【番外編】ゲーミング大騒動
それは、何の変哲もないハロウィンの日の事。
夕方、家の中にハロウィンの飾りつけやお菓子を用意して家族の帰りを待っていた愛理の元へ、魔法学校の授業を終えた
二人は愛理とは違う世界に住む子供達だが、文字通りの魔法使いで魔法が使えるので、こうやって孫のような顔をしながらよく遊びに来る。
代わりばんこに頭を撫でる愛理の手の下から、夜羽達は興味津々でいつもと違った居間を見渡した。
「あのガーランド、紫とオレンジ色でハロウィンっぽくて可愛いね」
「カボチャも置いてある〜」
「ご近所さんから畑で収穫したのをお裾分けしてもらったんだ。折角だからカボチャのランプにでもしてみようかなって」
「ええっ。おばあちゃんが掘ったの? 中身くり抜くの大変だったでしょ」
「まあね。でも、藍が手伝ってくれたから大丈夫」
百均で娘の
「ね〜おばあちゃん、今日学校で面白いもの作ってきた」
そう言って、外套代わりのケープを脱ぎ捨てるや否や、恵李朱はおもむろに机の上へ大きな鍋を出現させた。
炬燵机の上にはギリギリ乗る大きさだが、いかにも魔法の薬鍋じみた分厚い陶器の大鍋は、かなり巨大だった。それでも机が軋む気配ひとつ見せないのは、流石魔法の大鍋といったところか。恵李朱が浮遊魔法で浮かせているのかもしれない。目を丸くしながら、愛理が空の大鍋を覗き込んだ。
「すごいねえ。陶芸の授業でもあるのかい?」
「ううん〜、これは魔法薬学の授業。まあ、陶芸みたいな事もやったんだけどね」
「特別な土を、授業の時にフィールドワークで探しに行ったんだ〜。魔法の森に変な蛇とか虫とか沢山いて、危ないのに恵李朱がふざけてなんでも拾ってくるから大変だったんだよ」
「ふふっ、まるでカカオからチョコレート作ってるみたいだな」
二人の苦労話を笑って聞いていた愛理の目の前で、恵李朱が制服を腕まくりし始める。
「見ててね」
水道から運んだ水を鍋に入れた恵李朱が、両腕を翳して呪文をぶつぶつ唱えると、鍋の底がぽうっと光り輝き出した。
その間に、夜羽は小さな鏡を取り出して角度を付け、鍋の側面に彫られた模様に光を当て始める。炎を使っている訳ではないが、光の魔法を使って鍋そのものを温めているらしい。
やがてぐつぐつと中身が沸き、何とも言えない色鮮やかな緑色に輝く液体が出来上がった。長いしゃもじで中身を混ぜる夜羽の隣で、恵李朱は鞄から取り出した薬草らしきものをちぎって入れながら、味を調整している。
「うん、これでいいかな」
「す、すごい色だけど……何なのかな、これは」
いきなり目の前で行われた魔法のデモンストレーションに、目を白黒させながら愛理が泡立つ中身を覗き込んでいると、恵李朱が得意そうにえっへんと胸を張った。
「ボクら特製の、魔法薬だよ」
緑がかった蛍光色が、愛理の頬すらも鮮やかな黄緑に照らし上げている。好奇心に駆られながらも、愛理はごくりと唾を飲んだ。
「これは、人間が飲むとどうにかなっちゃう感じの……?」
「緑色に体が光るの」
「……それだけ?」
「それだけ( ˙꒳˙)」
淡々と胸を張っている恵李朱に、思わず愛理は吹き出した。
お腹を折りそうな勢いで笑っている愛理の横で、夜羽は呆れながらも恥ずかしそうに頬を赤らめ、消え入りそうな小声で言った。
「人間界のハロウィンで、恵李朱がどうしてもおばあちゃんに見せてあげたいって言うから……」
「いやいや、すごい魔法だったよ。夜羽くんも、その為に協力してくれたんだよね。ありがとう、目の前で魔法を使うところなんて、君達がいなきゃなかなか見られないから、嬉しいよ」
「だって、結構いい感じにぼわぁって光るんだよ。何も持ってなくても防犯ライト点けてるみたいになるから、おばあちゃんに丁度いいかなぁって。おばあちゃん、よく夕方とか買い物行くし、最近は日も短くなってきて危ないし」
「へえ。恵李朱くんがそこまで言うなら、ちょっと飲んでみようかな」
「えっ……だっ、大丈夫? ボクも一緒に確認したから人間に害のある物は入ってないけど、飲んじゃったらどうなるか分からないし……」
「平気平気。体が光るだけなんだろう? ハロウィンに魔法薬が飲めるなんて、夢があるじゃないか。子供の頃から、一回やってみたかったんだよ」
「おばあちゃん、度胸あるね……」
それを聞くや、大喜びでお玉で湯呑みに鍋の中身を注ぎ始める恵李朱に反して、夜羽は心配そうな顔だ。
何せ、恵李朱は前に愛理や倒れた家族の皆を看病しようとして、鈴木家の台所でおかゆの鍋を大爆発させたという前科持ちなのである。
同じ薬の作り方を学校で習ったので、流石に爆発するようなものを入れていれば夜羽も気が付くはずだが、なぜか恵李朱が薬を作ると奇妙な現象が多発する事は請け合いで、夜羽は恐々と鍋の中身を覗き込みながら、ノートを開いて薬草の種類を確認していた。
「え〜っと、トウキにニンジン、ゴオウ、それから月の出た晩の夜露でしょ……間違ってはないと思うけど……」
「おや、すごいノートだね。この薬草は、こっちの世界でもよく見る漢方薬かな?」
「あっ、うん。向こうにも似たようなのが生えてるんだ。本当は光るだけの薬なんだけど、先生が自由にアレンジしていいって言ったから、滋養強壮効果のある調合にしようと思って……飲むと元気は出るけど、胃や心臓に負担の掛かるものは入ってないの。だから、おばあちゃんも飲んだら体ぽかぽかになると思う」
「すごいじゃないか。それは、体が光らなくても飲んでみないとね。ふふ、相変わらず夜羽くんは優しいね。
「えっと……それも、少し……」
照れ照れと手を繋ぎ合わせて俯く夜羽の顔は、真っ赤になっていた。
夜羽と恵李朱は魔法使いでもあるが、主の紫咲と契約している守護天使と悪魔でもある。体が弱く、あまり外へ出られない紫咲の為を思っての事だろうと思い、愛理は夜羽の艶やかなボブを撫でながら、微笑ましい気持ちになっていた。
一方、金のくるくるした髪の裾を巻き上げた恵李朱は、あたりいっぱいに緑の液体を飛ばしながらも、元気よく愛理に湯呑みを差し出す。
「はい!」
「もう、恵李朱ったらこんなに溢して……」
慌てて魔法の雑巾で汚れを拭き取ろうとしている夜羽の隣で、愛理は大鍋から注ぎたての液体を、自信満々に伸ばされた恵李朱の手から受け取る。
およそ湯呑みで飲むものとは思えないどろっとした蛍光色の液体に、愛理は思わず苦笑いになったが、ふとその懐かしい匂いに鼻をひくつかせた。
「なんだか、抹茶みたいな匂いがするような……」
「味もね、何パターンか試したの。メロンソーダ味とか、エナドリ味とか。これはね、青汁味」
「それは、名実共に健康になれそうな味だね、間違いなく……」
青汁であれば、愛理も健康のために飲んだ事がある。よくバラエティの罰ゲームなどにも使用されていた青汁だが、最近はメーカーによって随分と味も飲みやすく改善されているようで、愛理が飲んでいた物も、抹茶や野菜が好きであれば特に気にはならない味と香りだった。ただ湯呑みを傾けた時の、まるで藻が入っている池のような粘度だけはいささか気になったが。
(どんな味がするんだろう……)
覚悟を決めて、愛理がごくりと一口液体を口に運ぶ。味は確かに、見た目から予想したほど奇抜でもないし悪くない。むしろ、かなり美味しい。甘草のような仄かな甘みがあり、とろとろとした食感が舌に残るので、ちょっと甘いスープを飲んでいるようだ。
と、愛理が目を開けると同時に、棒読みで驚く恵李朱と、悲鳴のような声を上げる夜羽の反応が耳に入った。
「わあ」
「ちょっと恵李朱、何入れたの!?」
二人の声は聞こえるのだが、姿がまったく見えない。
……否、愛理の目は機能しているようなのだが、眩しすぎて何も見えないのだった。視界の全部が緑色だ。
蛍光色の光の眩しさに目が漸く慣れてくると、部屋の中でおろおろしながら動き回る夜羽と、慌ててノートや教科書に顔をくっつけている恵李朱の姿が目に入ってくる。その姿も漏れなく緑色に染まっており、部屋の四隅まで緑色の光が行き渡っている。
まるで自身が発光ダイオードになってしまったかのような状況に、愛理は驚きや困惑を通り越して、思わず笑いが漏れてきてしまった。
「な、なんでこんなにおばあちゃんが光ってるの……変な物入れないでって言ったよね!?」
「夜羽に教えてもらった奴以外は入れてないよお……ちょっと待って、ボクも飲んでみるから」
愛理が使っていた湯呑みからごくりと恵李朱が一口飲むと、あっという間に魔法が掛かって全身が緑に光り輝いた。普段は金色の髪の先まで蛍光グリーンで、イルミネーションもびっくりの眩さである。
「眩しっ!」
「ありゃー、失敗だ( ˙꒳˙)」
二人分の輝きに夜羽が手で顔を覆う中、全然失敗していないかようなのほほんさで、恵李朱は拾い上げた自分の薬学のノートを読もうとした。が、その体があまりにも眩しいのでノートのページすら真緑に反射してしまい、読めたものではない。
「夜羽、代わりに読んで」
「ええ〜っ、しょうがないなあ」
「読めるかい?」
「あっ……ちょっと待って、おばあちゃん離れてっ」
まだ居間から続く台所側の電気を点けていなかったので、暗すぎるのではないかと思わず愛理が夜羽の方へ顔を寄せたが、もうこれ以上部屋の電気は点けなくていいだろうと思えるほどに、既に室内は昼間並の明るさである。緑色だが。
夜羽は眩しくないところまで適度に距離を取りつつノートを両手に抱えながら、恵李朱に聞こえるように材料と分量の書かれた箇所を読み上げ始める。途中まで来たところで、恵李朱が「あ」と声を上げた。
「そういえば、体を光らせる材料をちょっと入れすぎちゃった気がする」
「ちょっと!? ちょっとどころじゃないでしょ!? こんなんじゃゲーミングおばあちゃんじゃんっ、恵李朱はいつもいつも材料の測り方が大雑把なんだから! お菓子作りと魔法薬作りは絶対正確に材料を測りなさいって言ってるでしょッ!」
「え〜、でもちょっとだけだしぃ、薬の光る効果も長くないわけだしい……」
「ふふ、そうだよ。この格好で出歩かなければいいだけなんだから」
まるでお母さんのようにカンカンになる夜羽と、開き直って言い訳を始める恵李朱を、頭のてっぺんからつま先まで緑色に光り輝く愛理が慰めている。
と、そこへぴんぽーんと、客の来訪を告げるインターホンが鳴った。顔を見合わせる三人。
「……どうしよう。僕が家の外に出なきゃいいだけだと思ったけど、誰か来る事までは考えてなかった」
「ぼ、ボク代わりに出てくるね!」
いつもお手伝いの時は二人一緒とはいえ、真緑に輝く恵李朱を玄関まで出す訳にはいかない。大慌てで夜羽が使い魔の猫であるベルと共に飛んで行くと、そこには顔馴染みの姿があった。
「やっほ。ハロウィンパーティーやるって聞いたからお呼ばれで来たんだけど。珍しいね、みんないるのに玄関の電気も点け忘れてるなんて」
「え、え〜っと……こ、これは、そのう……」
お菓子の袋を提げてそこに立っていたのは、役者をやっているこの鈴木家の三子・
満橋は舞台役者出身の直生とは違ってシンガソングライターとしての活動を主軸にしているが、それだけではなく俳優としての側面も持ち、テレビや映画にも出ている。
その縁で鈴木家とも今や旧知の仲であり、夜羽と恵李朱が魔法使いである事も満橋本人はうっすら勘付いている感があるが、いくら旧知の仲とはいえあの状態の愛理達を見せてしまってもいいものか、夜羽は大いに迷った。猫のベルも、困ったようにその足元をうろうろしている。
しかし、パーティーの約束をしていたのだとしたら追い返す訳にもいかない。困っていると、廊下を緑に輝かせながら、そこへ全身緑色の恵李朱がとっとこ歩いてきた。
「満橋さん、こんばんは〜」
「うわあ、随分派手な事やってるね。新手のハロウィンのイタズラか何か?」
「そうでーす。お菓子をくれなきゃ緑色にしちゃうぞ〜」
「恵李朱〜〜ッ!」
「満橋さんの声が聞こえたから、つい」
一応申し訳程度に体にケープを羽織っているが、それでも顔やら髪やら足やら、全身がライトよろしく煌々と輝いている事は隠しようもない。思わず夜羽はその襟首を引っ掴みながら、ひそひそと話し合った。
「いきなりそんな格好で出てきたら、満橋さんびっくりしちゃうでしょ!」
「大丈夫でしょ。今日はハロウィンだし、今までだって何回もこの家来てるし。最新鋭の飲む発光ダイオードで〜すとか言えば、多分誤魔化せるよ」
「今までの魔法の痕跡を、未だに誤魔化せてると思ってる恵李朱にびっくりなんだけど、ボク」
どう考えても、満橋が厚意で騙されてくれているだけである。くりくりした目でこちらを見つめてくる二対の瞳に、慣れた様子でブーツを脱いでいた満橋が問いかけた。
「ん? どうしたの」
「あの……なんていうか、学校の授業で習った薬を作ろうとしたら、失敗しちゃって」
「そのせいで居間が、なんていうかちょっと変な事になってるんだけど」
「あー、大丈夫大丈夫。君たちがいたら変な事が起こるのは、割といつもの事だし。ちょっとやそっとの事じゃ驚かないから。それとも、おかゆで天井に穴開けた時みたいに、私が直した方がいい感じのやつ?」
「あ……うーん、今回は満橋さんでも、ちょっと直すのが難しいかも……」
何せ、光る人間の治し方なんて、夜羽も恵李朱も時間経過ぐらいしか知らない。
光の強さを少し弱める魔法ならあっただろうか……と思い、光化魔法学の授業内容を頭の中で復習し始める夜羽の前で、廊下まで緑の光を放つ居間の扉を開けた満橋は、宣言通りのんびりと声を上げた。
「こっちも随分と派手な事になってますね」
「あはは、こんばんは、さくらちゃん……」
身の置き所がなく、台所の椅子に座った愛理が、苦笑いしながら手を振っている。
まるでツリーの電飾のような愛理と、同じ色で光り輝く大鍋の中身を見て、満橋が興味深そうに言った。
「すごいですね。ライブとかフェスの会場に置いたら映えそう。これを飲んだらそんな事に?」
「そう、滋養強壮効果のある元気が出るお薬らしくってね。おかげさまで体はさっきからすごいぽかぽかしてるんだけど、思わぬところで副作用が出ちゃったっていうか……」
「まあ確かに、これを見せられて元気が減る薬だって言われても信じられないぐらい、めいっぱい輝いてますけど……さっき家の前の道歩いてきたら、カーテンの内側から光漏れてましたよ。だから、一足早めにクリスマスのツリーの準備でもしてるのかなーって」
「え、ええっ、嘘っ! 大変!」
驚いたようにぴょんと跳ねるや否や、夜羽が慌ててカーテンまで走って行き、ぶつくさと呪文を唱えて魔法を掛けていた。その様子を眺めやりながら、満橋が笑って言う。
「まあ、ちょっとの間なら見かけた人も少ないだろうし、光の正体までは分からないから大丈夫でしょ。家の中でハロウィンのイベントやってるのかな、ぐらいに思ってくれるよ」
「だといいんですけど……」
「ねえ、ところで僕は、いつまで光ってればいいのかな……? まさか薬の効果って、一晩中ぐらい?」
「あ、それは大丈夫! そんなに沢山飲む薬じゃないし、コップ一杯ぐらい飲んだとしても、十分ぐらいで消えちゃうはずだから」
「そっか、なら良かった。夜にはよく眠れそうだね」
「あ、じゃあおばあちゃんを夜道で光らせる為には、水筒に入れてこの薬持たせなきゃいけないのかぁ」
恵李朱はまだ防犯対策に愛理を光らせる事を諦めていないらしく、夜羽の説明を聞いて今初めて気がついたようにう〜んと唸っている。
性懲りも無く薬を作り続けようとする恵李朱に、夜羽が呆れたまま何か言おうとしていると、あろう事か満橋が、食器棚から自分用のマグカップを持ってこちらに歩いてきた。
「ねえ、これ私も貰っていい?」
「え、ええっ!?」
「おお、満橋さんもピカピカになるのか( ˙꒳˙)」
「や、やめた方がいいですよっ! 効果時間が短いとはいえ、へんてこな薬だし……」
「大丈夫大丈夫。外で出された変な飲み物とか酒だったら絶対飲まないけど、そこの二人見てたら何が起こるのかは何となくわかったし。それに、直生くんまだ帰ってないんでしょ? イタズラ仕掛けてお菓子をせびるには丁度いいと思うんだよね」
「え〜っと、それはお菓子を貰えなかった側がする事であって、お菓子を目的にする事ではないような気が……」
ノリノリでお玉から薬を注いでいる恵李朱の傍で、夜羽はもっともな事を言いながらおろおろしているが、満橋による後輩いじりは今や皆の知るところである。もちろん直生もその対象の一人であり、何かにつけ満橋は直生の事を揶揄ったり困らせたりしては、その反応を楽しんでいるのであった。
「ごめんね。ウイスキー味は用意してないんだ(´・ω・`)」
「大丈夫、お酒なら私自分で持って来たから。何なら、これでちょっと割ってみてもウイスキーリキュールみたいで美味しいかも」
「恵李朱、謝るところ絶対そこじゃないと思う」
夜羽のツッコミにも構う事なく、恵李朱は二杯目を注いだ自分のカップと、満橋のマグカップで陽気に乾杯している。
「おお、結構勢いよく光るんだねえ、これ。本当に、舞台のライトとか非常灯の代わりぐらいにはなりそう」
「でしょー」
緑色の液体が輝く大鍋の前で、眩く緑に光り輝きながら杯を飲み交わす子供と大人。なかなかにシュールな光景である。
更に、体に害がなく光る時間にも制限があると知った愛理まで、自分の湯呑みにおかわりを始めてしまい、もはや収拾がつかない状況になっていた。おかげで巨大な鍋の中身は減りつつあるが、それを喜んでもいいものか、夜羽にはわからない。
(直生兄ちゃん、早く帰って来てえ……!)
祈るような気持ちでそう夜羽が思っていると、その願いが届いたのか、玄関の引き戸がガラガラと開く音がして、耳に馴染んだ足音が廊下から聞こえてきた。
「ただいまー。なんかやたら廊下が明るいけど何やっ……って眩しッ! なんじゃこりゃあ!?」
「流石直生くん、いいリアクションだわ」
「さくらさん!? どーせ夜羽か恵李朱のイタズラだろうと思ったけどさくらさんまで何やってんすかッ!? てか何なんですかこれっ」
「言ったじゃん、仕事早く上がったから先に家行くねって」
「言いましたけどゲーミング色に光ってうちに来るとか聞いてませんよ!?」
「うーん、流石に三人も光っちゃうと眩しすぎるかなあ」
「愛理まで何やってんだッ!? ちょっと待てこれどういう状況!? 眩しすぎて何も見えねえんだけど!」
腕で目を覆いながら、直生が阿鼻叫喚の悲鳴を上げたのは言うまでもない。緑の光の放出があまりにも激しすぎるので、結局は十分も経たないうちに夜羽が自分の魔法でどうにか光を収めて、直生に事情を説明する羽目になったのだった。
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