第8話

解散後、田んぼ道を一人、自転車を押して帰っていた。


街灯はほとんどなくて、本来なら真っ暗なはずの道を月明かりが優しく照らしてくれていた。


タッタッタッタッ


「相原せんぱーい!」


振り向くと、走ってくる人影が見える。


「え…わっ日野くん、どうしたの?」


「はぁはぁ…」


どれくらいの距離を走ってきたのだろう。


息を切らしている日野くんは膝に手をつき、呼吸を整えながらゆっくりと話し始めた。


「はぁ…俺、先輩と話したかったんです…。はぁ…今日それを楽しみに、打ち上げ来たんです。」


「…私も話したかったけどさ」


「けど?」


「日野くん、人気者だったから。」


すっと日野くんが顔を上げた。


月夜に照らされて見えたのは、トレードマークの可愛い笑顔ではなく、真剣な顔つきの日野くんだった。


走ってきたからなのか、頬がやけに赤い。


月明かりの下、今まで見たことのない日野くんの表情から目が離せない。


「…相原先輩って、ちょっとよく分からないです」


「分からないって、どういうこと?」


「何を考えているか、分からないです。俺と話したいっていう割には、そんな素振りも見せないし」


「いや、それは、なんていうか…」


「…俺は、相原先輩が、好きなんですよ。」


「え…」


突然の告白だった。


いや、本当は日野くんの好意に気づいていたのに、ずっと目を背けていたと思う。


言葉が出てこない私に対し、日野くんは「あーちょっといきなりでしたよね。…ごめんなさい、また連絡します」と言って、来た道を速足で戻って行った。


まるで嵐のような数分間。


遠ざかる日野くんの背中を見つめていると、ちょっぴり火照った頬を夜風が撫でた。


私はこれからどうすればいいのだろう…。


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