第9話

焼肉の臭いから解放されたくて、帰ってすぐにお風呂へ入った。


チャポン


湯船に浸かり、目を瞑るとさっきの出来事が蘇る。


日野くんからの告白。


正直、すごく嬉しかった。

嬉しかったけど、凛のことを考えると喜びきれない自分がいるのも事実だった。


いずれこうなるかもしれないと思っていたのに、そうなった時のことなんて、これぽっちも考えていなかった。


まあ、付き合おうと言われた訳じゃないし…と、私は日野くんの気持ちと向き合うことから逃げてしまった。




横になってしばらくすると、スマートフォンが鳴った。


うっすら目を開けて、画面を確認する。


「起きてる?」


崇人からのメッセージだった。


スマホが手から滑り落ちると、音を立てて床に落ちた。


眠りかけていたはずなのに、一瞬で目が覚めた。ぎゅっとする胸を抑える。


…崇人とのこと、ちょっと忘れはじめてたのに。


思い返せば、いつもこうだった。


崇人を好きでいることをやめたいと思ったことは何度もあった。でも、その度に崇人は私の心を引き戻そうとするように連絡してくる。


返事をしたい私と返事をしたくない私で1分近く戦ったが、後者に軍配が上がった。


未読のまま、スマートフォンを充電コードに差すと、強く目を瞑った。

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