第22話 指導役レオ

 正直に言おう。

 アルフォンスが直々に公表した影響というものを、俺はめていた。


「体力的、というより精神的に疲れるな……」


 夜。

 居酒屋『カルム』のカウンターに突っ伏した俺は、隣でクスクスと笑うシャルリーヌの声を聞きながら、長いため息を吐いた。


「ふふっ、お疲れ様です。大人気でしたね?」

「ああ、ありがとう……」


 一日を終えてみて、正直な感想がこれだ。

 凄く、ものすっっっっっっっごく……疲れた。指導役という慣れない役割と言うこともあるが、例えるなら弟子が一気に何人も増えたような感じだ。


 早朝の静けさはどこへやら。

 あれは素晴らしい景色だった――と、余韻よいんひたっていた俺を襲ったのは、目を輝かせた冒険者の群れ。

 ドニたちの『ブヴールズ』、クロエたちの『クロー』、他にも細々と兼業で冒険者をしている人々が、朝から大挙してギルドに押しかけて来たのだ。


「Bランクの冒険者がいるって聞いたぞ!」

「レオのアニキ! 俺たち、アニキに一生ついていきやす!」

「師匠、今日は私たちのパーティーに指導をお願いできませんか!?」


 上から兼業冒険者、ドニ、クロエだ。

 他にも、物珍しさで門番のダールが覗きに来たり、ロンブリエールの町長だというピエールが挨拶しにきたりした。

 つまりだ、朝からギルドはちょっとしたお祭り会場の様相を呈していたのである。せっかくの良い雰囲気が台無しである。


 いつもは騒ぎを制止するアシルが、よりによって非番だったということも拍車はくしゃをかけた。俺とシャルリーヌの思いは同じだったようで、互いに苦笑いを浮かべてぎこちなくうなずき合う。


 二階で執務を始めようとしていたエウリコもたまらず、「用事の無い者は出て行けェ!!」と怒鳴りに来たほどだと言えば、どのくらいギルドが混みあっていたか想像できるだろうか。


 ・

 ・・

 ・・・


 それからしばらく。

 エウリコの登場によって用事のない者は追い出され、俺は残った冒険者へ口頭でできるアドバイスを行った。話を聞いていて分かったのが、ロンブリエールは専業の冒険者が圧倒的に少ないということ。


 そもそも、畜産が盛んな町だが若者はそれ相応に生まれている。

 異世界の平均寿命は短いから、冒険者を志す若者も少ない……というのはウソだ。ロンブリエールの人口は三〇〇〇人前後。そこそこ規模の大きな田舎町、といった感じで町を歩いていてもそれなりに子供や若者を見かける。


 もちろん、専業で冒険者をやれと言っているわけではない。むしろ、冒険者引退後のために手に職をつけておくことは大切だ。

 問題は、大半の冒険者が兼業であるが故にランク昇格ができず、魔物討伐のできないEランク冒険者であること。


 ロンブリエールの冒険者不足というのは、半分正しくて半分間違っている。

 冒険者ギルドロンブリエール支部所属の冒険者は三〇〇人前後と比較的多い。だが、Dランク以上に絞ると途端に一〇人まで落ち込んでしまう。


 足りない。

 ロンブリエールの近くにある森の面積を考えると、とてもではないが足りない。森に入る冒険者が少ないと、魔物が増える。魔物が増えると森が危険になる。森が危険になると、ますます人が森に近寄らなくなる。


 完全な負のループが完成してしまった。

 もしやここ一〇年、ずっとこんな感じだったのだろうか。頭が痛い……依頼の受理が一段落して、穏やかな空気が流れ始めた冒険者ギルド。俺はシャルリーヌに離席する旨を伝えてエウリコの下へ向かった。


「ああ、その話か……実は――」


 エウリコは淡々と、この町の現状を教えてくれた。

 今から二〇年前、エウリコが王都から左遷させんされる形でこの町のギルドマスターになった当時は、今よりも森が小さかったらしく、冒険者が少なくてもなんとかやっていけていたらしい。


 が、ここ一〇年で森が急拡大し、畜産農家が毎年かなりの被害を受け始める。

 追い打ちのような形で国内が荒れると、セリエール家の力も弱まりロンブリエールの守りが手薄になった。


 エウリコが地道に冒険者ギルドの存在をアピールしてようやく、畜産の町に冒険者という存在が根付き始め、クロエたち『クロー』という新人の冒険者が生まれ始めた――ということらしい。


「結局、二〇年かけてもこのザマだ。レオ殿がいなければクロエ嬢は殺されていただろう。改めて、感謝を……」

「もう十分いただきましたし、大丈夫ですよギルドマスター。それより、事態は思ったよりも深刻なようですね」

「確かにレオ殿の言う通りだが、セリーヌ嬢を筆頭にこの町にも冒険者の新芽が芽生えつつある。今が正念場だと、私は思うのだ。だからこそ、アルフォンス様直々にレオ殿の下へと赴かれた」


 重荷には感じないで欲しいが、と前置きをした上でエウリコは俺に頼み込んできた。


「一ギルドマスターとして不甲斐ないばかりだが、どうか、この町の冒険者たちをよろしく頼む」

「……ええ、だいぶ方向性は見えて来ましたし、未来の領主様直々の依頼です。Bランク冒険者に恥じない成果をお見せできるように頑張りますよ」


 その日は開店初日ということもあって、物珍しさから俺は引っ切り無しに対応に追われ……気付けば日が暮れていた。指導役としての初日は、怒涛どとうのように過ぎていった。


「本番は、明日からだ」


 夜、居酒屋『カルム』でシャルリーヌとお酒を堪能たんのうした俺は、頬を叩いて気合を入れたのだった。

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