第三章 お節介な冒険者と隣村

第21話 朝のギルド

 俺が指導役になったことは、一瞬で町中に広まった。

 加えて俺の実績、というか経歴も暴露された……よりにもよってアルフォンスに。


 事の発端は依頼の受理が終わった後。

 アルフォンスと共に部屋を出て、ギルドのエントランスに降りた時、突然アルフォンスが冒険者に向かって話かけたのだ。


 アルフォンスは自身がこの地を治める貴族の嫡男であることや、半年後には領主としてこの地を治めることを告げた後、とんでもないことを言いだした。


「明日から、この僕――アルフォンス・セリエールの依頼を受けて、ここにいるレオが諸君の指導役となる。知っての通り、レオは優秀な冒険者だ。王都ではBランク冒険者『ノヴァ』に所属していた。加えて、ソロとしてもBランクという実力を兼ね備えている」


 ちょ、ちょちょちょ――ちょっと待て!!

 慌ててアルフォンスの話を遮ろうとしたが、脳裏に「相手は貴族だぞ?」という考えが過ぎる。ハッと我に返ったが時すでに遅し。


「おぉぉ! 聞いたかお前ら、レオのアニキはやっぱりスゲェ人だったんだ!」

「うちの婆様に聞かせてやったら腰を抜かしてひっくり返るぞ!」

「こりゃ、みんなに知らせてやんねぇとな!」


 俺の個人情報が、ドニたちにしっかりと暴露されていた。

 とびっきりのネタを手に入れたドニたちは、ニヤニヤと笑みを浮かべながらギルドから出ていったではないか。


(アルフォンス様! できれば俺のランクとかは言わないで欲しかったのですが……)


 特に理由はない。理由はないが、なんだか皆に嘘を吐いていたみたいじゃないか。高ランク冒険者だとかしこまられるのも好きじゃないし、特別扱いも望んでいない。

 アルフォンスはパチリと瞬きをした後、やれやれと呆れたように俺を見てきた。


「レオ、君の話を聞く限り、無駄に目立つことを嫌っていることは分かる。だけど、指導役として皆を指導するなら、君が凄い人だということは知ってもらっておいた方が良い」


 アルフォンスは俺の肩を叩きながら続けて言う。


「君もよく分からない冒険者に、アドバイスされるとまず怪しむしムッとするだろう?」

「それは……確かにそうですけど」


 これは必要な措置そちなんだ、とアルフォンスの目が言っている。というか、今更ではあるが、何故俺のランクや情報がバレていたのか。

 そういえば、貴族であれば冒険者ギルドに照会を掛けることで冒険者の情報を確認できる、不正の温床おんしょうになっている制度があったな……。


「はぁ……次からは何かをやるにしても、事前にお話いただければきちんとお返事しますから、今回のような強引な真似はやめていただきたいですよ」

「ははは……それはすまなかった。僕もまさか、セリエール領に君のような高ランク冒険者が居るとは思わなくてね。気付かない内に焦っていたみたいだ」


 翌日。

 なんの変哲もない一日だが、何かが変わった一日が始まった。


「おはようございます、レオさん!」

「おはよう、シャルリーヌさん」


 今日から俺は、ロンブリエール支部の指導役冒険者ということになる。ということで、初日くらいは朝からギルドに顔を出そうと思い、いつも朝早くに家を出るシャルリーヌと同じ時間に起床した。


 まだまだ人が寝ている薄暗がりの中、遠くから爽やかな風に乗って牛の鳴き声や鶏の元気な声が聞こえてくる。一瞬、俺たちの故郷であるボリュー村のことを思い出した。


「ロンブリエールの朝は、空気が心地良いでしょう?」

「ああ、俺の好きな静けさだ。穏やかで、だけど確かにここで生きているんだといういとなみを感じる……」


 軽食を取って家を出ると、自然な流れでシャルリーヌとギルドへ向かうことになった。山の向こうから太陽の光が射しこみ始めたくらいの、早朝。シャルリーヌの朝が早いのは知っていたが、まさか毎日こんなに朝早くから出勤しているのか。


「私、朝のギルドが好きなんです。ガランとしていて、今日も一日頑張るぞーって思うんですよね」

「今日からは、俺も半分ギルド職員のようなものだ。力仕事とかがあれば、手伝うから遠慮なく言ってくれ」

「本当ですレオさん!? それは……凄く助かります!」


 冒険者の指導と言っても、一日中付きっきりでやることはないだろう。今日は様子見ということで、エウリコやアシルとも協力しながら少しずつできることを増やしていく予定だ。


 他愛ない会話を楽しんでいると、物音ひとつしないギルドへと到着した。

 頑丈そうな錠前で施錠されている扉へ、シャルリーヌが胸元にぶら下げていた指輪らしきアクセサリーを押し当てると、ガチャッという音とともに錠前が外れる。


「さあ、どうぞ」

「ありがとう、シャルリーヌさん」


 シャルリーヌの手招きでギルドへ踏み入れると、そこには見慣れないギルドの姿があった。普段、冒険者がたむろするエントランスは真っ暗で人の気配が一切しない。


「おぉぉ……」


 うっすらと差し込む日の光に照らされて、埃がゆっくりと宙を舞う。

 いつもは耳障りな床も、歩く度に自分が確かにここに居るんだと教えてくれるような気すらする。

 ある種、教会のような神聖ささえただよう朝のギルドを、シャルリーヌが気に入るのも無理はない。


「ね、素晴らしいでしょう?」

「ああ……改めて、ロンブリエールの指導役となったレオだ。今日からよろしく頼む」

「受付嬢をやってます、シャルリーヌです。これからも、姉妹共々よろしくお願いしますね!」


 そう言うと、シャルリーヌはニコリと微笑んで俺の手を握ってきた。

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