第3話 フィリアがここにいる理由


 アデルは羽を展開し、右腕に力を込める。

 フィリアから見ると、そのアデルの小さな羽は、体で隠れていて、その時は見えていなかった。

 しかしアデルの右腕に何かが起こっていると感じたフィリアは、羽を広げ、空に飛び、さらにアデルと距離を取る。


「何するつもりよ、あんた?」

「……いや、無理か」

「無理?……えっ、何、何もして来ないの?」


 空に逃げるフィリアを見た俺は、解放しようと思った力をすぐに引っ込める。

 そして近くに落ちてる石をフィリアめがけて投げまくる。


「何やってんのよ、コラ!」

「飛ばれたらなんもできねーだろ!だから降りてこーい」


 空を飛べない俺は石を投げて落とすぐらいしか、フィリアへの攻撃が思いつかなかった。


 大量の石を投げられて怒るフィリアはすぐ地上に戻り、こっちに向かって走って来る。

 そして俺の胸ぐらを掴み、怒鳴り散らしてくるのだ。


「王女に向かって石投げるって、野蛮過ぎ!どういう神経してるのよ!」

「いや、俺、空飛べねーから」

「はぁ?ほんとアンタ何者よ?……いいわ、もう攻撃しないから、ちゃんと話して。アンタのこと。ほら、早く!」


 王女と自称するフィリアの態度には腹が立ったが、これ以上この場所で暴れて欲しく無いので、自分のことを渋々フィリアに説明する。


「……へぇー、そんな人がいるのね。初めて聞いたわ。あなた変わってるわよ、やっぱり」

「変わってるとか言うなよ。気にしてるんだから」

「それもそうよね。ごめんなさい」

「お、おう」

 

 人の話も聞かずに神器ぶっ放す、癇癪かんしゃく持ちの女だなと思ってたから、素直に謝ってくるフィリアには、少し驚いた。


 そういえばフィリアは王女とか言ってたな。

 母さんからもらった本で見たことある。

 王女ってたしか偉いヤツ、だったよな?

 偉いヤツが何でこんなところにいるんだ?


「なぁ、お前……」

「フィリア!私、名前言ったよね?はぁ。もう敬語じゃないのは目をつぶるわ。歳も近そうだし。アデルだっけ?いくつ?」

「17歳だけど」

「あら、やっぱり近いわね。私も16歳なの。許してあげる。よろしく、アデル」

「ん?あ、おう、よろしく」


 無理やり手を握って和解を求めるフィリア。

 歳下が敬語いらないって言うのはおかしいと思ったが、言い返しても「王女なんだから、私!」とか言って来そう。

 だから反論は辞めておこう。

 とりあえず俺は、フィリアが何でここにいるのかを聞いてみることにする。


「誘拐されたのよ、誰がやったのかは知らないけど」

「誘拐?神器持ってて?」

「寝てたのよ!何か悪い?」


 神器持ちでありながら誘拐されたってのは、少しダサいヤツだなと思ってしまったが、口に出すとまた怒りそうなので、黙ってフィリアが誘拐された時の話を聞くことにする。


 フィリアは天国の王、ギース・ゼウス・サーヴァインの娘であり、天使の中でも使える者が少ない、神器持ちなのだ。

 神器はいろんな系統、属性に別れていて、フィリアの場合は雨魔法の神器だという。

 神器持ちの王女様というのはゴロツキから見れば高値で売れるらしい。

 なので、誘拐するのにフィリアという人物は狙い所なのである。


 前々から誘拐されそうになることが多かったフィリアは、その都度神器で撃退していたらしいのだが、今回はタイミングが悪かった。

 アースランドへ食料調達に行く天使たちを慰問いもんしていたフィリア。

 フィリアは天国とアースランドを繋ぐゲート『ウラヌス』の側で、食料調達部隊が揃うのを昼寝して待っていたんだと。

 そんなぐっすり寝ているところを誰かに拉致され、アースランドに来てしまったらしいのだ。


 寝ていたフィリアはどこかの小屋に縄で縛られ、軟禁されてしまうが、神器使いのフィリアからしてみれば、縄など捕まったうちには入らず、神器を使って脱出したのである。

 ただ、脱出したまでは良かったが、ウラヌスの場所がどこかわからないでいたので、闇雲に逃げ、たまたまボンゴ村にたどり着いたのだ。


「だから私、お腹すいちゃっつはぁぁ」

「お、おい!」


 フィリアはここまでの経緯を話し終えると、急にヘタリだした。

 無理もない、おそらく体力の限界だったのだろう。

 ここからウラヌスまでは飛んでも2日。

 飛ぶのを恐れ、走って来たとしたら、5日以上かかるはず。

 その間、飲まず食わずでここまで来たのなら、もう体力も限界だろう。


 初めて会った知らない女だが、このまま放置するのは、俺の倫理観に反する。

 村までフィリアを担ぐのは中々骨が折れるが、しょうがないか。


「……また来るよ、イルム」


 俺は出会ったばかりのフィリアを、ボンゴ村に連れて帰ることにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る