よくある冒険譚~イカレタ師匠は転生者?無理難題は勘弁して下さい~
@hirotayua
序章
第1話始まり
「あれがベルファスか……。聞いていたよりも、ずっと大きいな」
馬車の揺れに身を任せながら、俺は遠くに見える巨大な壁をじっと見つめた。師匠に、またからかわれたのだろうか?
街に近づくにつれて、その巨大な壁は一層際立ち、俺の気持ちも高揚していく。
「これから、この街で暮らすのか」
期待と不安が入り混じり、胸がざわつく。都会での生活への期待が大きい分、今まで暮らしてきた村とのギャップが大きいのではないかと、不安になる。いてもたってもいられず、懐に手を伸ばし、財布を確認する。
中には、家の手伝いで少しずつ貯めた金と、両親の餞別。そして、「気持ちだ」と師匠がくれた、意外とまとまった金も入っている。このお金があれば、しばらくは何とかなるだろう。だが、このお金が尽きた時、俺は、どうなっているのだろうか。不安が、期待を上回る。
知り合いの行商人、イロスのおじさんの厚意に甘え、ここまで乗せてもらった馬車も、ここでお別れか。
ベルファスは、この近辺ではそれなりに大きな街だ。周辺の街を繋ぐ交易の中間点のような立ち位置で、人の往来はかなり多い。行き来する人も多いが、住んでいる人もそれなりに多い。初めて地元の村から出てきた俺は、どれくらいの人口がいるかは知らないが、とにかく多いらしい。あとで誰かに聞いておくかな。
「ファー坊、そんなに遠くはなかったが、泊まりがけの旅なんて初めてだろう?辛くなかったか?」
「おじさん、“ファー坊”はやめてよ。これでも一応、大人になったんだからさ」
「まだ15歳なんて子供のうちだ。どうだ、冒険者なんて考えやめて、親父さんのあとでも継いで、おじさんにいい作物でもおろしてくれんか?」
「俺なんてどうせやっかい者扱いだよ。うちには兄さんがいるもの。商売のことなら父さんと兄さんに頼んでよ。次男より下は農地を自分で開拓するしかないないんだぜ。だったら冒険するのとそんなに変わらないじゃないか」
「そうは言ってもなぁ。見ただろお前の母ちゃんのあの泣きそうな顔。あんな顔しながら『ファースト、いつでも帰ってきていいのよ』とか言ってるの見たら、俺も子供のこと思い出しちまってなぁ・・」
おじさんは少し涙ぐみながら、そのあとも俺に考え直さないかと話をする。
愛想笑いを返しながらおじさんの話を流していたが、家族の顔を思い出してしまった。だめだな。少し気持ちを引き締めなきゃ。
「しかし、ファー坊が冒険者か。俺もそういった夢を見て家を出て行ったやつをそれなりに見てきたが、そう甘いもんじゃねえぞ。辛かったら動けなくなる怪我する前に家に帰るんだな。
それと、何かあったら俺のところに来い。俺もお前とこの親父と長い付き合いだから悪いようにはしねえ。この街を拠点に商売を続けているから、いつでも頼ってきな。危ない橋以外なら力になってやるからさ」
「ありがとうイロスおじさん。なんかあったらその時は頼るよ。
で、さっそくなんだけど。やっぱりさ、最初は冒険者ギルド?ってところに行って登録とかするの?」
「こりゃ先が思いやられるじゃねえか。ああそうだな。街によって呼び方は違うかもしれんが、それで合ってる。何か仕事を紹介してもらうにしても窓口は必要だ。冒険者ギルドに登録しといて間違いはない」
「どこにあるのかな?」
「入ってすぐにあるぞ。街の入り口にある方が冒険者の出入りにも便利だし。不審者の選別や何かしらの危険にも対処しやすいからな。だいたい町の入り口付近にある」
「ありがと。それじゃ、まずはそこに行ってみる」
「ああ、そうしろ。なんにしろまずはそこで登録してからだな。それから宿だ。お前さんは宿は決めてあるのかい?」
「いや、街自体初めてだからまだ決めてない」
「そうか。ファー坊、あんまり安すぎるところはやめとけよ。宿に泊まってる中には、危ないやつもいるからな」
「わかった。そうするよ」
話しているうちに街の門が目の前まで迫ってきた。壁が大きいわりに門は小さいみたいだ。
「行商人をしているイロスです。クリークの村まで行って戻ってきたところです。こいつはファースト。知り合いの息子なんだが、冒険者をしたいっていうんで、こいつの親父さんに頼まれてここまで乗せてきました」
イロスおじさんが門の守備兵らしき人に声をかける。
「やあ、イロスさん!お帰りなさい。商売の方はどうでした?もし美味しそうなものでも手に入ったなら、ちょっとだけ分けてもらえませんか?もちろん、ちゃんとお金は払いますよ」
「おいおいアーネス。せっかく新人の冒険者を連れてきたんだから、最初くらい格好つけさせてやろうとしたのに台無しじゃねえか」
「はは、ごめんごめん。イロスさんに会ったのがうれしくって、ついね。で、その子が冒険者になりたいって子?」
「ああ、ファーストってんだよろしくな」
おじさんがポンっと俺の背を叩く。え、俺も挨拶するの?
「は、ファーストといいます!よ、よろしくお願いします!」
突然声をかけられるなんて、ちょっと緊張するじゃないか。俺はただの田舎者なんだぞ……。
「ああ、よろしく。この街の守備兵をしているアーネスだよ。よろしくね。僕も昔は冒険者にあこがれてこの街に来たんだけど。いつの間にかこんな感じさ。まぁこの仕事の方がなんかしっくりきてるけどね」
人の良さそうな笑顔を見せながら守備兵のアーネスさんは、じろじろを俺を上から下まで見ていた。ゆるそうな人だけど、仕事はきっちりとやるタイプの人みたい。
「イロスさんの知り合いだから、たぶん大丈夫だろうけど。一応職務なんで質問させてもらえるかい?」
「はい、わかりました」
なんだろう?目標とかかな?
「名前は?」
急に鋭い目つきになり厳しい口調でアーネスさんが問いただしてきた。
「ファーストです」
「身分を証明するものはありますか?」
「はい、これが村の役所からもらったものです」
慌ててポケットから出立前に村の役場で貰った書類を出す。
「ふむ、本物だね。来訪目的はなにかな?」
書式かなんかを見たんだろうか?
「冒険者になろうと思って・・・」
「なぜ、この街を?もっと大きな街はあるはずだけど?」
「ここが近かったからです。まずは力を試したいと・・・」
くそ、歯切れ悪いな俺。
「なるほど、わかりました。街に入るのを認めましょう」
「あ、ありがとうございます」
「ごめんね。一応最初だから厳しくさせてもらったよ。でもほかの街だと知り合いもいないと思うからもっと厳しいと思う。勘弁してね。これでもだいぶ緩くしたんだからさ」
「いえ、ありがとうございます」
こっちは冷や汗出るっての。でもまぁいい経験させてもらった。やっぱ魔物もいるし戦争もあるみたいだからそういうもんなのかな。
「じゃ、手続きはこれで終わりだから。頑張ってね」
手をひらひらさせながらアーネスさんが見送ってくれる。
俺はおじさんと馬車と一緒に街に入っていくのであった。
さ、まずは冒険者ギルドってとこだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます