第46話 足止めと救援
オッサンたちは手に持っていた斧をポイポイと投げ捨てると、『リュミエール』の面々を担ぎ上げていく。
「た……た、すけ、て……!」
「大丈夫大丈夫、村に帰れば解毒薬はあるから。ポイズンバタフライの毒程度じゃ、人間死にはしないよ」
「ふ――ふざっ、ごぼっ……!?」
リディアは口から血を吐きながら、オッサンたちに助けを求めたが――オッサンたちの答えはあっけないものだった。
「オッサン、開拓村に帰ったらすぐにアデライトたちを呼んでくれ」
「了解だ。情けないが、後は頼むぜレオさん」
そういうと『アックス』は米俵のように担いだミシェルたちを連れて森を抜けていく。後には点々と血の跡が残されているのみ。
「さて、と。まずは鬱陶しいポイズンバタフライを……っと!」
よしmまだ少し痺れは残っているものの、弓を引くことは問題なくできるな。
未だに宙を舞って鱗粉をバラまいているポイズンバタフライの頭を正確に射抜く。
「グルルゥ……!」
さて、後は……森の奥からやってきた無粋な団体客だな。
唸り声を上げながら暗がりから姿を現したのは、
「――ギャンッ!!」
「悪いな、先手必勝ってやつだ」
根が臆病なコボルトは、一番強い個体が先頭に立つ。
まずは一体、先頭で群れを率いていたコボルトの鼻面に矢を叩き込んだ。
群れの中で一番勇敢な個体がやられてしまったことで、一瞬群れ全体に怯えが走る。今まで自分たちを導いて来たいわば頼れるアニキがやられてしまったのだ。群れの統制にも影響は大きい。
俺は間髪入れず、けむり玉を取り出すと地面に叩きつけた。
パンッという破裂音とともに真っ白な煙がもうもうと上がり始める。
「ギャウッ! グルゥゥゥ……!!」
「ウォォーン! ウォォッ――」
コボルトは鼻を
この煙には、コボルトが嫌がる薬草の葉を原材料として使っている。俺には多少スースーと爽やかな香りしか感じないが、
「ギィッ――」
「キャウゥン!?」
この隙を狙って一体、もう一体弓で仕留めた。
残りは一七体。
この頃になれば、白煙はほっそりとしか煙を上げなくなっていた。
効き目は抜群なのだが発煙時間が短いのは要改善、だな。さて、ここからが問題だ。
「グルルゥッッッ!!」
「ギャァァァッ!」
以前、『クロー』の昇格試験前に話をしたが、コボルトは一撃での討伐が必須条件。でなければ、攻撃を受けたコボルトは特殊な鳴き声をあげて仲間を呼び寄せる。普段は臆病なコボルトだが、仲間が攻撃を受けると逃げても逃げても追ってくると言う厄介な性質を持つ。
「ちっ、一体仕留め損ねていたか」
「ギョォォォォォン!!」
それがこの鳴き声だ。
少し間抜けな、だが夜の森に響く不気味な鳴き声は、コボルトの臆病な性質を一時的に麻痺させ、闘争心を駆り立てる。
文字通り目の色を変えたコボルトは、歯をむき出しにし、涎をダラダラと垂らしながらジリジリと俺に近付き始めた。直後、俺が開拓村とは異なる方向――浅瀬の境界に沿って走り始めると、狂暴な鳴き声を上げてコボルトが俺を追いかけ始める。
「バウッ! バウッ!」
基本的にコボルトからは逃げ切れないと思った方が良い。
特に匂い消しをしていない今の状態だと、俺の体からは美味しそうな料理の匂いが染みついているだろうから、いくら俺が狩人だとしても逃げきれない。
かといって足で引き離そうにも、森の中で有利に働くのはコボルトの
おまけにコボルトは二足歩行も四足歩行も可能なので、機動力はポイズンバタフライの比にならない。
「――シッ!!」
「ギャッ――!?」
腰のポーチから投げナイフを取り出すと、俺を追ってくる群れに
真っ黒に塗られたナイフは、暗闇に紛れてコボルトの眉間に突き刺さった。――残りは一六体。
運よく先頭を走る一体に刺さったからか、糸が切れたように倒れた先頭のコボルトに巻き込まれる形で五、六体のコボルトが転倒する。
今がチャンスだ。
一旦逃走を止めると、弓と矢が痛むのを承知で矢筒から一度に三本の矢を取り出して、弓に
「キャウンッ!?」
「ギィッ――」
倒れたコボルトを乗り越えようと、減速したコボルト二体に矢が命中した。
残り一四体。
最後の煙玉を投げて、コボルトが苦しんでいる間に距離を取る。
そろそろ『アックス』と『リュミエール』は開拓村に戻れた頃だろうか。今からアデライトたちが救援にやってくるまで、最低でも五分はかかる。
矢は残り五本。
百発百中だったとしても、コボルトは九体も残る計算になる。使いどころは慎重に見極めなければならない。
「はぁ、はぁっ……すぅーーーっ」
深く息を吸うことで乱れ始めた息を整えて、周囲に視線を走らせた。ここから先は獣道が途切れている。それにあまり開拓村から離れすぎるのも良くない……か。
大丈夫、体の
「ワンッ! ワゥゥゥン!!」
匂いを追って森の奥からコボルトが近付いてくる。
再び投げナイフで一体を仕留め、これで一三体。すでに群れの三分の一が倒されたというのに、狂暴化したコボルトは見境なく襲いかかってくる。
「ハァッ!」
腰に吊るしていたショートソードに手をかけ、目の前で飛び上がったコボルトの喉を
残り一二体。
その間に、俺の背後にも小さな気配を感じ取った。
とうとう後ろにも回り込まれてしまったのだ。犬のような体のコボルトは、集団で狩りを行う。
俺は最小限の防具しかつけていないから、コボルトの牙や手に持った木の棒で攻撃を受けるのは非情に不味い。ジリジリと、包囲の輪が狭まっていく。
「ギャァァァッ!」
涎を垂らし、今か今かと機会を窺っていたコボルトは、一体が飛び込んだのと同時に飛びかかってきた。俺は正面に突っ込む――フリをしてわずかに動き出しが遅かったコボルトへショートソードを突き刺す。これで一一体。
顔面が泥に
仕方がないのでショートソードの柄から手を離して包囲を抜ける。
ポーチの中には投げナイフが一本と、簡易のポーションが一つ。
先ほど来た道を引き返しながら、脳内で手持ちの道具とコボルトの生き残りを計算するが、ショートソードを失ったからこれで全て倒しきるのは不可。ビュウビュウと風を切る俺の耳が、カサリと小さな
俺が走り去った後、目を真っ赤に染めながら折って来たコボルトの一番後ろを走る個体に額にトスンッと矢が突き刺さる。残り一〇体、半分だ。
コボルトは砂を巻き上げながら崩れ落ちるが、群れは仲間が減ったことに気付かない。倒しても感情を表すにすることはない……クロエも成長したな。
「……フッ! さすがは俺が鍛えた弟子たちだ。随分と早かったな」
「レオ、大丈夫!?」
俺が仕留めたポイズンバタフライを飛び越えると、そこにはクロエを除いた『クロー』と、アデライトが居た。心配するようにアデライトが抱き着いてくるが、今はそんなことをしている場合ではない。
「離れてくれアデライト、すぐにコボルトが来る」
「大丈夫です、レオさん! 俺たちがどれだけ強くなったか、そこで見ていてください!!」
エリクがそう言うものの、やはり心配なのは心配だ。
今まで日帰りの依頼しか受けていない『クロー』は、暗がりでの戦いには慣れていないはずだから。
次の更新予定
追放された狩人、お節介焼いてたら愛が重たい美少女たちに囲まれて大変なことになった。 さこここ @sakokoko
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