが、クスクスと笑っている。


そんなこんなで、私たちは孤児院へ到着した。


「さあ、みんな! 今日はコロッケを作るわよ!」

シルビアが、孤児院の入り口をあけると、

シルビアの声に、孤児院の子どもたちが元気よく集まる。

「やったー!」

「きょうも姫様の武勇伝ききたーい。」

笑顔にあふれる孤児院のホールをみながら

私は、店から持ち込んだ料理道具を孤児院の厨房に準備をはじめる。

気が付いた、子供たちは率先して、食材や調理器具を馬車から運び出すのを手伝う。


大鍋でジャガイモを沢山ゆで始める

「もう皮剥いていい?」

年長の男の子がエプロンを引っ張って確認する。

「この棒がスーってお芋を通過すれば、皮をむいてね。」

ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中にあるイモに竹櫛を指してみると

スーっと奥にささっていく。なにも引っ掛かるものは指先からかんじない。

「よし、年長さんはお鍋からこちらにお芋をうつして、」

「熱いからきをつけならが皮をむいてね。」

「はーい」

鍋から上げたじゃがいもの皮を剥いて、木のボウルに移し、マッシャーで潰していく。

年少の子どもたちも小さな手で頑張ってつぶしている。


「シルビア、玉ねぎをみじん切りにお願い!」

「ええ、任せなさい!」


シルビアは包丁を持ち、目にも留まらぬ速さで玉ねぎを刻み始めた。

カンカンカンカンカン!


「おおぉ!」

「すごい! すっごく細かい!」

「さすが皇女様!」


子供たちの歓声に、シルビアは得意げに胸を張る。

そんな中、私はポロっと

「みじん切りと千切り以外は料理は全くダメだから、このくらいは目立っても良いかね。」



「ふふ文武両道かつアフロニアで高位の魔法使いであるこのシルビア様にかかれば、みじん切りくらい簡単よ——あっ、目が……!」


「うわっ、しみる! 涙が……!」


彼女は慌てて目をこすりながら、涙目で後ずさる。


「皇女様……」

「大丈夫?」

「玉ねぎのみじん切りの戦いに敗れたか……」


「くっ……玉ねぎとは、なかなかの強敵ね……!」


みんなが笑う中、私は具材を混ぜ合わせる。


「次は丸めて形を作るわよ!」

「はーい!」


子どもたちが手を使ってコロッケのタネを丸める。


「ころもをつけたら さあ 揚げましょう」


「衣は、粉をつけて、卵をくぐらせて、最後にパン粉を——」


「サクルム(パン粉の異世界名)をつける!」


子どもたちも楽しげに、順番に衣をつける。

最後に鍋の油へ、そっとコロッケを投入。


「じゅわ~!」


黄金色に膨らみ、香ばしい匂いが広がる。


「わあ~、いい匂い!」

「美味しそう!」


そして、ついに——。


——コロッケが完成した!


「さあ、みんなでいただきましょう!」


揚げたてのコロッケをみんなで食べ始める。

「あっつい。けどサクサクでおいしー」

みんなで作ったコロッケはとても美味しくできた。

孤児院の先生方も目をおいしそうにたべてくれる。

この笑顔のために、料理作っているんだな、とリーファは改めで

ーー食べることは生きる事ーーを思い出した。

「この赤いソース?つけてもおいしい」

「それはケチプっていう調味料よ。ほかにも、黒ソース、マヨソースとか色々あるから好きにつかってね。」

「はーい」


横では、冒険者をしていたシルビアが、自分の過去を面白おかしく説明している。

まさに武勇伝だと思う。

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