第3話おせっかい

「待ってたわよ!」

突然の声に振り向くと、そこには冒険者ギルドで騒がしかったあの女の子が仁王立ちしていた。

普通、女の子に話しかけられるのは嬉しいはずなのに……こういうのは全然嬉しくない。助けてくれ、ダーレスさん!


「すまんな。言っても聞かんので、ちょっとだけ話に付き合ってくれねぇか、坊主」

頼みのダーレスさんも諦めた感じで、片手をあげて頼む仕草をしてくる。


「ちょっと、ダーレス。私はこの子のためを思って話をするって言ってるのよ。それじゃあ、私がなんか迷惑かけてるみたいじゃない!!」

いや、実際迷惑なんですけど。


ダーレスさん以外のパーティーメンバーはというと、ギルドの横にある酒場に向かって行くところであった。ダーレスさん、お察しします。


「で、何なんだよ。俺、もう登録も終わったし、一応立派な冒険者なんだけど。“先輩”が俺に何を教えてくれるのか、聞かせてもらおうじゃないか!」

ちょっときつい言い方だったかな。でも絡まれてるんだし。俺もこれから冒険者としてやっていくんだから、これくらい押しが強くないとね。と思う。たぶん。


「あんた、冒険者になって何するのよ?」


「えーっと、冒険とか?」


「あっきれた、なによそれ!なんも考えてないじゃない!どうせ農民の三男か四男ってとこでしょ。武器はどこ?何使うの?」


「え、えーっと。これから買おうかなっと……」


「信じられない!その調子じゃまともに武器を使ったこともないんでしょ!バカなの!?死ぬの!?」


「うるせーな!俺の勝手だろ!武器屋にも明日行く予定だよ!ほっといてくれよ!」

なにこれ、泣きそうなんですけど。


実際武器は持っていない。地元では木剣で練習とかはしてたよ。自警団もあったし。盗賊も来ることもあるから。


魔物や盗賊は大人の自警団が相手するんだけどね。


「はぁ、呆れた。マジで死に急ぎの田舎もんだわ、あんた」

うるさい女はブツブツと言いながらゴソゴソと荷物を探り出した。


「もう行っていーすか?」

チラッとダーレスさんを見て確認する。


その時、駆けだしそうな俺の手を、女が右手で掴んだ。そして左手でショートソードを出しながら俺を見た。


えっ!なにこれ!刺されるの俺?!こんなとこで終わるの?!


「ぎゃー、ささ……」


「待ちなさい。これあげるから!」


「え?!んん?なんで?刺されないの?俺?」


「バカ!刺すわけないでしょ!!あげるって言ってるじゃない」

いや、先に言ってよ。てっきり殺られると思ったじゃないか。


「いや、貰う意味わかんないし。怖いし。知らない人から物貰うなって言われたし」


「もー!!子供かあんたは!やっぱり田舎に帰れ!」


「まあ、坊主。貰ってやってくれよ」

ダーレスさんが肩をすくめながら、ため息交じりに割って入った。


「特に業物ってわけでもない。こいつのお古になるショートソードなんだが、こいつも駆け出しの頃、ベテラン冒険者にその剣を譲ってもらったんだ。もう新しい剣はあるし、それならってことだと思うぜ。ちなみにそのベテラン冒険者ってのは俺のことなんだがな」

ニカっと笑いながらダーレスさんは頭を掻いて話した。


「まぁ、坊主もなんとなくわかると思うが。心配なんだろ、要するに。貰って困るもんじゃなかったら貰ってやってくれや」


「はぁ。ダーレスさんがそう言われるなら」


「なんでダーレスの言うことなら素直に聞くのよ!?あげるのは私でしょ!?」

いや、そりゃそーだろ。あんたは圧倒的に言葉が足りん。というかめんどくさい。


ま、これ貰ってお終いになるならそれでいいか。そんな軽い気持ちで貰うことにした。


「じゃ、頑張んなさいよ!」


「すまんな、坊主。俺たちはだいたい夕方にはあそこの酒場で一杯やってる。なんかあったら話でもしに来な。頑張れよ!」

嵐のように騒がしい女は、ダーレスさんにまたも引きずられ、ギャーギャー言いながら去っていった。なんだったんだ、あれ?


「あ、しまった。お礼言ってない。名前も言ってないしどうしよ」

今更、顔を出しに酒場に行くのもまたあの女に絡まれそうだし。同じ街の冒険者だから会うこともあるだろうから、その時でいいか。


「うーん、夕方になっちゃったな。今から宿探せるかな?」

ぶらぶら歩きながら宿屋を探す。探すといっても宿屋は一か所にまとまっているので、一軒ずつ聞いてみりゃいいか。


イロスおじさんに言われた通り、最安の宿は避けた。下から二番目の宿になんとか部屋を取って、荷物を片付けている俺。宿の部屋は一泊銅貨三枚。長期宿泊だと少し割引が効いて銅貨二枚と銭貨五枚になるらしい。ちなみに、冒険者の平均日当が銅貨三枚だから、これは結構高い出費だ。


この街の通貨は、銭貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、といった具合に繰り上がる仕組みだ。俺みたいな駆け出し冒険者が目にするのはせいぜい銅貨や銀貨までで、白金貨なんて一生縁のない代物だろう。


G級の街中の依頼で銅貨一枚か多くて二枚程度。なれた冒険者は複数の依頼を同時にこなすのが普通らしい。


草引きしながら薬草集めとか。そんな感じで、ギルドもだいたいセットで募集してくれている。そうじゃないと冒険者やる意味ないしね。


でも低級は依頼料が安いな。早くランク上げたいなぁ。


ふとあの女、いや剣貰ったんだしあの子でいいか。根は悪くなさそうだけど、めんどくさい女の子。あの子からもらった剣を見てみる。


ん?なんか彫ってあるぞ。名前かな?ユ、ユリ?ユリシー?


剣の柄には何やら名前らしきものが彫られている。「ユリ……ユリシー?」少しかすれていて見づらいが、どうやら彼女の名前らしい。


名前彫るくらいだからよっぽど気にいった剣なんだろう。いいのかな本当にもらっても?やっぱ返した方がいいのかな?


ま、それもまた会った時に聞けばいいか。あれだけうるさいんだからすぐ会えるだろ。


そろそろ食事の時間だな。さ、メシ食ってさっさと寝るか。


明日は朝一でギルドに行って、依頼を探さないといけないな。宿の親父さん曰く、ギルドの依頼は朝七時の開館と同時に張り出されるらしい。人気の依頼はすぐに埋まるというから、のんびりしてはいられない。街中の依頼専門にして効率よく稼いでる人もいるみたい。


悩んでいるうちにすぐになくなってしまうかもしれない。


夕食のシチューと硬めのパンを食べる。このパンの麦はうちの麦なんだろうか?少しだけ故郷を思い出した。


いや、まだ初日だよ。ホームシックじゃないからな。そういやあの人はどうしてるだろ?うーん、やっぱホームシックかな?


さ、体も拭いたしぼちぼち寝ますか。風呂?そんな気の利いたものはこの宿にはない。


銭湯も街にはあるらしいがそこそこ高いらしい。銅貨二枚だったかな?なのでみんな一週間に一回程度。俺もそれくらいにするつもり。


いつかは温泉にも行ってたいな。なんてぼんやり思いつつ、ごわごわしたシーツとガタガタするベッドで眠りにつくのであった。




設定

銭貨10枚 = 銅貨1枚(200円)

銅貨10枚 = 銀貨1枚(2,000円)

銀貨10枚 = 金貨1枚(20,000円)

金貨10枚 = 白金貨1枚(200,000円)

白金貨 = 2,000,000円


貨幣価値の具体例

庶民的な食事:銅貨数枚

一般的な宿屋の宿泊費:銅貨数枚~銀貨1枚

高品質な武器や防具:銀貨数枚~金貨

高位貴族や富豪の取引:白金貨

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