第20話 セリエール領の問題とお節介

 参ったな、と言いたげにゆるゆる頭を振ったアルフォンスは、グッと表情を引き締めると俺を見つめて言う。


「さて、自己紹介も終えたところで本題に入ろう。レオ、どうか指南役としてこの町の冒険者を鍛えて欲しい」


 冒険者を鍛える。

 言い方は違うが、アシルの言っていた指導役とやることは同じだ。だが、貴族が言った場合は話が違う。

 今、この国で冒険者が不足している理由と直結しているからだ。俺は自分の表情が険しいものになるのが分かった。


 原因は、貴族による引き抜きである。国の政治体制の変化によって、大幅に権力を削がれてしまった貴族は危機感を覚えた。

 圧政を敷いて来た貴族は、私兵の数を制限されてしまったことで身の安全がおびやかされると考えたのだ。事実、民の怒りは激しく当時は何人もの貴族が民の暴動によって命を落としいる。


 そこで、自身の領内に高ランクの冒険者を招き、長期間に渡る護衛依頼を出すことで実質的に専属契約を結び、冒険者を私兵のように扱っている。

 貴族の提示する誘惑に勝てず、高難度の依頼を熟せる冒険者から将来有望な若手が次々と引き抜かれた結果、王都・地方共に機能が維持できなくなった。


 地方では田畑が魔物に荒らされ、強大な魔物によって村が壊滅し、冒険者不足の弊害が発生している。

 本来なら、ギルドが抜け道的な動きを塞がなければならないのだが、どうも動きが鈍い。

 王国サイドも地方が魔物による被害に悩んでいると分かっているため、冒険者ギルドに政治的権力的に中立の立場で運営を行うように要請を行っているがこれも大した効果がない。


 長年の貴族政治による影響で、サンクレール王国の冒険者ギルド上層部は貴族と癒着ゆちゃくし、腐敗ふはいしきっているという噂もまことしやかに語られているほどだ。


 加えて、俺が『ノヴァ』を追放された原因は恐らく、貴族による契約の打診があったから。兼ねてより、保身的な貴族に対して良いイメージを持っていなかった俺の存在は、クリストフや貴族からしてみれば、目障りだっただろう。


 ――と、以上の経緯があるため、とらえ方によってはアルフォンスのセリエール家と専属契約のような形になりかねない提案には、強い抵抗感を覚える。そんな俺の懸念をアルフォンスはお見通しだったようで、一枚の羊皮紙を差し出してきた。


「心配はいらない。あくまでもこれは冒険者ギルドを介して発注される依頼だよ。依頼の性質上、契約期間は一年と長期間となるが、契約の破棄に関する罰則は設けていない」

「なるほど……」


 手渡されたのは、通常ギルドに張り出されている依頼票だった。依頼主はアルフォンスで依頼内容は冒険者の指導、報酬もBランク冒険者の相場に収まっている。なんと言うか……凄く常識的な依頼票に見える。


「もちろん、断ってもらっても良い。できれば受けてもらいたいが……要は、これは一部の貴族が行なっているような引き抜きや専属契約ではない。そこだけは、分かってもらいたい」


 アルフォンスは念を押すように言う。その目からは、真剣に領のことを考える善良さを感じる。

 彼の言いたいことは分かった。確かに、この依頼を受けてもロンブリエールに拘束されたり依頼を破棄できないと言うことはなさぞうだ。

 すると、今まで話を聞いていたギルドマスターのエウリコが話しかけてきた。


「アルフォンス様は、私のような移民でも町へ受け入れてくれた公明正大で、真に領と民のことを考えておられるお方だ。王都に居たレオ殿が貴族を疑う気持ちは分からなくはないが、そこらの貴族とは違う」


 エウリコの言いたいことは分かる。どこの貴族が、俺と接触するためにロンブリエールの食堂に足を運ぶだろうか。アルフォンスが普通の貴族ではないのは明らかだ。


「ここ数年、ロンブリエールの周辺で魔物に襲われる件数がどんどん増えていてね、冒険者の確保は急務なんだ。だけど我がセリエール家は、王都から経験豊富な冒険者を引っ張ってこれるほど裕福ではないんだ……」


 おまけに私兵の数が制限されたから、日々のやりくりが大変でね――と、アルフォンスは困ったように苦笑いを浮かべながら言う。

 ふむ……アシルにちらりと視線を向けてみても、特に反応はない。と言うことは、エウリコの言っていることもアルフォンスの言っていることも、本当だと言うことか。


「…………分かりました。アシルさんから似たようなお話も聞いていましたし、アルフォンス様の依頼を受けましょう」

「本当かい!?」

「ええ、微力ながらロンブリエールのために力添えさせていただきます」


 そう返事をすると、アルフォンスは随分と嬉しそうに目を輝かせて、俺の手を取った。そのままブンブンと上下に振りながら言う。


「指導役、と書いてあるけどレオに期待しているのは教官のような役割じゃない。レオには普段通りに過ごしてもらって――」


 アルフォンスの話を総括すれば、俺はこの町で『お節介』を焼けば良いらしい。

 例えば、俺が採取依頼に森へ行く冒険者を見かけたとしよう。その冒険者は駆け出しで、森へ入るのに長剣を持って行こうとしていたら、声をかけてアドバイスしたり依頼に同行して森の危険をレクチャーしたり、して欲しいと言うことだ。


「もちろん、レオがBランクに至るまでに培った技術や経験なんかを教えてもらえるなら、とても嬉しいけど……それはレオの手が空いている時だけで良い」


 ふむふむ、だいぶやることがはっきりとしてきたな。

 要は、クロエにしていることを他の冒険者にもすれば良いと言うことか。これなら、俺でもできそうだ。


「では、明日からよろしく頼む」

「こちらこそ、長い目で見ていただけると助かります」


 俺は満足そうに笑みを浮かべたアルフォンスと固く握手をした。

 明日から俺は、ロンブリエールで冒険者のお節介を焼くこととなる。色々と問題はあるだろうが、俺を受け入れてくれたロンブリエールのために頑張ろうと思う。


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 これにて第二章終了です。

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