第43話 冒険者ギルド支部
「まず、この村にはまだ冒険者ギルドがない。これが一番の問題なんだ」
「そうなんですか……」
「ああ。クロエに質問だが『クロー』が魔物を討伐したら、どこに持って行く?」
「冒険者ギルドですね――あっ」
何かに気付いたように、ハッと目を丸くするクロエ。
対してエリクとエミリアンは何が問題なのか未だに気付いた様子はない。
「エリク、エミリアン。冒険者ギルドがないと……討伐した魔物はどうなると思う?」
「えー、ギルドが無かったらどうにもならないだろ? うーん……」
「ぼ、僕は持って帰らないと思います! お、お金にならないから!」
うんうんと考え込むエリクに対して、エミリアンの答えは実にシンプルだ。その通り、今は魔物を討伐してもお金にならない。
これが問題で、冒険者は討伐した魔物を換金して収入を得るのだが、現状はアルフォンスの依頼のみで収入を得ている状態なのだ。
これは非常によろしくない。
というのも、アルフォンスの依頼というのは通常の護衛依頼と同じく、報酬が固定されている形式でたとえ冒険者パーティーがどれほど魔物を討伐したとしても、一体も魔物を討伐しない冒険者パーティーと同じ額、報酬が至急されるのだ。
かといって出来高制にすると、安定して冒険者を雇えないし魔物を巡って冒険者同士が争いを起こす可能性もあるだけに、一概にアルフォンスの依頼が悪手だとは言えない。
「そうだな……例えばエリクが働き者で、危険な森でゴブリンを一〇体倒したとしよう」
「お、おう」
「だけど、俺は森にも行かず村でダラダラしてるだけ。それで毎月もらえる報酬は一緒だったらどう思う?」
「俺は頑張ったのに、どうしてお前は頑張ってないんだ……ってムカつくかも」
そう、それと同じなんだよ。
今、この村には冒険者が六パーティーいる。人数にすればだいたい三〇人くらいだ。その内、この村で真面目に魔物を討伐しているパーティーは四つ。残りの二つは村の護衛と称して森に近付こうとすらしていないそう。
そういう意味で、監督役を村に常駐させていなかったセリエール家の失態と言えるだろう。
レイモンの話では、年明けまでに冒険者ギルドの職員が派遣されてくるという話だったが、すでに不満は溜まりつつあるということだ。
するとクロエが不思議そうに問いかけてきた。
「……でも、その人たちはアルフォンス様から依頼を受けたんですよね?」
「世の中には、お金さえもらえればどれだけ他人に迷惑をかけても良い――と思っている連中がいることは覚えておいた方が良い」
「そんな…………」
クロエを始め、ロンブリエールしか知らない『クロー』の面々は、衝撃を受けたように黙り込んでしまった。
だが、いずれは知ることになっただろう。冒険者は、クロエたちが思うほど崇高な職業じゃないってことを。
「ちょうど良い機会だったのよ。私もそういう冒険者は見たことがあるわ。『クロー』がこれからどういう道を歩んでいくのかは分からないけど、そういうパーティーもいるって肝に銘じておいた方が良い」
「わ、分かりました……」
そんなこんなで一日を終え、翌日から本格的に開拓村での生活が始まった。
三日も走り込みを続ければ、レイモンたちが地面に倒れ込むことは無くなり、一週間経つ頃には『クロー』と並走できるくらいまで体力が付いた志望者たち。
「はぁっ……はぁ!」
「で、できた……やればできるものなんですね!」
休憩も挟みつつではあるが、まずまずの結果だ。
皆、体が出来上がっていることと、俺の指導役としての経験値が上がったことでかなり効率の良い滑り出しだと言えるだろう。
前世ではあり得ないことだけど、魔力のあるこの世界だと多少の無茶も通ってしまうのだ。連日のように体力を使い倒す勢いで走れば、一週間で陸上選手並みに走れるようになってしまう。
「さて、次は少し早いが武器の扱いを習得してもらおうと思う。当然、走り込みも平行して行うが」
武器を使った訓練、と聞いてレイモンたちの表情が明るくなるが、走り込みは続けると聞いて肩を落とす志望者たち。安心して欲しい。まだまだこれは序の口だから。
「えぇ!? これより上があるんですか!?」
「逆に、どうしてこれより上がないと思っているんだ?」
志望者たちが詰め寄ってくるけど、これでも短・中期間でそれなりの実戦力を養うために削りに削った上で残った必要な訓練なんだぞ。
「そ、そうだったんですか……」
「本当なら半年くらいかけて訓練したいんだけど、冒険者ギルドの支部ができたら、早々にEランク冒険者として経験を積んでもらわないと間に合いそうにないんだ」
今いる冒険者たちが村を離れても、問題ないくらいには力をつけなければ命が危ないのだ。
レイモンたちには申し訳ないが、頑丈な体を最大限活用して最短距離でDランク冒険者を目指してもらう。大丈夫、死にはしない。
「あ、あはは……お手柔らかにお願いします……」
「ん~~~、無理!」
こうしてさらに一週間が過ぎ、それぞれの得意とする武器が見え始めた頃、それは起きた。
指導が終わった夕暮れ、いつも通り皆で手分けして夕飯を作っていると、外からレイモンとロベールが駆け込んできたのだ。
「た、大変ですレオさん!!」
「どうしたんですかレイモンさん?」
「それが……冒険者パーティー同士が対立しているみたいで、今も森から帰ってきていないらしいんです」
もうそろそろ日暮れだというのに、厄介なことになったものだ。
俺はアデライトとアイコンタクトを交わすと、調理を切り上げて装備を整えはじめた。
「師匠!」
「俺は大丈夫だから、クロエたちは夕飯を作っててくれ。大丈夫、すぐ戻るから」
アデライトにクロエたちの監督を任せると、俺は騒動を見たというロベールとともに村を飛び出した。
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