空気

夕日ゆうや

空気は読むものじゃない。〇〇だ

 放課後の校舎裏。

 経年劣化による古い校舎にはその歴史を刻んでいる。

 ふたりの男女が照れ臭そうに見つめ合っている。

「好きです。付き合ってください」

「……はい。喜んで」

 そのふたりに接近する俺。

「どうも!! 俺が通りますよ~ぉ!!」

 俺は男女の仲を裂くように走り抜ける。

「空気を読めよ!」


 俺は駆ける。

 ペンキを塗っているおじさんの背中にぶつかりながら。

「空気を読めよ!」

 ペンキまみれなおじさんを超えて、さらに駆ける。


 授業中の教室に入り込み、大声を上げる。

「空気を読めよ!」

 先生が声を張り詰める。

「はっ。空気は読むものじゃない。吸うものだ」

 俺はそう言い、空気を吸い込み始める。

 吸えば吸うほど、俺の腹は風船のように膨れ上がっていく。

 教室を満たしていく俺の腹。

 俺の細胞。

 俺の腹が教室を破壊し、さらに膨らんでいく。

 学校をも破壊し、なおも膨らみ続ける俺の腹。

 吸う勢いも増してくる。


 俺はいずれ世界をも包み込む。

 空気だけを吸う俺にはそれができる。

 できてしまえる。

 母の声が聞こえてくる。

 でも俺は膨らむのを止めない。

 この世界は俺の腹で押しつぶされてしまえばいい。


 俺は空気を吸い続けた。


              ~完~

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空気 夕日ゆうや @PT03wing

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