第2話冒険者ギルド

街に入ると、意外にも建物の大きさはさほどでもないことに気づいた。

「思ったより普通だな……」と呟きながら、俺はキョロキョロと周囲を見渡した。


「じゃあ、ファー……いや、ファースト。あれが冒険者ギルドだな。俺はこれから店に戻るが、しっかりやれよ!」イロスおじさんが笑いながら指をさす。


「ありがとう、おじさん。じゃあ、またね」


「おう、しっかりやれよ!そのうち、何か仕事を頼むかもしれん!そん時はよろしくな!」


笑いながら馬車と一緒に街中へと進み、イロスおじさんは去っていった。

俺は見送りながら、「道って意外と広いんだな。なんで馬車に乗らないんだろ?」と、どうでもいいことを考えていた。


そんなことよりギルドだ。ギルド。

早々に登録を済ませて、宿を探さないと。


ギルドの建物は、木造ながらも重厚感があり、堂々とした佇まいを見せている。

見上げると二階建てで、入り口には冒険者らしき人たちがちらほら出入りしているのが見えた。


冒険者ギルドに向かおうと歩みを始めると、同じようにギルドに向かう集団がいた。

その中に、俺と同じくらいの年頃で、目を引くほど整った顔立ちの少年がいた。

彼は一瞬こちらに視線を向けると、「フンッ」と鼻で笑って、何事もなかったかのようにスタスタと歩き去った。


「なんだ、アレ?冒険者のパーティーみたいだったけど、俺なんかしたかな」


「ああ、あれは最近名前を挙げてきたパーティーだね。名前は何だっけかな?」


「アーネスさん、びっくりするじゃないですか。いたんですね」


「悪いな、つい気になってしまってさ。ほら、君って……どう見ても初めて街に来た“おのぼりさん”って感じだろ?」


すいませんね。こちらは間違いなく田舎者ですよ。


「で、なんですか?あの人たち」


「ああ、君も冒険者になろうとしているんだから、依頼を受けて討伐とか行く事もあるだろ。中にはああやってパーティーを組んで討伐に行く人もいるんだ。で、あれは最近魔物の討伐でそこそこ名前を知られているパーティーさ」


「なんで、俺を見て鼻で笑われたのかな?」


「そりゃー、田舎者丸出しの子供がいたらそうなるでしょ。実際、僕も心配で見に来たくらいなんだから」


はーっと深いため息をついて肩を落とす俺。


そりゃそうだけど。いや、アーネスさんがいい人だってのもわかるけど、そうストレートに言われるとへこむな。


さっきのは同じくらいの年の子供が冒険者ギルドに行こうとしてるから、牽制されたってことか?

まぁ、気にしても仕方ないな。ここまで来たら行くしかないんだから。


アーネスさんに挨拶をしてギルドの入り口に向かう。

この季節は入り口は開け放たれているのか、中が見えていた。

俺は意を決して中に入る。


雰囲気に圧倒されたのか、ギルドの中は外から見るより大きく感じる。

パラパラとだが人がいるようだ。昼だからそんなに人がいないのかな?


キョロキョロと見回して受付っぽいカウンターのあるところに向かう。


受付のお姉さんは後ろを向いて、何か事務処理をしていたようなので声をかけた。


「すいません。冒険者登録したいんですけど。ここが受付でしょうか?」


「はーい、いらっしゃいませ!ここが受付で合ってますよ」


振り向いたお姉さんは、柔らかい笑顔を浮かべたそこそこの美人だった。

その軽いノリに少し面食らった俺だが、なんとなく親しみやすさを感じる。


ちょっと面食らった表情を見せる俺に向かって、お姉さんは話を続けてくれた。


「新人冒険者の登録ですか?身分証はお持ちでしょうか?記載していただく書類がございますので、少々お待ちくださいねー」


「あ、はい。お願いします」


合ってたみたいだ。よしよし。


「ああ、もう我慢できない!ちょっと言ってくる!!」


「おい、ほっとけ。自己責任がこの世界の常識だろうが。お節介にもほどがあるぞ。自重しろ、自重」


「だって、あんな小さな子が登録しようとしてるのよ!このまま無視するって言うの!」


「だから、自己責任だって言ってるだろ」


なんか後ろから聞こえてくる。騒がしいな、なんかトラブルだろうか?


声からすると女の子のようだけど女の子なんかいたっけ?


「ちょっと、あなた。悪いこと言わないから、冒険者なんてやめておうちに帰りなさい!」


俺の肩に手をかけて、家に帰れと頭ごなしに言われた。


俺は振り向いて「え、俺?」みたいなしぐさをして、キョロキョロととぼけてみせた。


正直めんどくさい。こういうのほんとにあるんですね。なんかの間違いじゃないですかね。


「そう、あなたよ、あなた。もう一度言うわ、悪いこと言わないわ、あなたみたいな子供は冒険者なんてやめておうちに帰りなさい!」


そいつは頭ごなしに言い放つ。


なんだ、こいつも子供じゃないか。ちょっとカチンときたので少し言い返してみることにする。


「お前も冒険者だろ。見た感じ同じくらいの年頃なんだし、別にいいじゃないか!」


よくみると、こいつかよ。ギルドの前で俺を鼻で笑ったやつ。なんだ、こいつ女だったのか。よくみるとかわいいじゃないか。


「今、どうせ『女のくせに』とか思ったんでしょ!でもこう見えて、私はかなり強いのよ!」

「いや、別に女だからどうとか思ってないし。それに、強いとかどうとか……俺には関係ないな。だって俺はこれから強くなるんだから」


「だーかーらー、強くなる前に死ぬって言ってんの!」


言ってねーよ!なんだ、この女、めんどくさいな。助けてギルドのおねーさん。


カウンターの方に振り向くと、ギルドのお姉さんはニコニコと笑みをたたえたまま、こちらを眺めていただけだった。


あれ、助けてくれない感じなの。どうすりゃいいんだ、これ。こいつを何とかしないと登録できないとかいうテストなのか、これ?


「おう、悪いな坊主。こいつの悪い癖なんだ。根はいい奴なんだが、どうにも言葉が足りんでな。迷惑かけたな」


「ちょっと、ダーレス!離してよ!ほっとけないでしょ!!!」


なんかよくわからん奴は、ダーレスとかいうイケメンおっさんに引きずられて席に座らされていた。


まだギャーギャー言ってるみたいだが。


どうやらギルドのお姉さんが目くばせで、ダーレスって人に合図してくれていたようだ。ヒヤヒヤするじゃないか。


「こちらが書類になります。文字は書けますか?」


「あ、はい」


「では、お願いします。あちらのテーブルで記入して、できたらお持ちください」


テーブルに移動して書類に記載していく。意外と簡単な情報だけなのね。


「書けました。お願いします」


「はい、ありがとうございます。うん。大丈夫ですね。年は15歳ですか。特記事項は無しと」


「では、ギルドの仕組みについてお話します。こちらがギルドの登録証になります。無くさないように。そのまま身分証としても使えます。


なくした場合は、再発行には銀貨5枚がかかります。正直、かなり高額なので、くれぐれも無くさないようお気を付けくださいね。個人の認証もしてありますが、完璧ではないので盗難にはお気を付けください。


ランクはG級となります。あちらに依頼ボードがあります。討伐依頼はG級まで、それとF級の依頼が受けられます。


調査や探索依頼は討伐も含まれますのでG級までになります。パーティーを組む場合は平均のランクになりますのでお気を付けください。ランクは規定数の依頼クリアと試験によって昇級します」


「はい、わかりました」


長いけど、まぁ事前に予習していたのでわかる。高いんだな、登録証。そりゃそうか、住民票みたいなもんだしな。


「あと、討伐で得た素材はギルドで買取いたします。個人で売買してもいいですが、トラブル時はギルドは介入できません。ギルドもそれなりの相場で買い取らせては頂いておりますので、できれば個人はやめた方がいいですね。


ギルドは討伐素材の仲介で利益を出している面もありますので、ギルドランクの評価にも影響いたします」


「了解です。個人的な依頼以外はギルドに卸すようにします」


「お願いいたします。ただ、個人での依頼はできるだけ避けてギルドを通してくださいね」


お姉さんがニコッと笑ってるのがちょっと怖いんだけど。


「では、これで登録は終了しました。依頼ボードはあちらですので、自分に合った依頼を探してみてください。評判が上がればギルドから指名依頼もありますので、頑張ってくださいね」


「はい、頑張ります。あの、パーティーの斡旋とかはないんですか?」


だっていきなり一人で冒険とか怖いじゃないか。田舎もんだし、そこらへん救済措置みたいなのはないんですか。


「申し訳ありませんが、パーティーに関してはご自身で何とかしていただくしか。一人で活動されている方も多いですし」


「そうですか。わかりました」


しばらくは一人で何とかするしかないかな。


「ありがとうございました。これからよろしくお願いします」


「はい。頑張ってくださいね。期待しています」


その笑顔がなんだかビジネスライクに見えた。いや、仕事なんだもの、そりゃそうか。


ちょっとした高揚感と、がっかり感を混ぜたような複雑な顔をしながらギルドを後にする。


え、依頼?いや、初日から頑張るとろくなことないよ。まずは宿で、依頼は明日からにしよう。


そう思いながらギルドを出たその瞬間――目の前には、先ほどの気の強そうな少女が仁王立ちで俺を待ち構えていた。

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