第2話 両羽の天使、フィリア


 天使たちが住んでいる『天国』

 悪魔たちが住んでいる『地獄』

 その天国と地獄の間にあるのが、今俺が生活している世界、『アースランド』である。

 自然が豊富であり、動物も数多く生息している。

 アースランドは生きるのに必要な資源が豊富な素晴らしい世界。

 天国で生活してた人はそう思っていたと、アースランドで初めて会った時のギムザは言っていた。

 天国から見れば、ここアースランドは楽園に見えてるのだろう。


 だが現実は違う。

 俺のような『現地人』やギムザのような『追放者』にとって、アースランドは、人に鬼畜な世界なのだ。

 時間の経過とともに、急激に変化する気候に気温。それに左右されて作物もうまく育たない。

 そもそも畑の土選びだって、うまくいかないことのほうが多い。未だにわかってなくて、育ててたキャベツ畑を全滅させたこともある。

 またアースランドの動物の中には、人を襲うけものだって、わんさかいる。

 追放者たちから聞いて驚いたのは、人を食べる植物はアースランドにしかいないというじゃないか。

 俺は何度食われかけたことか。

 アイツらって意外と強いし、あと臭いんだよな。


 そんな世界で俺は羽なしで生きてるんだよ。

 羽がちゃんとあるギムザたちが羨ましい。

 羽があればどこへでも飛んでいけるだろう。

 もし俺に飛べるぐらいしっかりした羽があったら……いや、何するかな?

 世界を見て回る?まだ会ったことない現地人に会いに行くとか?

 考えたけど、そっちは特に興味無いな。

 イルムと早く会えるようになるぐらいか。


 イルムに会いに行く俺は、道中暇だったから色々考えていた。アースランドとか、羽のこととか。

 ……そういえば、ギムザって、何で天国からアースランドに追放されたんだろ?

 俺はさっきやり合ってたギムザについて考えてみる。


 俺の住んでるボンゴ村は100人に満たない、天国から追放された天使たちが作った、小さな村である。

 追放者はみんな、何かしらの理由で天国を追放されてしまったのだが、お互いにその理由を聞かないのが、村での暗黙の了解。

 3年前から村に住み始めたギムザが何をしてアースランドに来たのかは、同居人の俺含め、村の誰も知らないのだ。


 知ってることはギムザが元々天国のコロシアムというところで、拳闘士をやってたという情報だけ。

 リング内で人同士で戦って地位とか名誉を得る仕事らしいが……どんな職業だよ。

 俺は拳闘士というものを100%理解してるとは言い難い。アースランドにはそんなもの無いしな。


 アースランドでそんなことをしても、金にはならない。そもそも金って概念がアースランドには存在してない、天国の考え方だ。

 アースランドでは自給自足で食っていかないといけないしな。


 だからなのか、ギムザはずっと俺とだけ、リングで戦うことを3年も続けているのだ。

 戦ってないと体も鈍るし、それにじっとしてても暇なのだろう。


 混沌の大地であるアースランドと違って、天国には楽しいことがいろいろあったらしい。

 聞くと興味はあるのだが。やっぱり俺は天国には行けない。

 羽もないし、弟も置いて行けないしな。

 俺は弟と家族2人でここに住むと決めたんだ。 あぁ、ギムザも一緒に住んでるから、家族、って言っていいのだろうか。

 ……いや、そうだよな。血の繋がりが無くても、3年一緒に住んでるなら家族って言っていいよな。

 よし! 帰ったら睨んだこと謝るか。ギムザなりに心配で言ってくれたわけだし。


 そんなことを思いながら30分ほど歩き、俺はイルムのいる川に到着する。

 するとそこにはボンゴ村では見かけない、綺麗な格好をした少女が、川の側にある氷塊の前に座り込んでいた。


「誰だ、お前。そこで何してる!」

「はひ!?」


 俺は急いで駆け寄り、少女に声をかける。

 少女は急に声をかけられ、警戒してか、俺から距離をとる。


「誰ですか、あなたは!?」

「誰って。俺が聞いて……」

「答えなさい!」

「なんだよ……俺は、アデル」


 俺の質問には答えず、逆に高圧的な態度で、少女は質問してくる。

 その押しに負けて、先に名乗ってしまった。


「そうですか。ではアデル、あなたの目的は何ですか?」


 目的? 急になんだよ。俺はただ、知らないヤツが何かしてそうだったから、声かけただけなんだが。

 にしてもコイツ、かなり警戒してるな。

 普通逆じゃねーか?

 お前だよな、怪しいよそ者は。

 変なことしてないなら放置しようと思ってたけど、なんか怪しいんだよな。


「目的は、えっと、お前が変なことしてないかを確認しに来ただけで」

「私にお前ですって! 死刑! あなた死刑ですわ!」

「死刑ってお前……は?おまっ、待っ!?」


 目的を言ってやったが、変なところが気になる少女。

 俺に対して急な死刑宣告をする。

 何を言ってるんだ? と思った矢先、俺の体は宙を舞っていた。

 少女は水の塊を作り出し、俺にぶつけて来たのだ。


 いてて、マジでなんだよ。

 急に水が出てきたぞ。

 もしかして……この子も『神器使い』か?


 体を起こし、少女の手のひらに浮かぶ、小さな水の塊を見る。

 何か道具を使ってるわけではない。

 それに現在の少女は、2枚の白くて大きな羽を展開している。

 おそらく神器で攻撃されたのだろう。


「お前、神器使いだな?いきなり何すんだ!」

 少女に確認する。

 神に選ばれた者にしか使えないとされる能力『神器』は、使う際には羽を展開しなくてはならない。

 彼女が神器使いなら、多分属性は『雨』

 まだ攻撃して来るなら、こっちも対応しなくちゃな。


「またお前って。私の名前はフィリア・ゼウス・サーヴァインよ! ちゃんとフィリア様と呼びなさい!」


 お前呼ばわりされたのに怒り、フィリアは自分の名を明かすと同時に、水の塊をまた俺目掛けて飛ばしてくる。


「そっちがそう来るなら、俺だって!」


 フィリアの攻撃に対抗するため、ギムザにも見せたことがない力を、俺は解放する。

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